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「不思議な薬箱を開く時・薬種・薬剤編」

いらっしゃいませ。
歴史の片隅に息づく神秘の伝統薬をご紹介致します。

「不思議な薬箱を開く時・薬種・薬剤編」へ、ようこそ。
今回は、どの様なお薬が登場致しますか。
ささ、薬店内へ、どうぞ、お入りくださいませ。

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「人面瘡治療薬法」について・2

さて、前回の予告通り、
奇病中の奇病、人面瘡の施療、投薬剤について。

今回は、主に中東方面においての薬剤をご紹介させていただきます。

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アラビアは、古来より医療技術の優れた地域でありました。
十字軍のお粗末極まる負傷者の治療(主に切断、切除)に対して、
敵国であったアラビアの医師たちは、
驚き呆れた、と、記録が残されています。
アラビアでは、
芸術や音楽だけではなく、
医療に対しても、大いに研究が成されていました。

様々な病状や、それに対処する薬剤を
細かく記録した資料は、
金銀宝石らと共に、宝物と同様の価値として、扱われていたのです。

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כואב「腫れ物」という項の中に、
מרושע במיוחד
「極めて悪質也」
「醜怪にして、苦痛に満ちた人の顔によく似る」
「奇異なる音を発する事有り」
「口の如き穴の開きたりて甘い菓子を押し込めば咀嚼するかの如く蠢く也」
「激しい痛みを伴いよく死に至る」と、記されているのが、
症状共に、人面瘡ではないか、と、されています。

この「極めて悪質な腫れ物」の対処に、
医者も薬師も、困り果てたようです。

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ナビー・テイツブ、「医療に詳しい者」として、
尊敬を集めていた宮廷医、ハルーン・ジャー・イームという男性が、
スルタンの第2王子の内腿に現れた「人面瘡」を診察し、
その不気味さに震え上がったそうです。

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ジャー・イームは、スルタンの勅命により、
「悪質な腫れ物」の治療にあたりました。

もちろん、簡単にはまいりませんで。
手に入る限りの、あらゆる資料、薬種、薬剤を掻き集め、
スルタンの宮殿が、もうひとつ建造できるほどの費用を使い、
検体としての奴隷、子供から老人まで、約300人を絶命に至らせ、
5年の月日を有した、と、記されています。

その5年の内に、
「人面瘡」は、ますます醜怪に歪んだ人の顔そのものとなり、
挙句に、小さな白い歯まで、生えてきていた、とのこと。

「ぐぅぐぅと唸り、ぐつぐつと何ぞ呟いているようにも聞ゆ。
その度、王子は激しい痛みを訴えられた」

第2王子は、「人面瘡」に痛めつけられ、
息も絶え絶えとなっていきました。

まあ、それと言いますのも、
様々な製薬剤を試薬した所為もあるかもしれませんね。

資料に残された3種の製薬法は、
ジャー・イームの書き残しますところ曰く。

「めざましき効果有り
投薬開始後、4日目にして
腫れ物は石の如く硬くなる
その後、死に絶え 
枯れて瘡蓋となり 剥がれ落ちる」

記されてある通りであれば、
「人面瘡」の治療に成功したのであろうと推測されます。

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ここで紹介いたしますのは、
3種のうちの1種、
ジャー・イーム医師の処方でございます。

では、薬種と諸注意を上げておきましょう。

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アラビア医術式 「人面瘡」治療の為の薬剤処方

トゥバーン・マディー・・・・・・・小壷一杯
ハッサーハス・・・・・・・・・・・100匹
ハサー・シフラワ・・・・・・・・・・・・・・人間の物で親指大を2個
マー・ァルシャタン・・・・・・・・大匙1程度
ルゥルゥ・・・・・・・・・・・・・2個
クァル・・・・・・・・・・・・・・小カップ1杯

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①トゥバーン・マディー
マディまたは、マディラーとは、酸乳から作られた飲み物で、
それを大蛇に飲ませ、その後吐き出した物を小壷に入れ、
色が変わるまで待った物

②ハッサーハス
ナァム(駱駝)に寄生した南京虫

③ハサー・シフラワ
人間の胆石

④マー・ァルシャタン
功績を溶かす猛毒

⑤ルゥルゥ
アラビア海の真珠

⑥クァル
ルゥルゥを溶かす為の醸造酢

諸注意
どの薬剤も時を置かず、すぐに製剤を開始する事。
ハッサーハスは、死なせてはならない。
必ず、生きているままにしておく事。
マー・ァルシャタンを取り扱う際は、奴隷を2人医師の両隣に立たせておく事。
ルゥルゥは、跡形もなく溶かす事。

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この全てを混ぜ合わせて、
「人面瘡」の口の中に流し込むのだそうです。

奴隷を2人、立たせるのは、
マー・ァルシャタン、「悪魔の水」と呼ばれる、
猛毒を扱う際、薬師の代わりに、両脇に立たせている奴隷を
悪魔の水の生贄としてしようする為だとか。
マー・ァルシャタンの製剤法でございますか?
あらまあ、物騒な。

鉄鉱石すら、溶かしてしまうと言われております。
危険極まりない猛毒ですので、
製剤者の生命も保証致しかねます。

そのうちに、ご紹介することもあるかもしれませんが、
悪魔で、いえ、あくまで自己責任ということでお願い致します。

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