福祉の給料はいくらあればいい?

他の記事にもたびたび書いていることだが、法政大学現代福祉学部の学生をやっていたとき、ともに福祉を学び、実習など経験して、福祉や介護のやりがいや課題を共有してきた仲間たちの大半が、一番人手が足らず新卒を喉から手が出るほど求めている福祉(介護)現場に結局就職していかない実態をみたときは、私の中で心の底から「なんとかしなければいけない」と思った出来事だった。

ちなみに、私が新卒で職業選択したときの思考プロセスはこんな感じだった。

<福祉の仕事をしよう。けど、障害とか高齢とか、特定の領域に強い関心があるわけではない。(当時の私の中で、対人援助を志すことと、専門領域をもつことが、矛盾するように感じているフシがあった)>

<新卒で右も左もわからないわけだし、どこに就職しても勉強になるだろう。それなりに歴史があって、人手が足りなくて困っていそうな組織にしよう>

<…漠然として決められないから、「住みたい街」を決めて、その近くにある組織にしよう。高円寺に憧れがあったので、そのへんに住みたい!さて、近くにある求人は・・・>

こんな感じだった。かなり感覚的で、突っ込みどころの多い決め方かもしれないが、当時の私の中ではこれが必然だった。住みたい街から決める以外思いつかなかった。笑

さて、話を戻すが、きいちの活動で、法政卒の社会人に、インタビューを行ってきた。

すると多くの人が、企業への就職か公務員になっているようだった。

お話を伺う中で、どういう理由から、その職業を選んだのか聞いてみると、私なりに大きく次の2点に集約されるように思えた。

①給料
②働き方

①に関して、この記事で少し深めて考えていきたい。
要は、「安定性」「将来の見通しがもてるか」「子どもを経済的な心配なく大学まで出してあげられるか」このあたりの不安感が少ない仕事は何かとなると、公務員という職業選択が有力になってくる。

②に関しては、別の記事で考えたいが、若く優秀な人材は向上心があるので、「多様な経験を積むことができるか」というのもポイントになるようだった。キャリアアップ、働き方の幅がある、等々の面からも、やはり公務員は人気のようだった。

もちろん、この2点以外にも、それぞれ関心のあるテーマを持っていて、それを動機に就職先を選んだ方も多いが、①給料、②働き方 を一切度外視して、関心あるテーマのみで突き進んだ人には、私は出会ったことがない。

そして、この2点で職業選択をすることは、私は一つの正解だと思う。

福祉業界で仕事をして8年がたった。若造であることは間違いないが、多少は業界がどんな感じが見えてきたところもある。

確かに、公務員を選ぶのはいいと思う。離職率などかなり低いらしい。また、介護福祉士を志望するより、資格としては看護師を取っておいたほうがいい。看護師でも介護はできる。給料もいい。みたいな、「正解のルート」はいろいろある気がする。

けれども、もし学生時代に戻っても、私は当時と同じ思考プロセスで仕事を選んでしまう気がしている。理由はこんなイメージだ。

給料は大事。給料というか、援助者自身の生活が安定していなければ、他人の支援どころじゃない。まずはここ。

そのうえで、コロナ渦になり、「エッセンシャルワーカー」という言葉をよく耳にするようになった。
また、「ブルシットジョブ クソどうでもいい仕事の理論」という本が話題になっている。
本当に必要な仕事と、そうでない仕事、これはおそらく示すことができる。(本の中でかなり具体的に示されていて、面白かった。)

コロナ渦で、やはり一番のエッセンシャルワーカー(必要不可欠な仕事)と言えるのは、医師や看護師といった医療従事者ではないか。病院は「最後の砦」として私たちを支えてくれている。

そして、福祉で「最前線」で戦っているのは、特別養護老人ホームをはじめとする『入所系事業の従事者』ではないかと私は思っている。ここの職員たちも、どんな状況でもシフトに穴をあけるわけにはいかず、テレワークも許されない。

コロナ渦によって、本当に必要な仕事、その次に必要な仕事、その次に・・といった感じで、職種に付けられる優先順位が見えてきたように私は感じている。

特養は介護保険施設なので財源の多くは保険料かもしれないが、公務員とか障害者福祉施設などの職員の給料の財源は税金であり、税金をどう使うかとなれば、「本当に必要で価値のある職種」にしっかり給料を保証してあげてほしい、というのが多くの人が抱く感覚なのではないだろうか。

もしかしたら、本当に必要で価値のある職種ほど、地味で過酷で、人手不足なのかもしれない。

けれどそれじゃまずい。

まずは給料を保証し、優秀な人材を呼び込み、変革していかなければいけない。

(自分が優秀だとは全く思わないが、人手不足だが必要で価値ある仕事に従事し、今は待遇が悪くても、改善をめざすという意味で、そこに従事することを選びたい。自分の中で「クソどうでもいい仕事」ではなく。(笑) こんなイメージ。)

