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短編小説

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読み物。君と僕の日々の物語。 どこからでもいけますが、古い方から順番がおすすめです。
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#私の作品紹介

『星占いの話』

「今朝の占い、最下位だったんだよねー。  案の定、数学の小テストはあるし、  英語は当たるし…」 黒板の日直を書き直した君が、愚痴をこぼしながら、一つ前の席の椅子を引き、向かい合わせで腰をかけてきた。 「あの占い、結構当たってるよね。」 私はシャープペンの芯を、カチカチと送り出しながら、日誌を描きつつ、ちらりと君の手を見る。 丸い爪の、少し硬そうな日焼け色の手。 書く手を止めて、そばに自分の手を置いてみる。 (そんなに大きくない…のかな。) それ以上、顔を上げる勇気

『遠くて近い旧校舎の話』

朝練が終わり、先輩達が引き上げていくのを見送ってから、ようやく私達はそれぞれの教室へ向かうことができる。 "しきたり"とは、実に不可解且つ不便なものだと思う。 これを"伝統"とは呼びたくないなと、心の中でへの字口をしながら、 「あと10分だ!急ごっ!」 「あー、朝自習配るの遅れるー怒られるー」 「まだ間に合うよー、そっちのクラス近いじゃん!」 「ちょっと!シューズの袋、うちのカバンに  引っかかってる!と、取ってー!」 それぞれの事情がこぼれ落ちるのを耳にしつつ、体育館

『クラス替えの日の出来事』

仲の良い部活仲間と同じクラスになれはしたものの、いざ教室で席に着くと、話したことのない面々に囲まれた、番号順の窮屈な並びに、不安が募っていった。 すぐ前の子は…確か小学校が一緒だったかな。 右隣はずっと本読んでるし…後ろの子は、なんだろう?何か書き物をしている。 左隣は…机に突っ伏したまま寝ていて、顔もわからない。 (気まず過ぎる〜…今日はもうホームルームだけだし、私も何か書いてるふりしとこっと。) セカバンからデニム地の大きなペンケースを取り出し、配られたばかりの連絡

『ある冬の夜の話』

"今電話してもいい?" マナーモードの携帯が短く震える。 "部屋に戻るからちょっと待って" 手短かに返したメールに、すぐ返信が来た。 "10秒待つ!" 「なんじゃそりゃ。」 と、一人でツッコミを入れながら、部屋に戻り、大きめのビーズクッションにもたれかかる。 マナーモードを解除した丁度良いタイミングで、お気に入りのバンドの新曲が携帯から鳴り始めた。 今日登録したばかりの着メロを、少し長めに聴いてから、通話ボタンを押す。 「10秒以上経ってるよー?」 「違う違う、

『四月の朝の出来事』

朝の自主練。 いびつな五角形の校庭を、フェンスに沿って走る。 バックネット、サッカーゴール、テニスコートと、次々と移り変わる見慣れた景色。 それぞれの掛け声に、排水溝の蓋の上を走る自分の足音が重なる。 ガタリ、ゴトリ。 ガタンッ。 不意に後ろからかぶさる音と声。 「おはよ。」 はずむ息と跳ねた鼓動を抑えながら、私は斜め後ろを向き、返事をする。 「おはよ。」 汗ばんだ頬に張り付く髪を直す頃には、声の主はもう真隣だ。 「今日暑いよね。」 「ねー。汗凄いわぁ。」 「

『青い青い遠い春』

頬に触れた、少しかかさついた手のひら。 その手の指が、そっと髪を耳にかけてくれた。 自分とは違う体温を感じる。少し怖い。 様子を伺うように覗き込む瞳は、私の気持ちを見透かしているようで、こちらの呼吸に合わせるように、優しく、ゆっくりと瞬きをした。 「怖い?」 その問いかけに、温もりを感じて安心する。 でも、私の身体は反射的に強張っている。自分でもそれはわかっていた。 なんとか口元に笑みを浮かべながら、私は答えた。 「怖くないよ。」 あなたは少し視線を下に向けて、寂しそう