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フットサルでGPSは使えない?ウェアラブルデバイスの正しい知識

 近年のIT革命によってスポーツ科学の分野も大きく進化しました。サッカーやラグビーでは、GPSを用いて試合や練習中における選手の速度や走行距離を知ることができ、様々な場面に応用できるようになりました。
 フットサルでもGPSを用いて、「選手位置情報を調べられないだろうか?」と思う方も多いと思います。

 しかし、ちょっと待ってください!

 GPSには使用上の制約があります。この制約を理解した上で、正しい装置を選択し、研究計画を立ててみてはいかがでしょうか。

そもそも、ウェアラブルデバイスとは?

 ウェアラブルデバイスとは、身体の一部に装着する測定装置のことです。アップルウォッチが身近な例ですね。
 研究として用いる場合、腕や胸(特製のベストを付けます)に装着し、主に以下の項目を測定するために用いられます。

・ 心拍数
・ 選手の位置情報
・ 選手の加速度情報

 「あれ?デバイスによっては消費カロリーもわかるのでは?」と思うかもしれませんが、あれは心拍数からメーカー独自の計算式で計算しているだけです。速度や走行距離も同様で、位置情報から計算しています。
 上記の三種類はそれぞれセンサーの種類が異なります。デバイスの中に一種類のセンサーしかない場合もあれば、すべての機能が1つのデバイスに収まっている場合もあるので、使用する際は何が測定できるのか、理解する必要があります。

屋内では使えないGPS

 GPSには使用上の制約があると言いましたが、タイトルの通り屋内では使えません。GPSはGlobal Positioning Systemの略。つまり、センサーと人工衛星を使う事で位置情報を得るシステムです。なので、バスケットボールやフットサルのような屋内競技の場合、人工衛星からの電波が受信することができません。

屋内では

 屋内で位置情報を得るためには、LPS(Local Positioning System)を用いる必要があります(ほかにも呼び名があります)。人工衛星の代わりに電波を発信するアンテナを設置します(下図Figure.1参照)。赤丸で囲ったものがアンテナですが、電波が干渉しない(干渉すると測定できません)ように配慮しながら、等間隔で設置する必要があります。私の記憶だと、発信機となるアンテナは持ち運びができず、アリーナに工事して据付する必要があります(費用が高い)。今後、ポータブル型のシステムが開発されれば、研究は増えるかも知れません。
 ここだけの話ですが、幕張の夢フィールドにフットサル練習施設を建設する際、「何かアイデアはないか?」と尋ねられたので、LPSを設置するように提案したことはあります(結局、どうなったかは知らないのですが...汗)。

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加速度だけでは位置や速度は分かりません

 LPSは非常に高価で入手が難しいため、加速度センサを搭載したウェアラブルデバイスを用いるという方法もあります。ただし、加速度センサーでは位置情報が得られないため、どの方向に加速度が加わっているのか分からないという欠点があります。測定できることが限定されるので、研究デザインを検討する必要があるでしょう。
 参考にハンドボールを対象とした研究を紹介します。IMUはInertial Measurement Units(慣性計測装置)の略です。

植松伸之介, 井口祐樹, 楠本繁生, 下河内洋平, 大城章, 横手健太. (2018) 女子ハンドボール選手におけるIMUを用いた試合中の動きに関する研究.コーチング学研究,31(2):231-237.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoaching/31/2/31_231/_pdf/-char/ja


どうしても位置情報が必要なら

 説明したタイプのLPSは施設に設置するため試験場所の制約を受ける上、相当高価です。それに代わるシステムとして、スポーツ以外の場面では新しいシステムが発表されていますが、研究に足る十分な精度や信頼性が保証されているかどうか?という問題もあります(もちろん、その精度や信頼性を検証する研究はありでしょう)。

 現実的な方法として、位置情報を得たい場合は、屋外でGPSを用いるか、撮影して映像から測定するしかなさそうです。また、前回記事でも述べましたが、LPSが設置されている大学(研究室)を調べて入る。というのも選択肢かと思います。

本番前には練習を!

 いずれの方法を採用するにしても、まずは事前に練習してみましょう!ウェアラブルデバイスや受信機の不具合や練習場所の状況によっては、思いもよらないトラブルも考えらます。いきなり本番は、ものすごく危険です(位置情報ではありませんが、試験方法が確立できなかったために、卒業できなかった学生も過去には・・・)。

 友人やゼミ生に協力してもらって、何度も必ず練習を行うことをお勧めします。

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