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「話す力」30のチェック【心】「心を込めて言葉を発するようにして話す」

 ある役所の用地交渉の部署に配属された3年目職員Aさんの話。用地課で働けば、大抵のクレーム対応力や苦情処理に於いての勘どころが学べるということで3年目の職員Aさんは、期待感いっぱいで、ある日役所内でも噂の「交渉の達人」と言われている係長と一緒に厄介で頑固な地主の家の訪問に同行することになりました。

 訪問するその時期は日照り続きで、地主さんのでも大打撃の時でした。地主さんの家に着くと、係長が玄関に入って「ごめんください。」と挨拶すると、奥様らしき人が現れて、係長の顔を見ると、「懲りずにまた来たの」と嫌味っぽく言われました。

 係長は「ご主人は畑ですか?ご挨拶に伺いました。」と言うと「どうせ話なんか聞かないに決まっているでしょ!行っても無駄よ!」と不機嫌そうに話しました。

 「ありがとうございます。それでは畑の方に行ってみます。」と言って、畑に向かって行きました。すると地主さんらしきご主人が畑仕事をしているのが見えてきました。

 3年目職員のAさんは、交渉の達人である係長はどんな話し方をするのだろうかと興味津々で眺めていると、係長は地主さんの近くにまで歩いて行ったと思ったら、そこで立ち止まって畑全体を見渡しました。

 すると、その場で膝を曲げて足元の土を一握り手の中に入れて立ち上がりました。次に自分の掌に入れた畑の土を捏ねるように手を動かすと、まるで砂のよう掌から土がこぼれ落ちていきました。

 その時です、誰に言うでもなく、しかし、近くにいる地主さんには確実に聴こえる距離で、・・・「乾いてますな・・・」とため息まじりの声でつくづくと想いのこもった言い方で手のひらの土を見ながら言ったと思ったら、再び気持ちのこもった話し方で「ひと雨欲しいですな・・・」と呟きました。

 その年は特に雨が少なく日照り続きの天候が続き、日常生活の飲水まで影響が出ていた状態でした。ましてや畑仕事の人にとっては、深刻な問題です。

 そのような思いを抱いている地主さんの気持ちを察して心を込めて言葉を発した係長に対して、やっと地主さんも心を開いて、話を聞いてくれるようになったとのことです。そして、この交渉も半年後に良い方向へと進んだそうです。

 勿論、この一言だけで地主さんの心が動いたわけではなく、それまでも何度も足を運んできた係長の姿勢を見ていたからでした。地主のご主人もその係長の前任者の人が自分たちの要求ばかりを押し付けて、地主さんがずっと前から相談したり、要望した案件については、全く何の反応も示さなかったことが原因で、なかなか心を開いてくれなかったそうです。

 「話し方は心の持ち方!」「言葉づかいは心づかい!」と言うように、相手の気持ちに目を向けて、言葉に心を込めて行動した時に、相手の心にも一石を投じることができ、交渉の突破口を見つけることができるのではないでしょうか。

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