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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全… もっと読む
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2021年6月の記事一覧

さらぬわかれ 30

栄子は日本刀について聞いてみることにした。
「恒太、あの刀。」
「ん~?」
恒太はぼんやりとした感じで栄子の目線を追った。

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さらぬわかれ 31

栄子は恒太の部屋に通された。先ほどの和室とは違い、板張りの洋室である。
何畳分あるかは分からないが、男子中学生が生活するには、ちょっと広すぎる部屋である。
突然の訪問にも関わらず、整理整頓の行き届いた部屋に、恒太の意外な面を見た気がした。

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さらぬわかれ 32

「…栄子、ごめん。」
恒太が栄子を見つめた。熱の影響か、目が潤んでいる。
「『また明日』って言ったのに、休んじゃって。」

学校を休んでしまったことを恒太はけっこう気にしていたのだ。
恒太は皆勤賞を狙えるほど、滅多に体調を崩さない。だから、体調不良で約束を破らざるを得ない状況に慣れていないのである。

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さらぬわかれ 33

あれは、恒太と小学校で再会してからちょっと経った頃だった。

「栄子ちゃん、今度うちに遊びにおいでよ。」
と恒太が誘ってくれたので、日曜日に恒太の家に行くことになったのだ。

正直、栄子は日曜日が苦手である。
友達もいなくて、両親も休み返上で働いているので、一人で意識のない姉と終日向かい合わなければならないからだ。

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さらぬわかれ 34

数分歩くと、丘の上の桜の木が見えてきた。
花の季節を過ぎたというのに、花どころか葉すら付いていない様は、朽ちているのではないかと思わせるのであった。
実際、栄子がこの木が桜だと知ったのは、もう少し後になってからである。

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