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ヤクザvsアンデッドヤクザ

ヤクザになんてなるんじゃなかった。

地面に突き刺したシャベルの足掛けに体重をかけながら、俺は零細ヤクザ黒沢組に入ってから何度目かの後悔をしていた。
ここはヤクザの死体遺棄の聖地、通称ヤクザノモリ。
カタギのように真っ直ぐと伸びる木々とは対照的に空気は重たくあまり長居をしたい雰囲気じゃない。
まだ膝ほどの深さにも達していない穴から目をそらし、傍らのブルーシートを見る。
そこには事務所の金に手を出したあほの死体がある。

他の組員たちがせっせと穴を掘ってる中一人さぼっている俺に気付いたのか
「手ェ止めてんじゃねえぞ新島ァ!」
現場の指揮をとる若頭からの怒号が飛んでくる。
「あいすいませんっす」
形ばかりの謝罪を返すと矛先を他の組員に向けて
「てめえらもノソノソ動いてんじゃね!」
巻き添えを食らった奴らの恨みがましい視線から逃れるように俺も作業に取り掛かる。

そもそも若頭が怒りに任せてこいつの頭をガラスの灰皿でぶっ叩かなきゃこんなことする羽目にならなかったのにな。

あほと若頭どっちも悪い。

愚痴っていても仕方ないか。
明日は筋肉痛だぞ、と若頭に聴こえない小声で呟きシャベルを掴む手に力をこめると

「誰だお前」

唐突に作業仲間の柳の声がした。声の方に顔を向けると柳のすぐそばに見知らぬ男が一人突っ立っていた。
この近くの集落の住人が音を聞きつけてやって来たのかと思ったが、それにしてはやけに格好がボロボロだ。

すると男がふわりとゆっくりした動きで両手を柳の肩にかける。
「なんだよおまえ……」
困惑する柳。さっきまで怒鳴り散らしていた若頭も突然の闖入者にビビっている。
だが俺ははたと気付く。
こいつ……指が数本欠けている。
つまりカタギじゃない。他の組の者か?ならどうしてわざわざうちの作業場に顔を出したのか。
挨拶にでも来たのかな?と呑気な考えが次々に浮かぶ。しかしそんな俺を即座に裏切る事態が起こった。

男が柳の首をへし折ったのだ。

つづく


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