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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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#さらぬわかれ

さらぬわかれ 51

「さくら、コウノシン『様』って呼んでるけど、身分が高い人だったの?」
栄子は少しでもヒントになることを聞き出そうとした。
「うん、コウノシン様はお武家さまだったの。本来はこんな田舎がとても似合わないひと。」
さくらは淋しそうに微笑んだ。

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さらぬわかれ 52

「──『山村』様。コウノシン様の名字は山村様っていうの。」
さくらが口にした答えに、栄子の胸がざわついた。特に珍しい名字ではない。しかし恒太の名字も「山村」なのだ。

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さらぬわかれ 53

この夜、栄子は桂のベッドの隣に布団を敷いて眠ることにした。
電気を消すと、姉の規則正しい呼吸が闇のなか聞こえてくる。

布団に入ってから、栄子は桂に話し掛けた。
「ねぇ、お姉ちゃん。私を独りにしないでね。」
彼女の魂はさくらなので、ここには居ないことは分かっている。
でも、今夜の栄子の心は淋しさで満ちていた。

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さらぬわかれ 54

「はぁ、はぁ…っ!」
栄子は夜明け前に、恐ろしさで目を覚ました。
夢に出てきた血のついた日本刀、あれは恒太の家にあったものだ。
(やはり、恒太とコウノシン様は何か関係があるのだろうか?)

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さらぬわかれ 55

今日は、恒太と挨拶しただけでほとんど話すことなく放課後になった。
周りは栄子と恒太が喧嘩したのかと噂していたが、栄子はそれどころではなかった。
栄子は鞄に教科書を詰め込んで、村唯一の図書館に向かった。

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さらぬわかれ 56

「オジサン、誰?」
この村は小さいから、「祟りの子」と呼ばれている栄子を知らない人の方が珍しい。
逆に栄子だって住んでいる村人を把握している。
値段の高そうなスーツを着ている人間なんて、栄子がこの村に引っ越してきてからはじめて見た。
ニコニコしているけど、どこか胡散臭い雰囲気である。

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さらぬわかれ 57

「怖い顔をしないで。別に君をいじめようなんて思ってないからさ、ここの村人みたいに。」
恒孝は栄子が村人から疎外されていることを知っているようだ。

「僕はむしろ君の手伝いをしたいんだ。
君はお姉さんの『祟り』を何とかしたいのだろう?」
「何でそれを…。」
栄子はうっかり動揺してしまった。恒孝は栄子に揺さぶりをかけたのだ。

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さらぬわかれ 58

「ただ、条件がある。
うちの恒太に、この村を出て東京の高校を受験するように君から頼んでくれないか?」
恒孝の狙いは栄子ではなく恒太だった。

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さらぬわかれ 59

「こ…恒太。苦し!」
恒太に引っ張られ全力で走ったので、栄子は息が切れてしまった。
「ゴメン。」
栄子の声に我に返った恒太は、ようやく走るのを止めた。
しかし恒太は栄子の手を離そうとはしなかった。

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さらぬわかれ 60

恒太はしばらく「うーん。」と唸っていた。
幽霊の話という時点で、信用性に欠けている。
「…栄子は嘘が下手だし、きっと本当なんだろうな。」
栄子の話は、恒太に何とか納得してもらえたようだ。

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さらぬわかれ 61

恒太のお祖父さんが伝えたかったことは、桜の木の祟りに関連することに違いない。

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さらぬわかれ 62

「じいちゃんと父さんは、俺が生まれる前から反りが合わなかったらしいんだ。
俺の覚えている一番古い記憶は、じいちゃんと口論して父さんが家を出ていったことだ。」
恒太の祖父は激しい気性である。
栄子は容易にその場面を想像することが出来た。

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さらぬわかれ 63

「…とりあえず、じいちゃんが俺に伝えるつもりだった話を母さんが知っているかどうか聞いてみよう。」
恒太はやはり父・恒孝に尋ねるのは出来るだけ避けたいようだ。

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さらぬわかれ 64

不安げな様子の恒太に、栄子は自分を掴んでいる手に優しく触れて、
「うん、もう黙っていなくならないよ。」
と言った。
「良かった。」
恒太は安堵の表情を浮かべた。

(恒太は私のこと心配なんだ。もっとしっかりしなくちゃ!)

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