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菅原文仁戸田市長と市内在住の特別支援学校保護者との座談会 「医療機関の充実化、高校卒業後の居場所の確保、移動支援の利用緩和を」

「菅原文仁市長と戸田市在住の和光特別支援学校及び和光南特別支援学校の保護者との座談会」が冨岡節子氏(NPO法人オリーブアゴラ)の呼びかけにより、戸田市内で開催しました。我が子の日常や将来がより良くなることを願う保護者による、専門医療機関・発達相談窓口の充実化、将来的な居場所、移動支援の利用緩和などの課題提起をもとに、菅原市長と意見交換を行いました。本会の模様を取材させていただけることになり、レポートをお届けします!

和光特別支援学校、和光南特別支援学校の保護者計9人が参加し、菅原市長に要望を伝えた


学校と専門病院が遠いため、戸田市や近隣に専門の医療機関を設けてほしい


 お子さんが和光特別支援学校に通うAさんは、「肢体不自由児だけが通う和光特別支援学校は、脳の障がいの箇所によって障がいの出かたは違うものの、体の筋肉がうまく機能しないことがほとんどの生徒に共通している。そのため、たいていみんな同じ専門病院の整形外科や脳神経外科の先生にかからないといけない状況にあり、中でも困っているのが通院にかかる時間が長過ぎること」と提起した。

 Aさんによると、平日週2~3日は北療育医療センター(東京都北区)への通院のため、朝50分ほどかけて病院に行き、病院が終わり次第、再び50分ほどかけて学校へ送る。その後午後まで授業を受け、下校時は学校からバスで50分かけて戸田に帰ってくるという。「現状維持のためのリハビリだけでも週1日では足りず、小児の整形外科のほかに小児神経外科の先生にも定期的に診てもらわないといけない。戸田市内や近隣の蕨市・川口市で診てもらえたらどんなに良いか」とAさん。

スクールバスは、複数のバス停を大回りしているため、片道でも1時間近くかかることが多い


 Aさんからは一例として、戸田市立市民医療センターなどに、定期的に北療育医療センターの専門医を派遣するシステムを導入してはどうかとの提案があった。これに対し、菅原市長は「北療育医療センターには、障がい児を診たことのある小児神経、小児整形、小児のリハビリなどの数少ない専門医が在籍しているからこそ患者さんが集中している。ただでさえ少ない専門医を戸田市に定期的に派遣するというのは、事例もないうえに、都民の税金でまかなわれている都立病院の先生を埼玉県の戸田市に派遣するというのは、現実的ではないのではないか」と語った。

 また、埼玉県には、専門医が多く在籍する埼玉県立小児医療センターもあるが、「埼玉県立小児医療センターも選択肢の一つだったが、戸田からは北療育医療センターの方が行きやすかった」「埼玉県立小児医療センターに入院したことがあるが、もともと北療育医療センターにかかっていたため、退院後のリハビリは受け入れてもらえなかった」「埼玉県立小児医療センターの集中治療室に入院したが、退院後はかかりつけの戸田中央総合病院に戻るように言われた」とのほか、Fさんの「発達の心配が出て、初めて診てもらう際、戸田市立市民医療センターでは予約が取れにくかったため、北療育医療センターで発達の検査などをしてもらった。その後継続して、小児科、発達心理学、整形外科、リハビリと進んでいってしまい、すでに他院に移るのは難しくなってしまった」との声も。

障がい児が増え続けているなか、足りていない発達外来


 学校のある和光市から距離のある都内の病院に通うケースが多いため、「車を運転できないので、朝一で予約を入れても学校に戻るのが時間的に難しく、通院の日は学校を休まざるを得ない状況。なんとかならないか…」とFさん。発達の心配が出はじめた初診のタイミングでは、就学先のことまで考えられていない場合も多い。とくにFさんの場合は、地域の保育園に通っていたため、特別支援学校に学区があることさえ知らなったという。「川口市の特別支援学校に通うことになるのかと思っていたら、朝霞市・新座市・戸田市の学区域が和光市の学校と知り、引っ越すしかないのか…と本気で悩んだ。戸田市やその近郊の医療機関で受診できたらずいぶん楽になるのですが」



 戸田市には、市内で長年診てこられた発達外来の名医であるH先生がいらっしゃるが、「H先生はご年齢やご体調の事情で、今は初診の受付はされていない。今後のご体調によっては、引退も考えられていると聞く」とDさん。戸田市立市民医療センターにはF先生もおられるが、水曜日午前中しか受け入れがないため、半年待ちの予約状況という。「戸田市で障がいのある子どもは確実に増えている。実際、支援級も増えており、発達外来がいよいよ足りない状況ではないか」との声があがった。



早期に対応できるよう健診時の発達相談での的確なアドバイスを望む

 一方で、健診時での発達相談に関する要望も。Gさんによる「保健師さんからの助言が明確なものでなく、進路に迷ってしまった」との意見のほか、「発達のことは言う側も気をつかうので、保健師さんも『遅れてますよ』とは言いにくいのかもしれない。ただもう少し気軽に、健常の子、障害のある子など関係なく集まれる場があって、そこにプロの方がいれば、もうちょっとスムーズに助言をもらえるのかもしれない」というHさんのお話など、情報が入ってきづらいこと、気軽に相談できる場所を求める声もあがった。

 和光南特別支援学校に2人のお子さんが通うEさんは、「子育て広場で保健師さんに何度か見てもらったのをきっかけに、電話でも相談したことがある。当時は第一子の子育て中でサークルなどにも積極的に参加していた。でも第二子、第三子だったり、第一子でも引っ越してきてすぐの場合は、保健師さんなどに巡り会う機会自体なかなかないかもしれない」と、親身になって相談に乗ってくれる専門家と会える場の必要性を語った。

