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読了レポ『小説 渋沢栄一』津本陽 著

2月13日に渋沢栄一の『論語とそろばん』の読書会を予定しているので周辺情報の収集のため読みました。上下巻で700ページ近くというボリュームです。
小説というよりは、渋沢栄一や家族による日記や講演録の引用を織り交ぜた行動記録という感じです。渋沢栄一に関わる史実や人となりを知りたいと思って読んだ私にとっては良かったのです。『論語と算盤』の理解が深まりました。一方で小説好きの人には物足りないかもしれません。

渋沢栄一という人は凄い‼️改めてその経歴を時系列で辿ると人間技とは思えない…手がけた事業の数、種類、規模。しかもすべて息の長い社会インフラ事業です。

渋沢栄一がこれだけの功績を残せた理由としてまず考えられるのは、卓越した商才と時代を先読みするセンスです。でも商才とセンスだけなら同時代の多くの成功者たちにもあったと思います。渋沢のオリジナリティはその人生哲学にあります。人は社会に生かされているのだから、社会のために生きるべきだと考え、利益追求を最終目的としていませんでした。

ただこの本で少し気になったのが、渋沢栄一が人生を通して清廉潔白な人だったように描かれていることです。明治大正の時代です・・・実際には隠された闇の部分もあったと想像します。実業の世界は一筋縄では行かないはずですから。でもこの本にはそう言う面は一切書かれていません。一例をあげると…渋沢栄一は鉱毒事件を起こした足尾銅山の経営者(古河)を全面的にバックアップしました。(参考:『たたかいの人ー田中正造の生涯』大石真著)足尾銅山事件の背景としては、当時の日本の発展のために銅の生産がどうしても必要だったために無理をして被害が長引いてしまったことがありました。

また、この本にも書かれていましたが渋沢は岩崎弥太郎が独占的地位を利用して巨利を貪るやり方に反感を感じ、対抗策を講じました。渋沢の真っすぐな姿勢は素晴らしいものの、関係者には苦汁をなめた人もいたと思います。この辺りのことは三菱側の視点からの本を読んだことがあって(『岩崎弥太郎と三菱四代』河合敦著)、両面から比較できて興味深かったです。

それにしても、この事件が岩崎弥太郎に大きな打撃を与えたのに対して、渋沢栄一の長い人生のうちのたった数ページに過ぎません。日本社会に多大な功績を残した2人ですが、活動の広がりには違いを感じました。