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風の季節ほか

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「紫陽花の季節」スピンオフです。 「風の季節」「hollyhock」「白梅の薫る頃」「紫陽花の季節、君はいない」完結しました。 「夢見るそれいゆ」「紫陽花の花言葉」連載中です。
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2020年9月の記事一覧

夢見るそれいゆ 62

夢見るそれいゆ 62

ゆかりちゃんは、本当に良い子だ。
基本的に性格が明るい。そして、美人だ。
今は黒髪だけど、夏越クンから紫陽の時の銀髪も綺麗だったと聞いている。

夏越クンが帰ったあと、
「生まれた時は、まだ日本にいたんだよー。
でもママの国に住むことになって、日本を離れちゃったんだよね。」
とゆかりちゃんが私に教えてくれた。

「ゆかりちゃん、夏越クンのことを想う気持ちって、ずっと変わらなかったの?」
私は疑問に

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夢見るそれいゆ 61

夢見るそれいゆ 61

正午頃、夏越クンとゆかりちゃんが帰ってきた。
「久しぶりに皆といっぱいお喋りして、楽しかったぁ!」
「そうか、良かったな。」
夏越クンが優しい眼差しをゆかりちゃんに向けている。

少しだけちくりと心が痛いけど、私はこの光景を見慣れていかなくてはならない。

「ヒナちゃん、お弁当買ってきたから皆で食べよう。」
ゆかりちゃんが、テーブルに人数分の弁当を並べた。

「いただきます。」
ゆかりちゃんが、ひ

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國吉の猫 弐

「夢見るそれいゆ」に出てくる猫の姿をした桜の精霊、朔のひとりごとの第二弾です。

僕は朔。國吉に飼われている、猫の姿をした桜の精霊だよ。

夏越の祓の前日、ひなたに振られて國吉、かなり落ち込んでたんだよねー。
まあ、あれは時間帯も悪すぎた。僕だって、あんな夕闇に迫られたら怖くて逃げるよ。逢魔が時って言うでしょ?

しばらく、心あらず状態だったから奥の手の猫パンチを食らわせたさ。
何せ、次の日は夏越

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夢見るそれいゆ 60

夢見るそれいゆ 60

翌朝、夏越クンとゆかりちゃんは八幡宮まで出掛けていった。
私は一緒に行くわけもなく、先週自宅で作り散らかした布地の片付けをしている。

「ゆかりちゃん、とても良い子ね~。」
ママはご機嫌である。
それというのも、ゆかりちゃんのお陰で父親(私のおじいちゃん)がママを今も大事に思っていることが分かったからだ。

会いに来なかったのは、ママのお母さんが会うことを禁止していたからで、時々知り合いの伝でママ

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夢見るそれいゆ 59

夢見るそれいゆ 59

「ねぇ、今ウチの庭紫陽花が見頃なの。
せっかく再会したんだから、二人で話してきたらどうかしら。」
ママがニコニコ顔で提案した。
半ばママに押し出されるように、二人は庭に出ていった。
そして、勢いよくカーテンをシャッと閉めた。

「…あ、あんな夏越くんはじめて見たわ。」
ママはまるでお化けに遭遇してしまったかのような顔をした。
ママにとって、自分の異母妹が元・精霊という事実より夏越クンの幸せデレ顔の

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夢見るそれいゆ 58

夢見るそれいゆ 58

黒髪に紫陽花ブルーの瞳の少女。色白の肌に薄紫のワンピースが映える。

ゆかりちゃんが紫陽?

「ナゴシ…やっと会えた。」
彼女はボロボロ涙を流した。
夏越クンがどうしたら良いか、困惑している。
パパもママも状況が飲み込めない。

ここは、私がなんとかしなくてはいけない!!

