映画日誌’24-34:時々、私は考える
trailer:
introduction:
『スター・ウォーズ』シリーズのデイジー・リドリーが主演・プロデュースを手がけ、不器用な女性が、恋や同僚との交流によって“生きることの愛おしさ”を知っていく様子を描いたヒューマンドラマ。2023年インディワイヤー誌が発表した「注目の女性監督28人」に選出されたレイチェル・ランバートが監督を務め、ステファニー・アベル・ホロウィッツ監督による19年製作の同名短編映画を長編映画化。昨年のサンダンス映画祭にてプレミア上映された際には、デイジー・リドリーの高い演技力が再評価され話題となった。(2023年 アメリカ)
story:
アメリカ、オレゴン州アストリアの閑散とした港町。人付き合いが苦手で不器用なフランは、職場と自宅を往復するだけの静かで平凡な毎日を過ごしている。友だちも恋人もおらず、唯一の楽しみは空想にふけること。それも少々変わった幻想的な“死”の空想だった。そんな彼女の日常が、フレンドリーな新しい同僚ロバートとの交流をきっかけに、ゆっくりと煌めきはじめる。順調にデートを重ねる2人だったが、フランの心の足かせは外れないままで…
review:
2019年に発表され、各国の短編映画祭で数々の賞を獲得した同名短編映画の長編映画化作品『時々、私は考える』。ポートランドからほど近く、名作映画『グーニーズ』の舞台としても知られるオレゴン州アストリアの閑散とした港町で繰り広げられるノスタルジックで少しだけロマンチック、そして優しい愛に溢れた人間讃歌の物語。って、公式サイトに書いてあった。Googleマップで検索してみたら、ポートランドから車で2時間くらいの、港に面したどこか人工的な街だった。
主人公の静かな毎日のルーチンが淡々と映し出される。オレゴン州の皆さん、17時くらいには仕事が終わってそうなのである。明るいうちに自宅に帰り、それから出掛けて映画を観て食事をしても、11時までにはベッドに入る。私も6時に起きてゆっくり朝ごはんを食べ、9時から17時まで働いて、ゆっくりワインを飲みながら食事して、本を読んだり映画を観たり手仕事したりボードゲームをしたりして、11時までにベッドに入りたい。日本人は働き過ぎなんだよなぁ。
そんなフランは、他人との距離をうまく取れず、空想の中で孤独に生きている不器用な女性だ。定年退職する同僚を見送るパーティーではみんなの輪に入れず、持ち帰ったケーキすらうまく扱えない。自分の殻に閉じこもっているフランに対して、気さくにコミュニケーションを取ってくる新人ロバート。彼との交流をきっかけに、少しずつ彼女の世界が世界と関わり始め、ゆっくりと花開いていくのだ。あの大人のかくれんぼみたいなやつ、楽しそうだったからやってみたい。
もしかしたら、賛否両論かもしれない。ゆったりと流れていく時間を、退屈だと思う人もいるだろう。しかし心の機微に敏感な人ほど、デイジー・リドリーの繊細な演技が、緻密な描写が胸に刺さるのではないだろうか。原題はもっと直接的に表現しているけど、邦題は肝心なところを省いてあるのがいい。フランの空想に関する描写はあるものの、彼女の告白を聞いた瞬間、我々もロバートと一緒に、ああ、そうだったのかと思える。なんという美しきラストシーン。私たちの心まで潤うような、とても愛おしい映画体験だった。こういう出会いがあるから、ミニシアター通いがやめられない。
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