「うちは3人いるが、和光南特別支援学校に通っている息子が初めての子で、『男の子で3月生まれだとこんなもんだよ』『もう少しで喋るよ』と助言を受けていた。でもこれがもし第三子だったら、自分でもう少し早い時期に疑っていたと思う。早い段階でいろいろな情報をいただければ対応も早められるので、健診の場に発達の心理士さんなどにいていただければよかった」とHさん。また、Fさんは「例えば、市役所の保育幼稚園課にいらっしゃる保育コンシェルジュのような方がいてくれたら、障害のある子、グレーゾーンで心配という子の親も気軽に行けるように思う」と語った。

 こうした声に対し、菅原市長は「発達相談は保健センターに連絡していただければ、おそらくどなたでも受けられるはずです。ただダイレクトに発達の専門家が対応するというよりは、窓口から専門家につなぐことになるかもしれません」と答えた。

保健師さん含め発達のプロに気兼ねなく相談できる場を希望する声


子どもたちの自立に向け、就労後の社会参加の場が必要


 知的障がい、自閉症スペクトラム症の子などが通う和光南特別支援学校にお子さんが在籍するHさんは、将来的な環境について次のように話した。「高校卒業後は、放課後等デイサービス(以下、放デイ)が利用できなくなるが、18歳以上になった子どもたちの居場所をどうか大切にしていただきたい。例えば、さいたま市では『日中一時支援』を延長して、作業所等の就労施設内で就労後最大6時間まで預かってくれる支援が2022年から利用できるようになっています」

さいたま市の生活介護事業所や就労継続支援B型事業所6箇所では、就労就労後の夕方預かり支援が行われている(写真はイメージ)


 併せてHさんからは、放デイの中に新たに18歳以上向けの「成人の部」のような枠を設けてもらえるサービスの要望も。「就労施設は15~16時には終わるため、親が17時まで働いていると対応できない状況。子どもの自立のためにみんな頑張ってきているのに、健常の子なら手が離れていく高校卒業時に、親が再び手をかけなければいけなくなってしまいます」

移動支援で通学・通所支援の適用の実現を


 事実、高校卒業後のほうが人生は長いため、その後の支援が戸田市にあることを願う声。「移動支援に関しても、通学通所支援が可能になれば…。いま少しずついろいろな自治体で新たな動きが出てきてはいる」とHさんは語る。続けてDさんも「この10年間でも、移動支援の需要や保護者の考え方、働き方がずいぶん変わってきたように思う。実際、さいたま市では、通学通所支援が移動支援と別枠の時間として設けられるなど、今のニーズに合わせたものを取り入れている」

 さいたま市を例に見ると、通学通所支援は月23時間まで、それに加え、移動支援は最大70時間使えるという。戸田市では、現状、移動支援・行動援護合算で50時間まで。「高校卒業後は放デイもなくなるため、作業所での就労後に余暇活動を移動支援の事業所にお願いすると50時間では全然足りない。この子たちの余暇活動や仕事内容はとても大切なんです。充実した生活が送れないために、性格が荒れてしまったり、人が変わってしまったということも実際にある。健常者のような生活を送るためには、充実した社会参加と余暇活動が必要であると考えています」とHさん。

 支援の条件も見直しが必要といい、ヘルパーは学校や職場までは連れて行けず、バス停までしか行けないというのが戸田市を含めた多くの自治体にある。しかし横浜市でも学校や職場まで行けるように条件が緩和されているという。横浜市は、従来の移動支援と通学通所支援の合算で月30時間まで。また、行動援護はそれとは別に月48時間が設けられている

横浜市では、保護者のニーズに加え、移動支援事業団体などのバックアップにより移動支援に通学通所支援が盛り込まれた背景があったという


 Aさんは「戸田市は車も使ってはいけなくて徒歩のみ。移動支援で真夏の炎天下でのお散歩はヘルパーさんも辛いですし、車椅子の場合は移動も大変です。車の使用など少しずつ制限を緩和できたらよい」と語った。

中度以上の子、年齢の高い子向けの放デイが少ない現状


 続けて、放デイの受け入れについて。新規はじめ多くの放デイは支援級に通うような軽度の子向けが多く、中度以上の子の受け入れが少ないのが現状という。また、小学校低学年でなければ預かれないというところも多い。「肢体不自由の子、重度の子が入れる放デイは少ない。対応可能な放デイができてもあるとわかった時点で殺到して溢れてしまう。数が増えていってくれたらうれしい」とGさん。Fさんからも「支援級の子は、中学校までは放デイに行っていても、高校では行かなくなる場合も多いと聞く。支援学校に通う上の年齢の子、重めの子が通える場所があったらいい」との声があった。

中度以上の子や中学生以上に対応でき、投薬も可能な放デイの必要性



 最後に菅原市長からは、「ちょうど昨日、『戸田市心身しょうがい児・者を守る親の会』の総会に行ってきました。情報が入りにくいというお話もありましたが、みなさんのような若い世代の親御さんも入られて年代をまたいで活動していけたら良いように思いました」

 市役所の担当部署の職員は部署異動や転勤などで離れてしまうことも多く、これまでの流れを全て理解している職員が不在になってしまう場合もある。「そのためにもみなさんがコミュニティをつくったり、既存の会に入るなどして、定期的に集まって下の世代とも情報を共有してあげられるとより良いように思いました」と菅原市長は語った。

(2024年7月●日現在)


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