「夏越クン、今…ゆかりちゃんの事『紫陽』って言った?
私が小さい時、よく眠る前に紫陽花の精霊のお話してくれたよね。恋人だった

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夢見るそれいゆ 57

夢見るそれいゆ 57

ママが家を出て数分後、夏越クンがウチに着いた。
私とパパで出迎えた。

「よう、夏越!俺たちの事情に巻き込んで悪いな。」
パパは申し訳なさそうに夏越クンに話しかけた。
「俺で役に立つのか分からないけど…。」
「ううん…夏越クン、来てくれてありがとう。」
夏越クンがいるだけで私たち家族は心強い。

夏越クンは、家の中を見回した。
「それで、あおいさんの妹さんはもう来てるの?柊司。」
「今、あおいが迎

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夢見るそれいゆ 56

夢見るそれいゆ 56

「心配も何も、俺は夏越を信じてたからさ。
実際、落ち着きを取り戻してからは、ひなの看病きちっとやってくれたし。」
「うん、私が意識を取り戻した時には、いつもの夏越クンだった。」
パパは娘を任せても大丈夫な位、夏越クンを信頼しているんだ。

「…パパ、生まれ変わりとかって信じる方?」
「何だ?急に。」
私はハッと我にかえった。もし信じないと言われてしまったら、どうするつもりなんだ私。
「あ、気にしな

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夢見るそれいゆ 55

夢見るそれいゆ 55

パパは気まずそうに、口を開いた。
「あのな…アイツから口止めされてたんだけど、お前が雨の中倒れてたのを見つけたとき、俺のスマホに電話がかかってきたんだよ。
仕事中だけど、滅多に電話なんてかけてこないから何事かと思ったら、『ひなたが雨の中倒れてた。どうしよう、ひなたが…死んでしまったら。』って。」
夏越クンは、きっとあの日をフラッシュバックしてしまったんだ。
夏越クンの腕の中で紫陽が消えた、15年前

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夢見るそれいゆ 54

夢見るそれいゆ 54

夏越クンは今年38歳になった。
パパの同級生だけど、見た目は私が幼い頃とほとんど変わらない。
もしかしたら、紫陽がいなくなってから年取るのを止めてしまったのかもしれない。
(こないだ夏越クンに『年取らないね~』と言ったら、『いや、疲れが最近取れなくなったよ。』と言われた。)

そういえば、紫陽が順調に生まれ変わっていたら、私と同い年なんだよね…。
生まれ変わった彼女は、夏越クンのこと覚えているのだ

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夢見るそれいゆ 53

夢見るそれいゆ 53

夏越クンはさっとシャツを羽織ると、後ろを向いてボタンを閉めた。
夏越クンの上半身裸なんて、家族と一緒に海に行った時とか見ているのに…どうしたんだろう私。

夏越クンの着替えが終わった。
「ひなた、サイズもぴったりだよ。」
「夏越クンにはTシャツより襟付きのシャツが似合うと思って。布帛は伸びないから採寸頑張った甲斐があったよ。」

採寸したのは、文化祭の前。
その頃は、夏越クンに触っても全然平気だっ

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夢見るそれいゆ 52

夢見るそれいゆ 52

翌朝、私は夏越クンの家に行った。
今日6月30日は、夏越クンの誕生日である。

「おはよう、夏越クン。誕生日おめでとう!」
「おはよう、ひなた。ありがとう。」
夏越クンは休みの日だけど、きちんと着替えていた。
昼間、私の家に来る前に八幡宮の夏越の祓の儀式に参加する為だ。

「誕生日なのに、ウチの事情で過密スケジュールになってゴメン。」
「大丈夫、頼りにしてくれて嬉しいんだ。
いつも、俺の方が助けて

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夢見るそれいゆ 51

夢見るそれいゆ 51

私は國吉先輩の言葉が告白であると、ようやく理解出来た。
「先輩が…私を好き?嘘ですよね。」
私は先輩に好かれるようなことは何もしていない。
「こんなこと…こんな場所で嘘を言うわけないよ!」
ここは、神社であり先輩の家だ。家族や氏子さんに聞かれるリスクが高い。

夕闇に浮かぶ先輩の影が、得体の知れないもののように感じた。
「ごめんなさい!」
私は朔を先輩の胸に押し渡し、全速力で逃げた。
先輩はその場

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夢見るそれいゆ 50

夢見るそれいゆ 50

私が黙っていると、國吉先輩は「やっぱりそうなんだね。」と静かに呟いた。
「高等部の教室から見てたんだけど、ここ一週間、ひなたさんの様子が変なのが気になって…。何ていうか、独りでいるなーって。
気になって、従妹の更紗に問い質したんだ。」
更紗先輩なら、確かに事情を知っている。

「更紗先輩、國吉先輩の従妹だったんですか…。」
「僕が無理に聞き出したんだから、更紗を責めないでやって欲しい。」
「…分か

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