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『鎌倉殿の13人』は私たちの社畜魂をここちよく慰撫してくれるクスリだった

前回の投稿後、友人と
私「きっと最終回にさ、さんざん人を殺しまくって一人勝ちした義時くんが目に涙をためて
『俺の人生は何だったんだろう』

とか反省して、恋女房の八重さんに
『殿のせいではありません。殿はよくがんばりました』
って背中よしよし
してもらって終わるんだよ」
友人「いやそれはさすがにクズ過ぎるだろ(笑)」
という会話を交わした。
2週間前のことだ。

そしたら、なんと昨日の回のラストシーンが
目に涙をためて反省する義時くんと、その背中をよしよしする八重さん
だったので、あごがはずれるくらい驚いた。

終わっちゃったじゃないか。
あと7か月、どうやって持たせるんだ。

私は歴女でもなんでもなく、学生時代も文系なのに歴史が物理化学と同じくらいできなくてとほうにくれたバカだったが、
源平サーガだけは好きだ。
だから、ドラマ冒頭で流れるキャストのリストを見るたびに、
またドラマ中であの人やこの人の顔がアップになるたびに、
(いちおうネタバレにならないよう固有名は伏せます)
(歴史好きな人はぜんぜん知ってるとは思うけど)

主要キャラのほぼ全員に破滅フラグがたっていて、
理由がすべて
「謀叛の疑い」

なんだよなと思い出して、ひじょうにダウナーだ。
あの人もこの人も最終的に全員潰していくんだよな。
そんな男が主人公で、ドラマとして成り立つんだろうか。

頼朝がいよいよクズ全開になってきて、義時は必死の抵抗を試みるもけっきょくクズの手先となって汚れ仕事を引き受ける。
そして
「私にはここで生きていくしかありませんから」
と自嘲してみせたりして、で、帰宅して生まれたての赤ちゃんを抱いて
「父を許せよ」
とか言って涙ぐむ。
そして新妻によしよししてもらう。

すばらしい。
俺がこんなクズ道に堕ちているのも愛する家族を守るためだ
というね。
私たちの社畜魂をここちよく肯定し、甘美なまでに慰撫してくれる。
ぶち殺した相手だって息子だし父親だしかけがえのない存在なんだが、
そこはモブだからいいわけだ。

これがいまの私たちにいちばん必要なクスリなのだろう。
『笑の大学』を書いてくれた三谷幸喜は、もういない。

ついついどの行も太字ゴシックにしそうになるので、
このあとはテキトーな話をしてごまかすことにする。
くどいようだが私は歴女ではなく、日本史の知識は高校どまりだ。
だからもっと詳しい方が間違いを見つけたらぜひ訂正してください。

その1。
前回も前々回も書いたことだが、平家のどこがそんなに極悪非道だったのだ。
松平健さんもとい平清盛公が生まれてすぐの孫を抱いてる姿を見せて
「こんな赤ちゃんを天皇の位につけた!」
的な、非難ごうごうな感じのナレーションをかぶせていたが、
当時はちっちゃい子を天皇にするのがデフォルトでしたよね?
あと帝の外戚(祖父とか)が政治権力を持つのは、藤原氏がすでに四百年くらいやってきたことで、平氏は新興勢力だったから叩かれただけだよね?

その2。
木曾義仲が敗れて討たれるくだりは『平家物語』でも屈指の名場面で、高校の古文の教科書にはだいたい載ってると思うんだが(いまはもう載ってないのだろうか)、
『13人』では、今井兼平と主従二騎になって、敵がすぐ向こうに現れて
兼平「殿、あちらの松原でご自害ください」
義仲「うむ」
わーいいよいよだーと思ってわくわく観ていたら

義仲「思えばこの義仲、よく戦った」

なんか述懐はじめた?!
セルフ走馬灯!
ていうかそもそも義仲の合戦シーンたぶんトータル10秒くらいだったよね。倶利伽羅峠もナレーションのみっていうか番組最後の「紀行」で片づけられたし? それでなに満足してるの青木崇高さんじゃなくて義仲? 汚しメークで山道はあはあ歩くシーンとかでごまかされてきたけどこれグレートトラバースじゃないのにね?
いやそれより目の前に敵がいるんだから危ないっしょ義仲?!
と思ってたら、

義仲「ただ一つ心残りは――」
ぶつっ ←眉間に矢が刺さる

兜は? カブトはどこへ置いてきた義仲???

『平家物語』の「木曾最期」だと、矢は「うちかぶと」に刺さる。つまり目の下とか頬とか、喉(のど)だ。頸動脈。
武将が兜かぶってないなんてあり得ない。だから矢は額には当たらない。逆だ、額に当たらないように兜かぶってるのだ。当然。

台詞が現代語でもいい。そこは私は気にならない。
口紅が濃すぎるとか眉毛が「まろ」じゃないとかお歯黒つけてないとか、そのへんももちろんしかたないと思う。
それでも義務教育で習うレベルの基本のキが無視されていると、さすがに引く。
歴史考証の先生をはじめプロのスタッフがごまんとついてくれているはずなのに、なぜなんだ。

本当に何がやりたいのかわからない。
オーラスに予測していた最終兵器「背中よしよし」もすでに繰り出されてしまって、今後の展開がまったく読めないことだけは間違いない。



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実村 文 (theatre unit sala)
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