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【特集】熱熊の気迫、執念-埼玉武蔵ヒートベアーズの応援に参加して-

2023年8月5日、サク来は埼玉県営大宮球場にいた。
埼玉武蔵HB-栃木GB戦観戦、BCの試合観戦は初めてだった。

試合開始前にチアグループ"Bgirls"がパフォーマンスするお立ち台。この日はモンキーズのチアも立っていた。シート張りや荷物置きから見るに縄張り争いがいかに激しかったのかが伺える

所用で東京に4泊ほどする日程だったが、うち1日がオフだったので緻密な計画を立てた。
東京駅から東京上野ラインで40分ほどで大宮駅に到着し約30分歩く。
開門前だったが南地区首位攻防戦だったためか、すでに100人ほどが集まっていた。
この日はSPゲストに台湾棒球・楽天モンキーズのチアが来ておりカメラを、カメラを構えた人が多くみられた。

一度退場したサク来は近くのファミマのイートインスペースで試合開始まで避暑した。
5時前に戻り、一塁側:埼玉武蔵HB応援席近くに座った。
応援席にはすでに武蔵ファンが集っており、反対の三塁側の栃木GBファンも多く詰めかけていた。

試合はタイブレークまでもつれた。
埼玉武蔵HBが土壇場で追いつき、最後は青木玲選手がサヨナラタイムリーを放ち鮮やかな逆転勝利となった。
時刻は10時に迫るというのに、一塁側の熱はこの日最高潮だった。


10回表、辻空選手の登板に際して後援会の横断幕が掲げられた

改めて感じたことだが、武蔵のファンは熱い方が多い。
コールから応援歌まで何まで、全身全霊で叫び続ける。
応援によっては体を大きく動かす。
この日の9・10回にぶっ通しで行ったチャンステーマがその最たる例だろう。

スタンドを左右に動くこのチャンテだが、多くのファンは攻撃が終了すると得点した喜びを噛み締めつつ疲れが来たのだろう、ベンチに項垂れる姿を見せた。
この日の応援スタンドはそのほとんどが大人の方で占めており、体の節々が痛むと嘆く声が聞こえた。
火の国の応援の場合、最近大人のファンが少しずつ加わってきているが、大抵の場合少年野球の子供達だ。
埼玉武蔵HBのスタンドについて大人は火の国の何倍の数を占めており、それぞれが全身全霊応援を行う。
また大人だけでなく子供(といってもこの日いたのは高校生)も混ざっており、大人に負けないバイブスを醸し出していた。
その高校生の子とトイレですれ違ったのだが、熱気が半端なかった。
目がギンギンだった、怖かった。

これらのファンは埼玉武蔵HBの試合にアクティビティーに参加し、全力で応援に参加する。
ファンの中には特製のグッズ:ゲーフラやタオルなどを作り、球場で掲げている。
火の国でも特製Tシャツやタオルを作る人はいるが、埼玉武蔵HBはそれをはるかに凌ぐ人数がそろっており、スタンドからプレッシャーを与える。

応援のレベルは火の国にトリプルスコア以上の差があると考える。
一番の差は何たって応援団だろう。
メインで応援する私設応援団、埼武連はファンの心を昂らせる応援でスタンドを盛り上げる。


埼武連の一つ、関東熱熊(ねっちゅう)会の横断幕。この日、スタンドには別団体含め4~5名ほどの団員さんがいらっしゃった。


サク来が驚いたのはその対応力と柔軟さである。
一塁側スタンド上段には音響さん用のテントが貼ってあり、そこからスピーカー応援を行うスタイルを取るイニングがあった。
初回の攻撃だったろうか、音響さんがとある選手の個別応援歌を流す際に誤って別のものを流した場面があった。
異変に気づいたリード担当の団員さんはテント側に向けて腕をばつ印としながら音響さんに違うとアピールを行った。
スタンドも異変が起きていたことには明らかだったようで、リードと一緒にテントに向かってアピールを続けた。
この打席は早くに結果がついたため大きな騒ぎになることはなく、以後同様のミスがあっても彼らが動じることはなかった。
イレギュラーな事態が起きてもそれを落ち着いて対処できる対応力は、実力だけではない経験によるものだろう。
何よりリード台はほぼ一人の戦場であるため、少しでも日和れば台無しになる可能性が高い。
それに動じない胆力は並大抵のものではないだろう。

柔軟であることは常に新しいものに目線を向け、それを現体制に加えることでより良いものにしている姿勢であることでもある。
柔軟さについてはこの日の応援というより、後日サク来がX(Twitter)で見た動画によるものが印象に強く残っている。
この日定められたイニングにて楽天モンキーズの応援(スピーカーから音楽を流し、それに合わせて前方に設置されたお立ち台でチアが踊るスタイル)が行われ、応援スタンドのファンはチアの振り付けを即興でコピーし、熱を込めて選手に届けた。


サク来は初めて台湾式応援を実践し、日本の鳴り物応援とは違う良さについて触れた。

この数日後、Twitterである動画を見た。
別日の試合にて、サク来が球場で行った楽天モンキーズの応援が人力で行われていたのだ。
スピーカーから音は流れておらず、ファンの一人一人が声を出して音を紡いでいる。
応援団が出したものに対して、ファンも全力で答えている。

近頃はホイッスルを応用してさながらリオデジャネイロのサンバリズムで応援もしていた。
どんなものでも一度受け入れて自分色に染めていく、このやり方について武蔵ファン・応援団は柔軟に思考しているように見える。

終盤の守備の時、今回の視察で以前北九市民や藤崎台でお会いしたぎっこさんに話を伺う機会があった。
「武蔵HB」時代から球団を見ていたぎっこさんの語ったのは、以前の武蔵のスタイルについてだった。
コロナ禍以前の応援スタンドは熱気と殺気が織り交ざった席だったという。
不可解な判定があったら怒号が飛び交い、相手攻撃中でも興奮冷めやらぬ状態が続いていたという。
今では和気あいあいとした雰囲気となっており、どこか懐かしむ様子も見えた。

目には見えないもの:積み重ねてきた経験と信頼がスタンドには広がっていた。
9回に上田選手が同点に追いついたとき、そして青木玲選手がサヨナラタイムリーを決めたとき、サク来はファンと抱き合い、喜んだ。
生まれて初めて話したこともない人たちと抱擁したかもしれない。
そこには確かに武蔵が好きだという気持ちが通っていた。
この思いをどうにかして熊本まで持ち帰り、伝播したいと強く思った。

このnoteを書いている途中、埼玉武蔵HBの地区優勝が決定した。
一時は栃木GBと大差をつけられていたが、見事その逆境を跳ねのけた。
首位とゲーム差をつけられていたときでも、ファンと応援団は一度もあきらめた顔を見せなかった。
あの日のサヨナラタイムリーで沸いたスタンドが何よりの証拠だ。
応援の気迫が、勝利への執念が実った瞬間だった。

独立リーグで最も激しい応援を行うファンと応援団は後日行われるプレーオフにて栃木GBと戦い、1勝でもすると北地区代表とグラチャンに出場する権利とBC王者の称号をかけた戦いが始まる。
BCは他リーグと比べグラチャン出場が難しくなるものの、そこを勝ち抜いたチームは顔色が違う。
応援の力で実力以上の勢いを見せるチームはなおさら脅威となりうるだろう。

彼らに負けない応援で立ち向かうことが、勝利をつかむきっかけになるとサク来は強く信じている。

この日、4番に座った阪口選手。元熊本GL戦士でもあり、山岸MGにこのことを伝えると、「おっ、りゅーきやん!!」と喜んでいた模様。独立リーグ、最高

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