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『ストレス』


「鉛筆置いてー。答案集めてー。」

チャイムと同時に、
安堵と不安のため息と
筆記用具の転がる音が広がる。

中間2日目、残り1教科。
ピリピリとした教室に、
疲れが見え始めた10分休み。

「あー!あそこ"Be careful"だ!
 絶対間違えた!」

いつも明るいあいつが頭を抱えて嘆くと、
周りの席で何人かが笑い声をあげていた。

「テストもうやだー!ストレスフル!
 ふるふるふるふる ストレスフル!」
「お前どうせ、ストレスフルも
 書けないだろー。」
「うるせー!」

謎の歌が爆誕し、更に周りが盛り上げている。

「…あほだなぁ。」

輪に加わることもなく、
頬杖を付いて眺めていると、
口を押さえて笑いを堪える君にピントが合う。

(そうだよなー、お前は一緒に
 ゲラゲラ笑うキャラじゃないもんな。)

丸めた背中と、肩が小刻みに震えている。

昔親戚の家にいた、うさぎに似ている。

そんな事を思い出していると、
不意に君がこちらを向いたので、
視線が重なってしまった。

君は少し驚いてから、
困り顔で目を伏せたが、
もう一度こちらを見上げて、
はにかんだ笑顔を見せてくれた。

(うん、僕も本当はちょっと
 面白いと思って聞いてるよ。)

頬杖のまま、つられて微笑む。

君は、ほうっとひと息付いて、
カバンから何かを取り出し、
僕の肘のあたりに転がしてきた。

「あと1教科だね。」

個包装された半透明のグミは、
おそらく何かのフルーツの味だろう。

カラフルなそれを、自らの口にも
手早くポンと放り込む君は、
いつもより少しだけ、頬が赤い。

「おう、サンキュ。」

グミのざらめのおかげか、頭の中に、
君への"フル"の単語が浮かんだけれど、
僕のキャラではないなぁと、
オレンジ味の甘ったるさと一緒に、
喉の奥へと飲み込んだ。



#散文 #短編小説 #青春 #イラスト #言葉の添え木

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