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「不思議な薬箱を開く時」

こんにちは、
「不思議な薬箱を開く時」です。
生薬、自然から採取した薬剤は、
速効性はありませんが、
身体のリズムに合わせ平癒を行います。
現代人にとっては、スローペースな効果では、
仕事に差し支えがあることから、
一気に治すことを人工薬に求めますが。
不思議な薬箱に入っている薬は、
たいていが、速効性ですけれどね。
では、今日も、お薬箱を開けてみましょう。

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お薬番号・49

「全身から毛が生える薬」

どういう必要性が?
それは、耳や尻尾が生えるお薬の時にも、
お聞きしたような気がしますね。
必要は発明の母と言います。
このお薬が存在するということは?
そう、必要とされたからです。
1537年、
ハプスブルグ・ロートリンゲン家が、
統治していたオーストリア大公国の頃。
ルドルフ4世は、どういう経緯からか、
公国一と唄われた豪商、
フレデリック・レニンゲンの1人娘、
オルタンサとの間に男の子をもうけてしまいました。
いかな美しい娘とは言え、住む世界が違い過ぎます。
その上、それを知った重臣たちは、
危険なご落胤を母親共々、亡き者にしようと、
殺し屋を雇う始末。
フレデリックは、皇帝の気紛れであろうと、
せっかく授かった、たった一人の孫息子を
むざむざ殺されてなるものかと、
高名な医者であったロンフローゾ・オルゲンに、
密かに預けたのです。
ロンフローゾは、皇帝の重臣から差し向けられる殺し屋から、
男の子だけではなく、
その家族を守るためには、
病気で亡くなったとしてしまうことを勧めました。
そして、オルゲン家に伝わる秘薬で、
男の子の見た目を変えてしまうことも。
我が子、我が孫を愛するが故に、
フレデリックも、オルタンサも、
ロンフローゾ医師にすべてを任せました。
オルゲン家の薬庫には、
珍しい薬がたくさんあったとか。
その中の一つで、全身に獣のようにみっしりと、
毛が生えてしまう薬がありました。
ロンフローゾは、その薬を男の子に服用させます。
すると、全身から、美しい金色の長毛が生えてきたのです。
これでは、誰が見ても、
まず、人間にも見えませんね。
男の子は、暗殺者から逃れることができ、
とても長生きしたそうです。
オルゲン家は、1600年を最後に、
途絶えてしまいますが、膨大な薬品の資料は、
チェコの大学の図書館に所蔵されていました。
では、では、調剤料をご紹介しましょう。

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「全身から毛が生える薬」処方

ブリオニアの根汁・・・・・・・・・・・・・小匙4杯
シナモン・オイル・・・・・・・・・・・・・小匙3杯
ウルサエ・ヴェシクラ(熊の胆嚢)・・・・・・1個
シムラ・ケレブルム(猿の脳)・・・・・・・・半分
プラセンタ(胎盤)・・・・・・・・・・・・・1人分
アムニオン・ポピュルス(羊膜)・・・・・・・1人分
シミア・フォエトゥス(猿の胎児)・・・・・・1匹
毒煙草の根汁・・・・・・・・・・・・・・・小匙6杯

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諸注意
ブリオニア、シナモン・オイル、
毒煙草以外の調剤料は、鮮度が大切です。
獲り立てが一番ですね。
もちろん、熊を狩るにも、猿を狩るにも、
鉄や鉛などの金属はいけません。
素手か、木製の武器を使用してください。
根汁や精油を取るもの以外は、
しっかりと乾燥させ、粉末状にしましょう。
すべての調剤料は、きれいに混ぜ合わせてください。
玉になったりしないように注意しましょう。

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備考欄
金色のつやつやした毛が、
全身に生えてくるなんて、
よほどの事情でもない限り、
そう、命でも狙われていない限り、
望まないような気もしますが、
その毛波はとても美しく、
人によっては、毛波の色合いも、
さまざまであるそうです。
実は、このお薬を服用した彼は、
長生きしただけではなく、
美しい奥様も、可愛い子供もいたとか。
皇帝の重臣たちは、
まさか、この毛むくじゃらの男の子が、
ご落胤だとは、わからなかったようですね。
清楚で、教養も高く、品格にあふれた彼は、
ふさふさとした毛に被われていました。
基本的にお金持ちであったのも、
大いに助けとなったでしょう。
そうでなければ、見世物小屋行きですね。
現代では、そういう身体的特徴を
個性として理解しようという、
社会的な倫理があるようですから、
変身願望を満足させたり、
かなりの注目を集めることも可能です。
人にはない特異点としてアピールすれば、
有名人になれること請け合いですね。
いらなくなったら、剃れば?と、
簡単に考えていらっしゃる皆さん。
もちろん、剃っても、剃っても生えてきますとも。

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