じゃあ、その給料って、いくらが妥当なの?という話。

今回のテーマでは、日経ヘルスケアによる「介護職員キャリアパス給与制度構築・運用マニュアル」を参考にさせていただくことにした。
…正直、この本かなり高価で、レジに持っていくまでかなり長い葛藤があったが、福祉の給与とかキャリアパス(働き方)を考える時、この本以上に具体的で参考になる文献は現状無いと思う。そのくらい勉強になった。まだ五分の一くらいしか読んでないけど。

相談員などを含めた「福祉職員」というくくりにすると微妙だが、こと「介護職員」に関しては、給与は年々上がっていると言えると思う。これは、アベノミクス<介護離職ゼロ>による、2017年・2019年に打ち出された「処遇改善加算」が大きいと思われる。

なぜ介護職員なのかと言われれば、やはり「必要な仕事」であり、しかし圧倒的に人材が不足(2025年までに約32万人の不足)していることが理由だろうと思う。

そして、介護の人手不足を考える時、つい抜けてしまいがちな視点がある。

それは、「質」のことだ。

別の記事で書いたが、自分や、自分の家族、大切な人のQOLを、いずれは介護に任せることになる、という現実に対する真剣な議論が、まったく不足している。

人材不足が解消すればいいわけではない。「優秀な人材」が来たくなる業界に変革しなければ、福祉業界のあらゆる問題は解決しない。

話を戻すが、じゃあどのくらい介護の給与が上がっているのか。

まず、2019年の介護職員等特定処遇改善加算は、使い方に工夫の余地がある加算だが、一つの目安として「経験・技能のある介護福祉士(例:勤続10年以上)の年収が440万円以上」というものだ。

なぜ440万円なのかと言えば、役職者を除いた全産業の平均賃金らしい。
とても分かりやすい目安だと思うので、皆さんがこの数字をどう考えるのか、世論的に議論が大きくなってほしいと願っている。
(ここで細かい話をするつもりはないが、個人的には夜勤手当を入れてこの金額はかなり厳しいな・・と感じた。30歳を超えて夜勤をやるのは個人的にはなかなかしんどい。みなさんはどうだろうか。)

また、前の仕事が世田谷だったので世田谷区の事例も紹介したい。
以下参考文献からの引用である。

介護職のリーダーを担う正社員のモデル年収として、現在の約376万円から約456万4000円へと一気に80万4000円のアップを図る(夜勤月5回、日祝手当を含む)。リーダー以外では介護福祉士相当の資格を有する正社員では、現在の年収330万円から394万8000円へと約65万円引き上げる。

そして第2段階として、2022年までにリーダークラスの介護職員については処遇を看護師と同等の水準までアップさせ、介護職や介護業界全体の社会的地位の向上に取り組んでいくという方針を打ち出した。併せてキャリアアップの仕組みの進化や職場の環境改善なども図るとしている。


看護師と同水準へ。なるほどなるほど。
どう思いますか?

これら以外にも、様々な取り組みがあり、介護の人材獲得競争は一層本格化している。

結果として、介護の待遇改善と、ブラック要素をすべて排除したホワイトな職場環境が拡がり、介護や福祉が人気職になり、結果サービスの質が向上するというビジョンを描きたい。

さて、シンプルな内容の記事が書きたいので、テーマを「給与」のみに絞ってまとめたい。

介護が「必要な仕事かつ不足している」と社会的に認知されているため、これからも少しずつ待遇は上がっていく。
しかし、待遇を上げても、結果として優秀な人材が来てくれなければ何の意味もない。
そのときに

・年収440万円以上(おそらく夜勤手当含む)という給与が魅力的か?
これはまず、議論が大きくなってほしいところだ。
みなさんはどう思いますか?

もう1つ。
冒頭書いたような理由から、どうやら公務員が人気の職種になっているらしい。であれば、「公務員の待遇に準じた給与水準」を一つのモデルにすればいい。ざっくりだが、財源は税金でほぼ同じわけだし、何か不都合なことってあるのだろうか。

≪それなりに頑張っていれば、公務員と同程度の「安定」が手に入る業界≫と堂々と言えれば、給与のみに関して言えば結構いい線いってるのではないだろうか。

介護・福祉の待遇改善を考える上で大切なのは、他産業と同程度の水準に引き上げることではなく、業界が求める「優秀な人材」を具体的にして、どうしたら来てもらえるか、ということに知恵を絞ること。そして結果を出すこと。
これだろうと思う。


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