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あるとき彼女らの題もなし日記(にき)2021.1.不明

私は、彼女のお部屋の机の隅に置かれたベースの中に二輪で咲いておりました。いつの間にか、ここに来てから七回彼女の服の着替わる様を見ました。

わたしは、長く短いあいだ身を置かせていただくことになった知人の部屋の、机の隅にお借りした花瓶を置いて、その中に窮屈そうにしているクリーム色のトルコキキョウを眺めてもう一週間経ちました。

彼女は私に言葉をかけることはありませんでした。けれど目が合うと決まって微笑みかけるので、私も微笑みかえすのですが、いつでも機会が悪く、彼女が先に目線を落としてしまうので、私の笑顔を見てもらった試しはありませんでした。

花はいつでも自分たちが生きていることを、嬉しそうにわたしに報告しているようでした。おとぎばなしの様に言葉を話してくれたらどんなに楽しいか、子供じみた発想をしては自分に苦笑いしました。

彼女が私たちを、たいへん機嫌良くここに連れてきたのは、風の強い一月光る日のことで、一方で街は、お天気を無視してすっかり生気をなくしてしまっているように見えました。枯れた草が道路を転がって私たちを追い越していきました。

花を買ったのは自分のためだとも、経済のためだとも言えました。一変してしまった生活にハリを求めるのも、小さい画面を見つめるのにも疲れました。犬や猫を飼えないわたしは、うつくしい花がそばで生きているのが嬉しくもありました。

彼女が部屋から出るとき、退屈な私は彼女の部屋で、何かが突然ワァアッとはじまり流れっぱなしになる時間を楽しみにしていました。その何かは姿を見せませんが非常にいろんな肌触りをしていました。

わたしは食事やお風呂、散歩やおつかい以外に部屋の外にでることがありませんでした。気がつくと48時間家の中にこもっていることがよくありました。けれどどんな時間にも、そうしていないと落ち着かなくて、自分がちょっと離れるその部屋にはずっと音楽をかけっぱなしにしていました。


sala hirose





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