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走れメロスな日常①「いや、まだ日は沈まぬ」編

いや、まだ日は沈まぬ。

いや、まだ日は沈まぬ!


中学校で国語を教えております、といです。

今、2年生はかの名作「走れメロス」を学習中です。
彼らにとっては古風で聞きなれないワードが中2病心をくすぐるらしく、
また教科書付属のCDに入っている橋爪功さんの音読が素晴らしいのもあって、授業中にはあちこちで「走れメロス的なワード」が聞こえてきます。

「おまえ、邪知暴虐だな!」
「『言うな!』と、オレはいきり立って反駁した」
「なんと、悪徳者として生き延びるつもりか!」などなど。

何かにつけてメロスワードを使おうとしています。
つい口に出して読みたくなるのが名作ってことですね。

メロスは激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

「走れメロス」太宰治より

「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁した。

ああ、もういっそ、悪徳者として生き延びてやろうか。


さて、そんなメロスにどっぷり浸っている彼らをほほえましく見ている私ですが、同じことをやってしまいましたよ…。


テストの採点をしているとき、急に思い出しました。

アレの締め切り、そろそろじゃなかった…?


アレとは、採用から10年目の研修の、1年間のまとめの書類。

報告書1枚と、今年度の自分の課題解決についてのレポートを一緒に提出することになっているのです。

確か2月中旬が締め切りだったような…とドキドキしながら資料をめくると…。


OH NO!「2月15日(事件当日です)までに地区教育委員会に提出」と記載されているではないですか!

うわ、ヤバい、と焦っていると、隣の席のM先生が

「あれ?とい先生、先月オレに、『締め切りそろそろですよ』って教えてくれたじゃないですか。だからオレ、もう出しましたよ。自分のはやってなかったんですかあ?(ニヤニヤ)」

ムキ―!そうなんです。隣の先生も同じような書類を提出することになっているのですが、
締切に無頓着な方なので、「準備してます?」って先月教えてあげたんですよ!

そのあといろいろが立て込んできて、自分の書類を仕上げるの忘れてました。

「ああ、わが身を殺して他人の名誉を守ってしまった…。」

あー!私も走れメロス的なワード使ってるー!

肉体の疲労回復とともに、僅かながら希望が生まれた。義務遂行の希望である。我が身を殺して、名誉を守る希望である。

「走れメロス」太宰治より


いやいや、そんなこと言ってる場合ではありません。

教育委員会への書類は8割くらいはできているのですが、校長先生に見ていただいたあと、教頭先生にお願いして教育委員会へ送ってもらわなければならないのです。
もちろん、データでなく紙で…。

「ああ、メロス様。」うめくような声が、風とともに聞こえた。

「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。

「フィロストラトスでございます。あなたのお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、だめでございます。無駄でございます。走るのはやめてください。もう、あの方をお助けになることはできません。」

「いや、まだ日は沈まぬ。」

「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。お恨み申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

「いや、まだ日は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕日ばかりを見つめていた。走るより他はない。

そうだよねメロス。
まだ日は沈まぬ。走るより他はない!

かくして私はテストの採点を放棄し、超特急(死語?)でレポートを仕上げ、
胸の張り裂ける思いで、今まさに給食を食べんとしている校長先生を捕まえ、書類に赤く大きい判を押してもらい、
教頭先生に全てを提出してミッションを遂行したのでした。

ああ、危なかった…。


結論。
急いでいるときに、メロス的なワードって似合う。

そんな、走れメロスな日常①でした。
②に続く…。

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