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物語詩『二枚の葉っぱの物語』

丘の上に木が立っていた
その木のてっぺん、細い枝の先に一枚
少し離れてもう一枚の葉っぱが
空に手を振るように揺れていた

……空はまぶしいねぇ
お日さまの前を雲が横切ったよ
その雲の下を鳥が飛んでいるね
いつか空を飛んでみたいな……

……海もきらきら光ってるね
向こうから船がやってきたよ
どこから来たんだろうねぇ
いつか海の向こうに行ってみたいな……

風がビュービュー鳴る時や
雨がざあざあ降る時は
二枚の葉っぱは枝にしっかりつかまって
じっと止むのを待っていた

……虹がきれいだねぇ
かたつむりが上っていくよ
飛行機がくぐっていったよ
いつかあの橋を渡ってみたいな……

風がごうごう鳴る時に
一枚が枝から離れ、もう一枚も飛び立った
風に乗ってくるくるくるりと舞い
上になり、下になりながら空に昇った

やがて風が止んでしまうと
二枚の葉っぱの冒険も終わる
名残を惜しむようにゆっくり、ゆったり
踊るように、滑るように下りてきた

……もっと飛んでいたかったねぇ
もっと遠くに行きたかったねぇ
もっと高く昇りたかったねぇ
なんだか寂しいねぇ……

地面に下りる、その瞬間に
風がさっと吹き抜けた

二枚の葉っぱは二頭の蝶になり
ひらひら、ぱたぱた、はためきながら
空に昇っていった
高く、高く、昇っていった

伊藤若冲『動植綵絵 芍薬群蝶図』
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