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『黒後家蜘蛛の会』短編集より二編

これまで「読んだ本 ご紹介!」と題した記事で絵本や小説を一冊丸ごとご紹介してきましたが、これからはそれだけでなく短編集や詩集、歌集から一部、好きな作品を取り上げる形でもご紹介していこうと思います。

今回ご紹介するのはSF作家の印象が強いアイザック・アシモフの連作ミステリー短編集『黒後家蜘蛛の会』です。なにやら怪しげなタイトルですがご安心を。メスの方が大きく、オスを捕食するクロゴケグモから名を借りた、男ばかり6名のメンバーで構成される会の日常の謎系ジャンルの短編集です。
ミステリーは殺人事件があるし、ちょっとなぁと思われる向きもあるかと思いますが、このシリーズには血なまぐさいエピソードは皆無とは言いませんが、ほとんどありません。

舞台はニューヨークの「ミラノ・レストラン」ここで月一度の会食を楽しむメンバー達。毎回一人のゲストが招かれ、そのゲストが持ち込む謎をみんなで寄ってたかって推理するというのが大まかな流れです。的外れな推理を含むメンバー間の軽妙なやり取りを楽しみながら、アシモフの博識ぶりを堪能する短編集といえるでしょう。謎解きをするのはメンバーではなく、レストランの給仕を務めるヘンリー。話を聞いて真相を導く、いわゆる安楽椅子探偵です。一話当たりが短く、推理に少し飛躍があることもあるので本格推理ファンには不満があるかもしれませんが、ゲスト達の心に長く引っかかったままの出来事を、人を知り、心のひだに通じたヘンリーが解きほぐしていく、そういうところが魅力と思います。
本作は全60話、短編集も5冊になります。その中から第五巻収録の二編をご紹介します。

「三重の悪魔」(Triple Devil)
英語表記をつけたのは、この言葉が謎を解く鍵になるからです。
今では財を成したゲストも若い頃は貧乏に喘いでいた。その彼と自らの蔵書を開放し、読書と勉学に励むことを後押ししてくれた資産家の物語です。資産家は一冊の稀覯本を所有しており、遺言でヒントを残します。解ければ、君に譲ろう。そのヒントがタイトルです。若者は謎を見事に解き、本をきっかけに財を成していきますが、さて、その本のタイトルとは? ちなみに僕は若い頃、この作家の本をよく読んでました。

「水上の夕映え」
この話のゲストには、子供の頃大切にしていた百科全集がありました。今はもう入手は難しい。でももう一度手にしたい。売ってくれる人を求めて広告を出したところ、譲ってもいいという手紙が届きます。しかしゲストは痛恨のミス、住所の書いてある封筒を処分してしまったのです。本文には名前のみ。あとは水上に夕日を望む町に住んでいるという記述がヒント。ここから売主へ辿り着くことができるのか、という話です。

ご紹介した二編はいずれも本にまつわる話で、特に好きなのです。ミステリーとしての謎解きはともかく、本が好きという方なら気に入っていただけるのではないかと思います。

ちなみに僕が持っているのはアシモフ先生のイラストがついた旧版です。

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