【極私的考察】Lianne La Havas/Bittersweet

2015年7月にリリースされた名盤『Blood』以来、実に5年振りとなる待望のシングルです。

曲名はずばり『Bittersweet』。「無知の知」「小さな巨人」といった、一見互いに矛盾する複数表現を含む、いわゆる「撞着語法」が用いられた実に示唆的なタイトルです。これまでのキャリアで彼女が築き上げてきた、マス/コアに左右されない地に足のついた創作姿勢、メジャー/マイナー進行という調性を超えた濃淡ある独自の音楽性をさらに深化させ、たどり着いた新境地の一端を垣間見ることができます。

「Please stop asking, “Do you still love me?”」(「まだ僕のこと愛してる?」なんて聞くのはもうやめて)。実に彼女らしい、印象的な歌い出しで幕を開けるこの楽曲。実は2018年初頭のライブですでに完成版に近い形で披露されており、ファンの間では大きな注目を集めていました。ギター1本で鼻音伸びやかに奏でられる彼女の音楽は、Coldplayのツアー帯同を経て名実共にさらに存在感を増していきます。

しかしそうした躍進に反して、より内省的なサウンドに磨きがかかった印象。「No more hangin’ around」(フラフラするのはもううんざりだわ)、「Telling me something isn’t right」(いまいちしっくりこないの)。殴り書きされたかのような赤裸々な歌詞の数々。一体なぜでしょうか。以下、私感の域を脱しませんが考察してみようと思います。

2011年の華々しいデビュー以来、精力的に音楽活動を続けてきた彼女。しかしながら前作『Blood』(2015)以降は長くリリースが滞っており、ライブ活動にその主眼が置かれてきました。この5年間のあいだに何か心境的、身辺的変化があったのではなかろうか、と勘繰ってしまうのは些か無粋でしょうか。しかし思い当たる節があることもまた事実。そのひとつが、彼女が長年敬愛してやまなかったアーティスト、プリンスの死です。

サビ冒頭の歌詞「Bittersweet summer rain」、これは亡くなったプリンスを指しているのではないかと推察します。プリンスの訃報を受け、ミネソタ州知事が「プリンスデー」と定めたのは6月7日。暦の上では雨季にあたります。デビュー以来、プリンスファンであることを公言し、音楽性やアティチュードにおいてもそれを多分に証明してみせた彼女。突然の別れを受け入れきれないまま過ごした葛藤の日々を、ほろ苦い男女の別離、気だるい夏の長雨に見立てて(あるいは「Purple Rain」へのオマージュ?)見事に表現し切っています。

アレサ・フランクリンに捧げられた曲である、という可能性も否定できません。彼女の命日は8月16日、記録的な猛暑となった2018年の出来事でした。ソウルの巨星堕ちて、世界中に涙の雨が降る。訃報を受けて、各所で追悼パフォーマンスが行われましたが、Lianne La Havasもまた「Say A Little Prayer」をギター1本で切なく温かく歌い上げ、観客を大いに沸かせていた姿はつい昨日のことのように思い出されます。

様々な時間軸が交差していく感覚。前作『Blood』はその名の通り、彼女の音楽的ルーツ、文化的宗教的背景、また自身の人生にも真正面から向き合う作品でした。この先リリースが予定されている彼女の3rd Albumは、さらにその延長線上に位置している作品であるといえ、過去・現在・未来そのどれをも映し出すとても意義深い作品になるのではないかと大いに期待しています。


2020年4月21日 プリンスの命日に寄せて

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