流星群さがして天井を見ていた
ねえ、流星群は見えた?
胸の音が速いとき、わたしは他のことを考えられない。「大丈夫、大丈夫よ、もうすぐお家だからね」となりふり構わず声に出して先を急ぐしかない。
ふたご座流星群。たしか以前友達とドライブしてた時の会話で出てきた。地元のちょっと有名な夜景のスポットに行って一人で見てきたとかって言ってたな、あーあれのことかってぼんやり考えながら歩いていた。
このぼんやりが、わたしには日常で、このぼんやりがいつも災いの元であることを自覚はしているがなかなか直すことができない。もし市販薬でもあるもんなら、すっかすかの箱で3日分、2000円以上してもためしたい。
そう、ぼんやりしていると、胸の音が速くなる原因を作り出してしまう。企みがある人には、どれだけ周りにたくさん人がいようとも、何も考えてなさそうな人ってのがすぐに見つかるらしい。ふたご座流星群なんて、いつも気にしていないことを考えながら歩いていたからいけなかった。
胸の音が速いとき、わたしは本当に他のことが考えられない。それでもようやっと自宅までたどり着き、階段を登る、踊り場で息を整える姿を、だれかに見られている気がしてこわい。またか。うまくいかない。もうなってしまった病は仕方がないけれど、慣れるのには時間が要る。
明るい踊り場からみえる細長のまっ黒い空、と、そこになにか流れていく光をみた。まるで流れ星のようなそれは一瞬で闇に消えた。
流れ星?もしかしていまのこれが流星群の一部?だったんだろうか、だったなら、なんてムードのかけらもない流星群。流星群てのは普通、なにか悩み事がある時にふと目に入って、あーもう少し頑張ってみようかとか、明日も頑張るぞとか、元気をもらえたりするやつなんじゃないのか。または恋人や大事な人と一緒に、見えたり見えなかったりする空を、楽しむものなんじゃないか。
え、なんだった、あの小さな「ぴか」は。裸眼だったから見間違いとも言えそう、そして何よりも余裕がない時はそういうのが見えても嬉しくなれない。
「大丈夫、大丈夫よ、もうわたししかいないからね」
部屋の電気をそっとつける。こういうときの急な物音にはとっても気をつけている。
大丈夫、大丈夫よ、そうやってわたしは言い聞かすんじゃなくて自分で自分の頭を撫でてきた。
「大丈夫、大丈夫よ、ただいま、ほら無事に帰ってきてよかったね」
床にへたり込んだ、まっ白い天井にはまっ白い満月が浮かんでいた。電気の満月にはまったく表情がなく、のっぺらぼうだった。
ねえ、流星群は見えるんだろうか?
いまこの頭上に流れているんだろうか?
天井が透き通ればここからも見えるんだろうか?
半年くらい前のわたしだったら、いまからうきうきして見に行ったんだろうな。コートを急いで羽織って適当にマフラーをさげて、真夜中。夏にニュースになっていた飛行物体を見に外に飛んで行ったときみたいに、なかなか入らないコンタクトにいらいらしたりして。
別に流星群にこだわっているんじゃない。もう今夜は外には出られなそうだから、いろんな人の観測報告をSNSでみている。
見たかった、本当はわたしも空の下に見に行きたかったんだ。
sala hirose
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