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【vol.13】落語会、講談・浪曲会、ライブ… 演芸場「道楽亭」席亭 橋本龍兒さん 「お客さんと一緒につくっていく寄席に」

新宿二丁目にたたずむ小さな演芸場「道楽亭」。2010年の立ち上げ以来、落語会、講談・浪曲の会、お笑いライブ、音楽ライブなどを開催し、若手育成の場としても多くのファンに親しまれてきた。そんななか受けたコロナの直撃で、現店舗での活動をいったん休止せざる得ない状況に…。窮地に立たされた席亭・橋本龍兒さんは、道楽亭を新店舗で存続させるためのクラウドファウンディングを9月にスタート。なんと2日間で320人が参加し、第1ステージの目標金額を達成、現在第2ステージに入っている。多くの人たちから愛される道楽亭の魅力、席亭・橋本さんの素顔に直撃した。


── 新生・道楽亭オープンのためのクラウドファウンディングは第2ステージに入りました。

 常連さんのほかに、地方在住の方や道楽亭に一度も足を運んだことのないお客さまからもご支援いただき、「こんなにも応援してくださる方がいたなんて」と感謝しきりです。いま新店舗の物件探しの真っ最中ですが、11年と9カ月間使って来た設備の刷新や今後の運営の予備費、コロナで生じた損失の補填など支援金の使い道はいくらでもあるので、10月29日の最終日まで引き続きご支援よろしくお願いします。

 新店舗オープンは年内を目ざしています。新宿2丁目にある現店舗は東京の西側からも東側からもギリギリ足を運びやすい立地なので、できればこのあたりで探すつもりではいますが。

 公演内容はもっと幅広く「道楽亭」ならではの楽しみ方を広げられる工夫していきたい。たとえば、常連のお客さんにお願いして番組編成に加わってもらったり、ポイントシステムを導入して会員になった方には特典をつけたり、一月に一回くらい過去に配信した番組を観ながらワイワイやる道楽亭の日なんかがあってもいい。「笑点」のような大喜利的な企画なんかに手をつけていきたいですね。お客さんにもっともっと楽しんでいただける場にしたいです。 


── 道楽亭は高座と客席とが本当に近くて、かなり迫力のある公演が聞けるのでしょうね。

 目の前でマイク通さずに落語を聞けるのがうちの一つのウリ。また、今はコロナ禍で開催できていませんが、会終了後にここで打ち上げをやって、お客さんと演者さんが身近に触れ合って、一緒に食べたり飲んだりできます。そこにオーナーとして自分も加わっているから、お客さんとも自然と親しくなりますね。そういう皆さんがクラファンにも支援してくれていて、本当にお客さまは宝、感謝しかありません。


──無名だった若手が道楽亭で場数を踏んで羽ばたいていったという話も聞きます。

 講談師・神田伯山さんなどはその典型といえるかもしれません。そもそも若手は会をやる場所がないから、場所があるだけみんなありがたがってくれているのかな…。道楽亭で育ったなんておこがましいことは言えないけれど、有名どころから二ツ目、前座さんにこだわらず万遍なく会を企画して打診したり、演者さんの企画で実験的な「道場」としての会も数多く開催しています。

 落語は学生時代から聞いてきたけれど、ほんの暇つぶし程度でした。それがちょうど今から14〜15年前、経営していた編集プロダクションの社長時代に、版元から落語雑誌の企画を相談されたのをきっかけに当時の落語に触れ、「こんなにおもしろい落語家がたくさん出てきているのか」と、そこから一気にハマっていったんです。そうした若手を含む演芸を世の中に広めたいという思いが、もしかしたら自分の中に芽生えつつあったのかもしれません。


──「道楽亭」オーナーにいたるまでのお話をお聞かせください。

 大学を卒業後、出版社に就職して、33歳のときに独立。結構有能な社員だったと自負しているけれど(笑)、態度は悪いし、あまり人の言うことも聞かない、新しい上司とのソリも合わず、会社にいられなくなったから辞めて独立にいたった(笑)。ただその頃には、ライターやデザイナーなどフリーの仲間がたくさんいて、その中の6〜7人のメンバーが集まって会社を一緒にやろうという話になり、編集プロダクションを立ち上げたんです。

 約27年間、一番多い時期は40人の社員が在籍して、分冊百科のパートワークや月刊誌を中心に、書籍の企画・編集などを請けていました。

 2010年に自分の落語好きが興じ道楽亭を立ち上げた。最初の1年間は編プロの社長業の傍らだったので基本的に専属スタッフに任せての運営でした。ところが1年経過したころに、経営していた編プロを閉鎖することに。それを機に道楽亭は自分とカミさんを中心に運営することにしたんです。

 会の企画、噺家さんへの打診、チラシも毎回自分でラフコンテをつくってデザイナーに発注しています。現在はこのほかに予約受付担当とオンライン配信担当がいます。


──コロナ禍を機にオンライン配信もスタートしたのですね。

 昨年の緊急事態宣言下、4月〜5月半ばは休業し、5月上旬からオンライン配信の準備を始めて、5月にオンライン配信だけの会をスタートしたのが始まりです。地方在住の方、コロナ禍で動けないという方はとても喜んでくださっています。演者さんによっては50〜60人から配信申し込みがあって、リアルタイム視聴は全体の3分の1くらい。仕事でその時間に来られない、見られない人のためのアーカイブ視聴の需要がやはり多いですね。


──無名の新人の会などでお客さんが集まらず、たとえ赤字になってもめげずに会を続けてこられたと聞きます。オーナーの単なる道楽で務まるものではない、と演者さんから賞賛の声がありましたね。

