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夢の国から学ぶ「お客様のため(笑)」というお題目の虚しさ

「ネズミーランドって知ってる?」

付き合って3年目になる彼女からそう聞かれた。なんだ、付き合って間もないころネズミーランドは好きじゃない、なんて言ってたのに行きたくなったのか。

「当たり前じゃないか、夢の国だろ」

僕の言葉を聞いた彼女は微笑みを満面の笑みへと変えながら

「そう!それ!実態はその真逆なのに、夢の国って思われてるってすごいよね」

彼女の言葉には驚いた。夢の国、ネズミーランドは誰もが憧れる場所、笑顔と喜びがあふれる場所。僕の知る限り、日本でこれほど夢を売っている場所はない。でも、彼女から見たネズミーランドは違う。

そう、コレは僕の彼女がキレイゴトに包まれているビジネスのやり口を明らかにしていく物語。

しっかり金儲けを考えているネズミーランド

彼女は僕が疑問を抱いているのを察してか続けてこう言った。

「ね、お客様第一主義みたいな顔をして、その実態が金儲けの事ばっかりだったらどう思う?嫌じゃない?」

「そりゃ、嫌だけど」

「じゃあ、パンパンに人を入れて、混雑をさせる。それこそアトラクションに120分以上並ぶのがザラなくらいね。そうして、混雑を避けるためにお金を払えば待ち時間が短くなるって仕組み、どう思う?」

「どうって、まぁお金を払って待ち時間が短くなるなら良いんじゃない?」

僕がそういうと彼女は嬉しそうにうなずき、続けた。

「でも、そもそも混雑するくらいに人を入れなければいい話じゃない?混雑するほどに入園させておいて、待ち時間を短くしたいなら金を払え、って本当にお客様第一主義のサービスなのかな?」

今までなんの疑問も持たなかったけど、言われてみれば確かにそう思えてきた。疑問を口にする前に彼女は畳みかけてきた。

「飲食店で考えてみて。予約を沢山受け付けておいて、オペレーションが回らなくなるまで人を入れる。混雑してるから食事の提供は遅れるけど、チップを払えば優先的に提供される仕組み、どう思う?」

「どう思うって、そんな店潰れるでしょ」

「そう、潰れるの、普通はね。でもネズミーランドは違う。原価のかからないファストパスで似たようなことをやっても炎上しないどころかドンドン人気は増していくの。ちなみに、これから見せるデータはディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドの業績であってネズミーランドとは一切関係ないからね」

「え、ちょっーー」

「これが”オリエンタルランドの売上高”」

オリエンタルランドWebサイトの業績ハイライト」ページより

「いや、待ーー」

「そしてこれが営業利益。2024年3月期の決算説明会資料を読めば2024年3月期が過去最高の売上高、利益になっていることが分かるわ」

「オリエンタルランドWebサイトの業績ハイライト」ページより

ネズミーランドとは何の関係もないオリエンタルランドの業績を見せてきたが、確かに2024年3月期には売上、利益ともに過去最高になっている。

でも、何が過去最高益を生み出した要因何だろう?と疑問を抱いているのを察してか彼女は続けて、過去最高益を生んだ要因について話始めた。

2024年3月期、過去最高益を生んだ料金の値上げについて

「決算資料に全部書いてあるけど、過去最高益を生んだのはディズニープレミアアクセスの増加と変動価格制による高価格帯チケット構成比が増えたことが一つの要因ね

「ディズニープレミアアクセス……って確かファストパスみたいなやつだったよね?」

「そう、アトラクション利用やパレード/ショー鑑賞が優先的に楽しめる有料チケットのこと。私がさっき言った仕組みを実現しているのがこのプレミアアクセスなわけ。まぁ、コレはオリエンタルランドの話でネズミーランドとは関係ないけどね」

彼女はなおも続けてこういう。

1%値上げをすると営業利益は20%以上改善する、というデータもあるくらいだしプレミアアクセスや変動価格制によって生まれた利益はかなり多いはずよ」

なるほど、過去最高益の裏側にはこういうビジネス的な仕組みがあったわけか。夢の国とパッケージされているせいで忘れてしまいそうになるけどネズミーランドはれっきとしたビジネスだもんな。

クソみたいな仕組みで炎上しないのはなぜ?

