例えばの話
進行方向とは違う向きに座ったまま発車した電車にドキリとしたが、恥ずかしさが勝ったのか、逆さまに流れる風景を眺める暇もなくおもむろにズボンの後ろポケットからスマホを取り出す。
普段あまり電車に乗らないことが仇となった。
最後尾に座ったと思いきや進む方向が逆なので気づけば座席の先頭で他の乗客と顔を向かい合わせている。修学旅行のバスガイドもこんなに気まずい雰囲気で乗ってはいないよな、そんなことを考えながら。
あまりの気まずさに席を移動しようかと考えあぐねるが、間違いを認めたような形になるのもなんだか釈に思っているうちに、乗客は増え気づけば席に着けず立っている乗客まで現れはじめ身動きが取れなくなってしまった。
気を紛らわすためにスマホに手をやるがこんな時にタイミング良く連絡をくれる友人などいない事に気づき、無駄にインストールしたアプリ一覧を行ったり来たりしている。
ふと、今置かれた立場が別の人で自分が眺めている状況だったとしたら、やはり哀れなやつだと思うのだろうか?
いや、きっとこの気持ちを共有してあげられるに違いない。そう思うとおかしく思えてきた。
生憎マスクをしているので口角がナイキのマークになっていたことにはバレなかっただろう。電車の揺れに若干ほろ酔いつつも窓の外を見る。たまには恥をかくのも悪くはないかな。
後向きに進む目的地の見えない旅
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