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さらぬわかれ

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村の1本の咲かない桜の木。 その木には、曰くがあり…。 8歳のまま成長を止め意識のない姉とその妹の話。 GREEのコミュニティで発表していた小説(2009/1/17~)の完全…
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2021年3月の記事一覧

さらぬわかれ 17

触ったことは何度もあったけれど、はじめて触った時のように緊張した。
おそるおそる手を伸ばして触れた木は、人肌のような温もりを感じた。

(とくん、とくん…)
脈を打つのを感じる。

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さらぬわかれ 18

桜の木から現れた女性と目が合った。しかし、幽霊と対面しているのに、不思議と怖いとは思わなかった。
むしろ、懐かしささえ感じた。伝承が確かなら、目の前にいるのは、会ったことがあるはずのない、江戸の頃の人なのに…。

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さらぬわかれ 19

「…か、桂お姉ちゃん?」
さくらと名乗る女性の幽霊の言うことは信じがたかった。

(もしかしたら、私を騙して祟ろうとしているのかも。)
栄子が思っていたことが伝わったらしく、さくらは、
「栄子には何も起こらないわ。『何か』が起こった人は、この桜の木に危害を加えたから…。」
と言った。

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さらぬわかれ 20

「私がこの木の下で死んでから、桜の木に歪んだ力が生まれてしまったの。私が桂として生まれ変わっても、魂の一部はこの木に縛られていた。栄子の目の前で倒れたときは、きっかけがあって、私の魂だけでなく桂の魂まで捕り込まれてしまった…」
さくらはそう言うと、泣き出してしまった。
すると、さくらの像がぼやけ始めた。

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さらぬわかれ 21

あたりは何事もなかったかのように、再び闇に包まれた。
栄子は思わず自分の頬を力いっぱいつねった。
「痛い…。」
どうやら、さっき起こったことは現実らしい。
さくらの言うことが本当ならば、桂はこの木に魂を奪われてしまったということになる。

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