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小説「孤悲は恋」-1

いつも始まりは夢だ。
夜明け前のその夢は、透明人間だった。
透明人間が僕の肩を掴み、引き寄せようとした。
僕は叫んだ。
「誰か、助けて!」
叫びながら目覚めた。「あ、ゔ」
言葉は汗になって体を滴り落ちる。気持ち悪い。
《あいつは、プレデターのようだったな。》
プリズムを身にまとい、光を反射した怪物。
幽霊ではない、怪物。
肩を掴んだ力強さを、感じ、まだその感覚を覚えていた。
もう、眠れない。
夜明け前の午前4時。
スマホの画面には「4:24」4時24分。
身体を子犬のようにブルブル震わせ、風呂場へ行く。
シャワーを浴びる。
湯気に煙る鏡の中に僕に似た影が一つ、二つ。
目をこする。
影は一つ。
疲れている。寝不足だ。そう、思いつつ、自分を納得させる。

8時5分発の電車に乗り、いつも通りのコースをたどり大学の正門にたどり着く。「経済・財政学概論」の講義。
隣に僕を見つけた友人の沢村がやってくる。
「おはよう。和海」「おはよう。」
「相変わらず、さえないな。」「余計なお世話だ。」
「ゼミはうまくいってるのか?」「ああ、まあまあだ。」
「なら、結構。」
昭和のオヤジか、お前は。沢村怜。サワムラレイ。イケメンで鼻持ちならない、何考えてんだコイツ、の典型。僕は杉本和海。スギモトカズミ。
普通だ、と思う。顔も考え方も趣味も。
2限目は「歴史」の講義。隣には、相変わらず怜が席についていた。
昼、学食の窓際の席に座りながら、焼きそばとオレンジジュースという変則的なメニューを食べながら、怜が昨日の合コンの様子を報告してくる。
当分、こいつにも出会いはなさそうだ。

【2】へ続く。

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