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短編小説

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読み物。君と僕の日々の物語。 どこからでもいけますが、古い方から順番がおすすめです。
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#恋愛

『期末テストの話』

テスト期間も今日が最終日。 朝練のない、のんびりな登校とも またしばしの別れとなる。 (眠い…。) 俯き、あくびを隠す。 ふと目に入った運動靴は、 だいぶ汚れていた。 (テスト期間中に  洗えば良かったなぁ。) ぼんやりとそんなことを考えていると、 不意に後ろ髪に違和感を覚える。 「おはよ。寝癖見っけ。」 挨拶と同時に、 君が後ろ髪をつまんできた。 「おはよー。  人のこと言えないと思うけど…。」 君の前髪も、だいぶふにゃふにゃと 右方向に寄っている。

『貸したノートの話』

「今日の外周は無しー。  筋トレしたら帰っていいって!」 「やったー!ラッキー!」 隣のクラスからの伝達に、 部活仲間と笑みを交わす。 五限の終わりあたりから 降り出した雨風は強く、 他の部活も次々と、 校内での活動に縮小する旨が、 伝えられていた。 にわかに活気付く教室は 普段と比べて、 ざわめきが大きく感じられる。 少し慌て気味に支度をしていると、 不意に左肩をつつかれた。 「さっき借りたノート、  返してなかった。ごめん。」 声の方へ振り向くと、 ピンクの

『連休最終日の話』

暑さを先取りした空気が、少しだけ和らいできた午後4時過ぎ。 買い物を済ませた私は、西日に向かって、自転車をこいでいた。 (明日からまた学校かー。面倒くさいなー。) チラッと浮かんだ"中間テスト"という単語を無視する為に、足を少し強めに動かす。 速度が上がりかけのまま、なんとなく通りを1本入る。 あまり来たことのない公園の前に差し掛かったあたりで、前方に、大荷物で手を振る人影が現れた。 「おーい。」 「あー、お疲れー。」 重たそうな部活道具を引っ提げた君が、少し目を細め

『クラス替えの日の出来事』

仲の良い部活仲間と同じクラスになれはしたものの、いざ教室で席に着くと、話したことのない面々に囲まれた、番号順の窮屈な並びに、不安が募っていった。 すぐ前の子は…確か小学校が一緒だったかな。 右隣はずっと本読んでるし…後ろの子は、なんだろう?何か書き物をしている。 左隣は…机に突っ伏したまま寝ていて、顔もわからない。 (気まず過ぎる〜…今日はもうホームルームだけだし、私も何か書いてるふりしとこっと。) セカバンからデニム地の大きなペンケースを取り出し、配られたばかりの連絡

『ある冬の夜の話』

"今電話してもいい?" マナーモードの携帯が短く震える。 "部屋に戻るからちょっと待って" 手短かに返したメールに、すぐ返信が来た。 "10秒待つ!" 「なんじゃそりゃ。」 と、一人でツッコミを入れながら、部屋に戻り、大きめのビーズクッションにもたれかかる。 マナーモードを解除した丁度良いタイミングで、お気に入りのバンドの新曲が携帯から鳴り始めた。 今日登録したばかりの着メロを、少し長めに聴いてから、通話ボタンを押す。 「10秒以上経ってるよー?」 「違う違う、

『四月の朝の出来事』

朝の自主練。 いびつな五角形の校庭を、フェンスに沿って走る。 バックネット、サッカーゴール、テニスコートと、次々と移り変わる見慣れた景色。 それぞれの掛け声に、排水溝の蓋の上を走る自分の足音が重なる。 ガタリ、ゴトリ。 ガタンッ。 不意に後ろからかぶさる音と声。 「おはよ。」 はずむ息と跳ねた鼓動を抑えながら、私は斜め後ろを向き、返事をする。 「おはよ。」 汗ばんだ頬に張り付く髪を直す頃には、声の主はもう真隣だ。 「今日暑いよね。」 「ねー。汗凄いわぁ。」 「

『青い青い遠い春』

頬に触れた、少しかかさついた手のひら。 その手の指が、そっと髪を耳にかけてくれた。 自分とは違う体温を感じる。少し怖い。 様子を伺うように覗き込む瞳は、私の気持ちを見透かしているようで、こちらの呼吸に合わせるように、優しく、ゆっくりと瞬きをした。 「怖い?」 その問いかけに、温もりを感じて安心する。 でも、私の身体は反射的に強張っている。自分でもそれはわかっていた。 なんとか口元に笑みを浮かべながら、私は答えた。 「怖くないよ。」 あなたは少し視線を下に向けて、寂しそう