 どんぶり勘定でチャランポランだからやってこられただけ(笑)。ずっと綱わたりでやってます。そのチャランポランをみなさんがおもしがって、ついてきてくださっているだけです(笑)

 学生(早稲田)時代、応援部だったから、人を集めてマネージメントをするのは昔から得意だったかもしれません。また高校時代から表舞台でどうのこうのというよりも、裏で画策するのが好きでした。今の仕事もそうだけど、こうしたらもっと面白くなるのではないか?などといろいろ考え工夫し、実際の公演に生かす。それは編集の仕事も同じですよね。

──編プロ時代の元社員も道楽亭にボランティアで手伝いにきてくれているようですね。お客さんのなかにも橋本さんのファンがとても多いように感じます。昔から仲間に囲まれて過ごしていたのですか。

 子供時代から友達は多かったほうですね。またつねに人生トップではなく2番手、3番手で、ガキ大将の次か次の次くらいのポジション(笑)。出身は大分なんだけど在籍していた中学は半分が上品な生徒、もう半分が大分一のワルい生徒の集まりで、かなりヤンチャな奴もいましたが、自分は成績トップクラスからビリの友達まで分け隔てなく付き合いが広かったです。まあ自分はせいぜい小悪党程度でしたね(笑)

 高校時代は応援団仲間十数人で大分県の応援団を全て集めて会合を開催して、それを仕切ったり、仲間の誰かがいじめられたらみんなで仕返しにいったり(笑)、自分が一番先頭に立っていたわけではないけれど、メンバーをまとめたり、メンバーみんなで行動したり…昔から仲間を率いるのは好きだったかもしれません。


──今回のクラウドファウンディングに際して、瀧川鯉昇師匠、三遊亭遊雀師匠、古今亭文菊師匠、三遊亭萬橘師匠、三遊亭天どん師匠、快楽亭ブラック師匠、春風亭柳枝師匠、桂宮治師匠、芸人の居島一平さんほか錚々たる面々から届いた道楽亭への応援メッセージ動画。皆さんプロの噺家さんだけにそれ自体が話芸のようで、とても楽しませていただきました。

 道楽亭が皆さんに支えられていることを実感します。月に4〜5回落語会をやっている飲食店や、貸席専門で毎日落語会をやっている落語カフェというのはありますが、うちみたいに小さい寄席を毎日やっている店はほかにないので、演者さんにとって貴重な場になっているのならうれしい限りです。

 また若手にとっては、会後のお客さんとの打ち上げが別の仕事につながるケースもあるようで、意外と貴重なコミュニケーションの場になっているのかもしれません。打ち上げの食事も美味しいと好評で、早くコロナが落ち着いて以前のように本格的な打ち上げができるようになるといいです。

──編プロの経営から一転、寄席のオーナーとしてのご苦労はありましたか?

 座右の銘は「人生一勝一敗なんとかなるさ」

 どんな商売でもやっぱり人間関係がすべてだから、異業種とはいえとくに違いは感じません。ただ本当なら、今ごろは編プロを誰かに任せて自分は顧問役などにおさまり、好きな阪神タイガースの観戦や落語を観にいったりして悠々と過ごすつもりだったんですがね(笑)。現実は、ほぼ毎日開催する会の仕事に朝から晩まで追われる日々(笑)

「マグロみたいに動いていないと死ぬ」ってよくカミさんから言われるけど、きっとずっと動き続けていないとダメな人生なんだろうな(笑)
(2021年10月3日)

【PROFILE】
橋本龍兒(はしもと りゅうじ)
 1951年大分県生まれ。1975年早稲田大学社会科学部卒。大手出版社で9年務め、1984年に独立、仲間と編集プロダクションを立ち上げる。2010年自らの落語好きが興じて演芸場「道楽亭」をオープン。2011年以降は活動を道楽亭にシフトし、席亭としてほぼ毎日落語会、講談・浪曲会などの会を仕切っている。定員50人の店内はコロナ禍により20人程度に減らして会を開催中。木戸銭は1500~3000円(オンライン配信は2000円〜)。終演後の演者さんを囲んでの「打ち上げ」は現在コロナ禍で不定期開催(美味しいと評判の料理6品・飲み放題で3500円)。道楽亭存続のためのクラウドファウンディングにご興味のある方はコチラから(10月29日まで)

\編集後記/

 席亭・橋本さんとの出会いは今から約15年前に遡る。新宿2丁目の雑居ビル内にある編集プロダクションの面接でのことだった。こわもての一見ガラの悪そうな社長が目の前に現れ、「こ、これはまずいところに来てしまったのではないか…」と急に不安になったことをいまでもよく覚えている。ただ、ぶっきらぼうにいくつか質問をされた後に「そっちから質問は?」と問われ、会社のことご自分のことを話される姿に朴訥とした印象を受け、最初の不安はどこへやら…みるみる安心感・親近感に変わっていった記憶がある。入社後は怒鳴られたり、なぜか怒鳴ったことを謝られたり…も思い出深いが、橋本さんの編集者としてのこだわりは学ぶべき部分がとても多く、なんだかんだ社員全員から慕われているニクめない社長だった。
 今回、道楽亭再建に向けたクラウドファウンディグをスタートしたと聞き、現在にいたるまでの橋本さんのヒストリーを聞かせていただくチャンスと思い、取材を打診させていただいた。実現できて本当にうれしく思っている。
 どうか良い物件が見つかりますように! (サクリン堂)


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