でもやっぱり不思議だ。飲食店などでやったら確実に炎上して潰れてしまうような仕組みを取り入れておきながらどうして人気が衰えを知らないのだろうか……。

「いま、どうしてネズミーランドは炎上しないのか?って考えてる顔をしてるわね」

彼女は僕の内心をズバリと当てると嬉しそうに続けた。

「なぜネズミーランドは炎上しないのか?それは”夢”を売っているからだよ。夢の国では普段の生活では味わえないような体験が味わえる。その魔法のような体験が人々にビジネスであることを忘れさせてるのよ。結局のところ”選ばざるを得ない”と思わせることができれば何でも許されるのよ」

「いや、なんでもは言い過ぎじゃない?」

「言い過ぎじゃない。2024年5月28日ラーメン二郎 新宿歌舞伎町店で火事があったのは知ってる?火災が発生して店内に煙が蔓延しててもみんな座ってラーメンを食べ続けてたのよ」

「ニュースにもなったし、知ってるけど……。それは流石に正常性バイアスや同調性バイアスなんじゃない?」

「いえ、違うわ。あの事件はジロリアンは食べきらなければギルティという不文律によって命すらも縛られていることを表しているの!!!」

ババーンと効果音を出しながら指をさしてきた。彼女は賢いがたまにおバカになる。まぁ、そんなところも可愛いのだけど。

僕がぽかんとしていると彼女は咳払いをして続けた。

「ま、まぁ二郎以外にも似たような例はあるわ。例えばWeb広告を出そうと思うとGoogleやFacebook(Meta)などのプラットフォームを使うことになるけど、彼らは突然クリック単価を引き上げたりするわよね?昨日まではCPA500円だったけど、いきなり1500円に!みたいな」

「あー、あるね。クリエイティブが枯れているわけでもないのにいきなりCPAが高騰すること」

「でも、おかしな話よ。彼らはCVしやすいユーザーデータをもっているから本気でやろうと思えば低CPAでどんな商材でも売れるようにできるはずなの。だけどやらない。むしろ予算を使うように仕向けてくる」

「そうはいっても、アルゴリズムは分からないし、いくら文句を言ったって変わらないからーー」

「そう、そこ!文句を言ったって変わらないから黙って使い続けているわけよ。Metaなんて、くそみたいな詐欺広告を野放しにしているのに一般的な商材のクリエイティブにはケチをつけてくるわよね。でも、使わざるを得ないから使い続ける

確かに、嫌なら使わなければいいだけなのに使ってしまう。それは文句を言いながらも結局、使わざるを得ないからだ……。

「混雑させまくってプレミアアクセスの価値を高める、飲食店やグッズにお金を使わせるネズミーランドの仕組みに文句を言ったところで、夢の国を体験するためにはいくしかない。資本主義社会で競争しているにもかかわらずそんな地位を築けたネズミーランドは凄いのよ」

あれ?彼女はネズミーランドがキライなんじゃなかったっけ……。

「ネズミーランドはね、資本主義の世界で戦うためにお金を払える人にはさらに多く支払ってもらって利益を生み出しているの。プレミアアクセスなんて、原価ゼロみたいなもんだからね。そうして生み出した利益を再投資してさらにブランド価値を高めて誰も対抗できないポジションを確立する……はぁ、本当凄いわ」

もうこれ、好きだろ。

コレは僕の彼女がキレイゴトに包まれているビジネスのやり口を明らかにしていく物語、夢の国ネズミーランドへの歪な愛情を独白する物語。(完)


少し変わった導入ですが、今回のテーマは、「"お客様のため"が矛盾しそうなときどう解決すればよい?」

例えばプレミアアクセスは混雑していなければ価値が低い。プレミアアクセスを買わせるためには混雑するくらいに人を入れなければならない。混雑するほど入園させることはお客様のためになるのか?

他にも、本当に良いサービスをもっているけど、高値で販売することで買えない人が出てくる。お客様のためを考えると値下げすべきなのか?

自分のサービスにこんな価格をつけていいのだろうか?

などなど、多くの人が悩むであろうことを解決する方法について解説していきます。大体のことは冒頭のストーリーで書けたと思います。より詳細な解説、具体的な事例、整理された情報が欲しい人は定期購読してこの先を読み進めてください。


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