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全部手放して、考える消費者になりたい

明日、大好きなとあるブランドでこれまで買った30余着用のお洋服を全部手放す。
全部手放して、私は「考える消費者」になる。

B社は、私のお気に入りのアパレルブランドだ。実店舗はなくECサイトのみだが、デザイン性が良く、品質に対して手頃な価格。積極的に更新されるインスタグラムから伝わる、女性の身体的悩みに応えようとするブランドメッセージにも好感が持てた。
コロナ禍で通販に慣れてからというもの、ここ1年半程で30万円くらい買い物をしている。
どこへ外出できるわけでもないのに、呆れるほどはまり込んでいた。

私はたぶん、何かを熱狂的に愛する能力がある。
何でも好きになりやすいのではなく、たまに、自分の価値観や美的感覚にピンと合ったものを深く愛する。
製作者を応援したい気持ちでお金をかけるし、その分期待もする。
期待をすると、その期待を叶えてほしいと願ってしまう。

さて突然だが、私のボディスタイルはごく平均的だ。「20代 女性 平均スリーサイズ」などと検索すれば表示されるそれとほぼ等しい。
しかしまあ在宅で運動量も減ったので最近ちょっと肥えてきたな、と、「2キロ痩せたらB社の服を1着買う」と目標を立てて減量に取り組んだ。

1.5ヶ月かけて目標を達成し、ずっと欲しかったハイウエストパンツを購入した。
それが届いて着てみると、身体と生地の間には5センチ以上のゆとりがあるのに、ファスナーが固くて上がらない。
成人男性のパートナーに協力してもらって、どんなに生地を真っ直ぐ正しても、上がらない。

このブランドのファスナー品質には課題があると、ブランド自身が以前インスタグラムで言っていた。「品質改善に取り組んでいます」と、真摯なメッセージに感じた。
私は今回初めてファスナーの不具合に遭遇し、「まあブランドも品質改善を頑張っていることだし、そのままにせずに相談してみよう」と思った。
やれやれ、VOCはちゃんと届けなきゃね、という大分お節介な思いだった。

しかし、カスタマーサポートに写真と動画つきで相談しても、「良品です」との回答だった。
動画の中でいくら生地を正しても上がっていないにもかかわらず、良品だと言い切る態度は、私の「期待外れ」だった。
その後3日のやりとりを経て、やっと実物を着用テストにて確認いただくことをお願いし、ブランドの指示通り私の送料負担にて返送した。

ブランドが実物を確認したところ、「平置きでは上がるので良品である。着用テストはできない。おそらく体型がサイズに合っていないので、個人の都合。着払いで返送する」との返答。
マネキンなどで着用時の確認もしてくれないのなら、何のためにお金をかけて送ったのか…?と不満が募った。
ごく平均的な体型で、かつ余裕のあるサイズを買ったのに、それでも「サイズオーバー」とでも言いたいのか。
ダイエットのご褒美に買ったつもりのパンツで、私の体型に問題があるとも取れる言われ方をされ、ひどく傷ついた。
惨めで、恥ずかしくて、自分の身体ごと大嫌いになってしまいそうだ。

ここまでファスナーひとつで大騒ぎして、自分でも阿呆らしくなってくる。
阿呆らしいのだが、私は良品のファスナーを買ったのではない。
洋服を買ったのでもない。
自分がこの商品から得たかった価値を買ったのだ。
その価値、つまり、日常生活の中でスムースなパンツを着て快適に過ごせること、さらには目標を達成した自分への誇らしさのご褒美、という価値が損なわれたことに怒っていた。(ご褒美がどうかなんてブランドが知ったことではないが、最低限フツーに服が着られること、という「ジョブ」を解決したかったのだ)
また期待していた通りの対応がなされなかったことにも怒っていた。女性の快適さを追求したブランドではなかったのだろうか。

どうにも納得できなかったので消費者センターに相談した。これが大きな学びとなった。

担当者に事情を伝えたところ、開口一番に言われたのが「よく今までご無事でしたね…」という言葉だった。
B社が「特定商取引法に基づく表記」のページに掲載している電話番号は、無効なものだった。メールアドレスも存在しない。連絡手段はウェブチャットのみ。
電話番号がない事業者には、消費者センターから連絡は取れないのだ。
そして返品も基本的には受け付けていない。
「このような事業者の通販は本来気をつけるべき。遅かれ早かれこのようなトラブルにはなっただろう」と言われた。

もちろん、B社を詐欺サイトだとは思わない。
ただ、トラブルがあった場合でも対応できる体制が整っている事業者かどうかは、購入=契約をする前に気を付けておくべきだったと反省した。(通販はクーリングオフが適用されないことも消費者センターで教えてもらった。)

コロナ禍で通販利用が増え、慣れてくると、「SNSで着ている人が多いし」「通販で不良品届いたことないし」なんて都合良く解釈し、基本的な責任や安心が損なわれていることを気にも止めなかった。


嫌な気持ちを断ち切るために、また未熟な消費者だった自分への自警のため、私はこれまでB社で買った全ての服を手放すことに決めた。
スッキリする作業かと思っていたが、始めてみると心が千切れるように苦しかった。

「このワンピースを着てると、歩いてるだけで楽しかったな」
「このスカートを着た時の自分のシルエットが大好きだった」
「出勤が憂鬱な時は、このセットアップで気分を上げたな」
「今年の夏はこのショートパンツで過ごそうと決めていたのに、まだ一回も履けていない」

洋服を通して、価値を、体験を、買っていたのだ。
仕事して稼いだお金をたくさん注ぎ込んだのに、その価値を十分に受け取れないまま手放すことになってしまったことが苦しかった。いまでも愛おしいし、求めた体験ごと捨て去るような気持ちだ。ちょっと泣いた。

しかし、この服たちを着たらきっと、自分の身体を嫌いになった感覚を思い出して悲しみに引っ張られてしまう。
だから手放して、もっと楽しいことで頭をいっぱいにしなくちゃ。

これからは「どんな価値を、何のために、誰から購入するか」をよく考えて消費をしたい。
自分で稼いだ大切なお金だから。

よく考えて、大切に思えるものにお金を支払って、愛でていきたい。

追伸。
7/10(土)、全ての服をセカンドハンドショップで買い取ってもらった。30万円分ほどの服がわずか7,000円になった。

30万円で私が得たものは、
服を選ぶ楽しみ、
到着まで待つ間のワクワク、
受け取った時のプレゼントをもらった感、
着て出かけた時に気分が高揚する感じ、
あるいは「この形の服は似合わないんだな」と言う経験、
最後に、消費に対して再考する機会。どんな価値を求めていて、それを誰から買うべきか。

それらを差し引いて、7,000円のお釣り。
さて、7,000円をどう使おうか。
お守りとして取っておくのも良い。
生活を豊かにしてくれそうな商品やサービスを、吟味して買ってみるのも良い。

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