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わたしはだれかの一番になりたかった

ライブハウスに立つと「あの子女優だもんね」と言われた。その頃のわたしは劇団ハーベスト所属の、広瀬咲楽だった。悪気があったわけじゃないだろう。でもわたしは赤面した。あの子の土俵は違うから。本気で音楽やってないから。そう言われてるみたいでずっと恥ずかしかった。そう聞こえる自分が、ずっと嫌だった。作った曲自体は褒めてもらえたが、ライブに立つと違った。自分の曲を自分のものにできてないことに、他でもないわたしが一番気づいていた。

自分に対しての自信がないまま、芝居稽古と生活とリハに追われ続け、忙しすぎて本気でありえないスケジュールを縫いまくり、納得行くまで練習ができないままライブに出る日々が嫌だった。

先輩ミュージシャンとの話で、「なあ、広瀬は甘え方がわからないの?」と笑われたことがあった。

「十分甘えてるじゃないですか(演奏面で)」

「ねぇ、誰も誰かの一番になんてなれないよ」

と、ビール片手にあっさりした顔で言われてびっくりした。「若いもんなぁ」

じゃあみんな誰のなにになりたくて生きてるの?と、未成年のわたしは言い返せなかった。

歳の若い自分が恥ずかしかった。

23歳のわたしは、昔より子供っぽい。

だからか知らないけれど、子供には好かれる。小さい男の子が言って欲しい言葉は「いやーんかわいい〜」じゃなくて「おお!かっこいいじゃん!」だってこともわかる。キッズワークショップでは、上手く歌うではなく、疲れない、段取りを見せない、あくまで全力で一緒に遊ぶことに命をかける。

東京、令和三年の桜も散ってしまった。

遅かった八重桜も、遠くからみたら桜餅の木みたいだったのが段々と柏餅の木みたいになってる。

前置きが長くなってしまったが、わたしの書いた歌に「桜の花に」と言う歌がある。じつはあんまり好きじゃなかった歌だ。

劇団ハーベストの舞台ではじめて使ってもらった音楽で。脚本を擦り切れるほど読んで、いろんな人物をフィーチャーして、締め切り日、仙台から稽古に向かう新幹線の中でもずっと歌詞の訂正を繰り返していたのを思い出す。

これのどこが好きじゃなかったかと言うとずばり、「納得してないから」だ。

あの春、わたしは高校2年生の終わりだった。これから高3になり、大事な友達との最後の一年が始まることがかなしかった。だから別れがテーマのこの歌も、めちゃくちゃ悲しい歌にするつもりだった。

震災があってからだと思う。わたしは失うことを極端に恐れる子になってしまった。もともと三人兄弟の真ん中っこだ、周りに対するジェラシーが消えない。わたしのルールでは、だれかの一番にならなければ、わたしはここにいる意味がなかった。家族のなかにいてもずっとずっと勝手に苦しんでいた。恋をしてもいつかは自分が一番でなくなることが苦しかった。友達の輪にいるのが苦手だったから、できるだけ大勢のグループには所属しないように気をつけた。でも、劇団ハーベストという14人組女優集団を避けて通れなかった。そういう10代だった。

劇団ハーベスト第7回公演の「明日の君とシャララララ」は、とびきり切なくて、とびきり輝いて、春このうえないという舞台だった。演出家とマネージャー陣から歌詞について、「明るくしてほしい」とだめだしが来た。納得のいかないわたしはどうやったら明るくなるのか必死で考えた。考え抜いた末、少し納得がいかないまま提出した。まわりはみんな喜んだ。舞台も大成功し、「桜の花に」が主題歌の「明日の君とシャララララ」はファンから語り継がれる劇団ハーベストの傑作になった。(のちに唯一再演も決定した)

いま23歳のわたしから、当時17歳のわたしに、この時言うことをきいたことについて「ほんとによくやったわね!」と言ってあげたい。

なんでか。だってさ、「わたしはあなたから離れます。納得してませんけど」が全面に出まくっている歌詞だ。歌い方もものすごくぶっきらぼうだ。笑ってしまった。めちゃくちゃ素直か!

きっとあの頃の大人たちは、これを感じたんだ。それなりにお姉さんに見られる年齢になってきてわかった。どんな大人も「別れる」ことはこわくて辛くて納得のいかないことだ。だから、「桜の花に」は完全に名曲だ。

わたしはずっとだれかの一番になりたかった。

でもいまは胸を張って、「ねえ、わたしはわたしの一番よ」って言ってあげられる。

劇団ハーベストの元メンバーたちが、未だにわたしの曲を聴いて喜んでくれる。「桜の花に」の話題や芝居の話に食いついてくれる。みんなとは、コロナ禍で随分会えていない。海外にいる子もいるし、芸能をしていない子もいる。この間、断捨離祭りが開催されたわたしの部屋の、目立つ場所にDVDが置かれている。いつでも振り返って見れるように。本気で一生懸命で、悔しくて、嬉しくて、なんでもかんでも胸が熱かった青春だ。

みんなも、自分はいまが一番輝いていると、言えているような春だといいなと思った。

いつも応援してくれる皆さん、これからも広瀬咲楽と広瀬咲楽の曲をよろしくお願いします。

sala hirose


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