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相槌の漢字は相鎚と相槌どちらが正しいの? (連載:外から見る日本語第6回目)

バンクーバーの習い事教室STEP AHEAD LEARNINGです。

当教室にて、日本語教師歴25年になる矢野修三先生による日本語講師養成講座(初級編)がまもなく開講される予定で、日本語の面白さをもっと多くの人に知ってほしいという思いから 「連載:外から見る日本語」を執筆していただくことになりました。

長い長い日本語教師歴を通して感じた日本語のフシギを短いエッセイ形式でお届けします。

日本語を教えることに興味がある人も、単なる雑学としても、だれでも楽しめる内容となっております。

それでは はじまり はじまり。


コロナ騒動もかなり沈静化の光が見えてきた感じ。ここバンクーバーもウィズ・コロナが進んで、社会活動なども制限なし。いろいろなイベントも通常通り行われて、ホッとしている。でも相当長い間、閉じこもり生活に慣れてしまい、いろいろ外出の準備が億劫になり、外出そのものも億劫になってしまった。


 この「億劫」、世代や個人差によってもかなり異なると思うが、仲間同士の会話では今でもかなり使われている。例えば、「夜の外出がおっくうになったね」や「毎日のひげ剃りがおっくうだよ」など、シニアの集まりなどでよく耳にする会話である。


 しかし、書き言葉として、エッセイなどの文章に、「億劫」と漢字で書いてあると、文字として見慣れていないので、かなりの人が違和感を持つようである。特に若者世代は読めない人も多い。


 小生もこの「外から見る日本語」を長く書いているが、何回か「億劫」を使おうと思った場面があった。でも、やはり漢字では何となく気が進まず、まして、ひらがな書きの「とてもおっくうになった」は読みにくい。そこで「面倒」など同じような言葉を使って文章を書き直した思い出がある。


 さて、この「億劫」の語源、かなり複雑で億劫だが、なかなか興味深い。まず「劫」、この漢字は常用漢字ではないので、日常ほとんど目にすることはない。辞書を引くと、読み方も「コウ」や「ゴウ」などあり、意味は最初に「おびやかす」が載っている。えー、びっくり。でも本場中国では、脅迫などの意味でよく使うとのこと。この「劫」は「去」と「力」であり、去るのを力で脅かすことが語源かも。まさか。


 次に「無限に近い極めて長い時間」とある。これは古代インド仏教の「時間の単位」とのこと。うーん、同じ漢字になぜこんなに違った意味があるのか、摩訶不思議。


 この「劫」にはこんな伝説が。100年に一度、天女が地上の大きな岩に舞い降り、その岩を羽衣でなでる。その摩擦でその岩が無くなるまでの時間。えー、計り知れない、ありえない長さである。さらに「億」はご存知、数の単位であり、この「億劫」は「劫」の千倍どころか億倍。まさに人の世では想像を絶する、「未来永劫」の長さである。


 そこで、日本ではこの「億劫」をものすごく時間がかかり、とても面倒で気がのらないような意味として使うようになった。なるほど。昔は「おくこう」と発音していたようだが、だんだん変化して、現在では「おっくう」になった。正に歴史を感じる言葉である。


 こんな由緒ある言葉なので、短い時間のひげ剃りなどに「億劫」を使ったら天女さまに怒られるかも。でも加齢とともに、雨の日の外出などは億劫になってしまう。しかし食べることが億劫になったら、一大事。そうならないよう、頑張ってエッセイを書き続けますので、億劫がらずに、読んでいただければ幸いです。



本エッセイを執筆された矢野修三先生が、4月16日からバンクーバーの弊社STEP AHEAD LEARNING のオフィスにて、0から日本語教師を目指したい人向けに日本語教師養成講座(初級編)を開講します。


オンラインからも受講可能!
(上記日付はバンクーバー時間となります)

最初の1日は無料とオリエンテーションになっているので、興味がある人は奮ってご参加下さい!

詳細はこちらから。

https://stepaheadlearningcanada.com/japaneseteacher/




本エッセイは執筆者である矢野修三先生から許可を頂いて転載しております。

執筆者プロフィール:
矢野アカデミー元校長
矢野修三先生

矢野アカデミーのサイト:

https://yanoacademy.ca/


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