見出し画像

映画日誌’24-28:ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命

trailer:

introduction:

名優アンソニー・ホプキンスが主演し、669人ものチェコの子どもたちをナチスの脅威から救い出した英国人ニコラス・ウィントンの半生を描いた伝記ドラマ。監督はポン・ジュノ監督と共に『スノーピアサー』の製作総指揮を務めたジェームズ・ホーズ。『英国王のスピーチ』などのヘレナ・ボナム=カーター、『ブルックリンの恋人たち』のジョニー・フリン、『つぐない』のロモーラ・ガライ、『パーティで女の子に話しかけるには』のアレックス・シャープらが共演。また、実際にニコラスに救われたかつての子どもたちやその親族が撮影に参加している。(2023年 イギリス)

story:

第2次世界大戦直前の1938年。ナチスから逃れてきた大勢のユダヤ人難民が、プラハで悲惨な生活を強いられていることを知ったニコラス・ウィントンは、子どもたちをイギリスに避難させる活動を組織し、同志たちと里親探しと資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫るなか、彼らは子どもたちを次々と列車に乗せていくが、ついに開戦の日が訪れてしまう。それから50年、ニコラスは救出できなかった子どもたちを忘れることができず、自分を責め続けていた。そんな彼のもとにBBCからTV番組「ザッツ・ライフ!」の参加依頼が届く。

review:

この数年、ナチスやホロコーストをテーマにした映画の配給が多過ぎて厳選しているのだが、アンソニー爺さんが主演ならば観るしかない。命をかけてナチスの脅威から子どもたちを救ったニコラス・ウィントンと、彼に命を救われた子どもたちが50年越しの再会を果たすドラマだ。この実話を『英国王のスピーチ』のプロデューサー、エミール・シャーマンとイアン・カニングが後世に伝えようと決意し、ニコラスの娘バーバラの著書を原作に、長期の構想と綿密なリサーチを経て映画化を実現させた。

ニコラス・ウィントンはロンドンで株の仲買人をしていたごく普通の青年だったが、労働党左派の活動家と親交があり、早くからヒトラーの政策の行く末に疑問を抱いていたそうだ。1938年のクリスマス休暇はスイスへスキーに行く予定だったが、イギリスのチェコ難民委員会の女性から連絡を受けて、予定を変更しプラハに向かっている。そして同志たちと共にキンダートランスポートの活動を始め、奔走する中で危ない橋をいくつも渡ったようだ。作中ではヘレナ・ボナム=カーター演じる母親の絶大な理解と協力があり、胸が熱くなる。母の愛は偉大。

鑑賞後にニコラスについて調べてみて分かったことだが、彼が長期に渡って沈黙していた理由や、自分がやってきたことが格別な評価に値するものだとは捉えていなかったことなどはあまり表現されていなかったように思う。そのあたりの描写がしっかりしていれば、彼の人物像や人生の輪郭がもっとくっきり浮かび上がったのではないだろうか。ヘレナ・ボナム=カーターはどうしたってヘレナ・ボナム=カーターなので置いといて、それ以外の登場人物のキャラクターが立っておらず、やや共感に欠ける。

ていねいに創られているものの、取り立てて映画としてここがスゴいと感じる要素はない。正直に言うと、淡々とした描写に少し中弛みしてしまった。とはいえ、この歴史上に命を賭けて人々のための仕事をした一市民がいて、彼が繋いだ命が未来に繋がっているという事実にただ、胸が震える。それだけでも充分に観る価値がある作品だったし、出来るだけ多くの人に知ってもらいたい。そして、ニコラスの良心を少しでも未来に受け継いでいきたい。自分の人生がいつか誰かの役にたつといいな、と思いながら。

この記事が参加している募集

#映画感想文

68,430件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?