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映画日誌’24-26:関心領域

trailer:

introduction:

イギリスの作家マーティン・エイミスの小説を『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のジョナサン・グレイザーが映画化。アウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。製作はA24。『落下の解剖学』などのザンドラ・ヒュラー、『白いリボン』などのクリスティアン・フリーデルらが出演する。カンヌ国際映画祭ではパルムドールに次ぐグランプリに輝き、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞、音響賞の5部門にノミネートされ、国際長編映画賞と音響賞の2部門を受賞した。(2023年 アメリカ・イギリス・ポーランド合作)

story:

時は1945年、第2次世界大戦下のポーランド・オシフィエンチム郊外。青い空の下、子どもたちの楽しげな声が聴こえてくる。アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘドウィグら家族は、収容所と壁一枚隔てた屋敷で幸せに暮らしていた。美しい花が咲き誇る手入れが行き届いた庭、丸々と肥った赤ん坊、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁一枚隔てたアウシュビッツ収容所からは怒号や悲鳴のような声が響き渡り、大きな建物は黒い煙をあげていた。

review:

タイトルの「The Zone of Interest(関心領域)」は、第二次世界大戦中、ナチス親衛隊がポーランド・オシフィエンチム郊外にあるアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉である。アウシュビッツ収容所の隣に住んでいた初代所長のルドルフ・ヘスと妻のヘドウィグ、その子どもたちが、壁の向こうで起きていることにはまるで関心を示さず、平穏で幸せな家庭生活を営む様子が淡々と描かれる。

壁の向こうで起きている暴力はすべて、音と空の色だけで表現される。ヘスの家族が実際にどんな音を聞いて生活していたのか、収容所から空間に響き渡る音を忠実に再現するため、徹底的に調べて音作りをしたんだそうだ。終始鳴り響く不穏な音、赤く黒く染まる空、情緒が不安定な子どもたち、吠え続ける犬。直接的な残虐表現はないが、アウシュヴィッツの中で何が起きていたのか分かっている人には、どんなホラー映画より恐ろしい映画体験だっただろう。

また、家の中に設置された10個の定点カメラで撮影されており、監視カメラで人の生活を観察しているような感覚に陥る。登場人物の顔や表情がクローズアップされることがないため、その人柄や感情が読み取れず、まるで人間味を感じない。それは、彼らは歴史上に存在した名のある「誰か」でなく、ここにいる私たち全員なのだと言われているような居心地の悪さにも繋がる。そして、ヘスが見つめていた闇が現在と地続きであることを最後に突きつけられるのだ。

一切の説明を排除し、極めて冷静に描かれる無機質なドラマをどう受け取るかは、観る側の想像力と感受性に委ねられており、当たり前だが賛否両論らしい。少なくともおもしろい、おもしろくないという次元で語る作品ではなさそうだ。ただ、観終わった後も、あれは何だったのかということを調べ、さまざまに思いを巡らし、執拗に自分の中で反芻してしまう。なぜなら、これは「悪の凡庸さ」を描いた私たちの物語だから。

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