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「ノケモノと花嫁」完全版のストーリーを追いつつ考察してみる1~物語の発端、世羅晶午について~

※全巻読み終わった人向けなのでネタバレ全開です。
※※あくまでも自己解釈です。また再読して編集するかも。

最初に



ノケモノと花嫁は、幾原邦彦小説→原作:幾原邦彦 漫画:中村明日美子でファッション雑誌に連載していた小説兼漫画のことです。

ちなみに単行本は旧版と完全版があり、完全版の4巻の限定版にはKERAで連載していた小説付きです。(旧版の方は漫画だけで小説はなかった)


小説付きのスペシャルエディションだと3300円するけど、ノケモノと花嫁ファンなら買って損はないと思います。

当時はこれのためだけにKERAを買っていたといっても過言ではないくらい好きな漫画でした。(過言か?)
知った当初くらいには小説が終わりかけていたので基本漫画版)基本的に漫画版の考察・感想になります。
小説とは微妙に設定や進行・キャラも違うんですよね。
(イクニが中村明日美子に小説と別物にしても良いと言ったらしい。)

漫画版は中村明日美子の画力やノリもあって、暗く重たいストーリーがかなり緩和されていますが、基本的に「虐待・近親相姦・トラウマ」がテーマの暗い話です。


考察するにあたってこのように考えました↓

・ストーリーは現実世界と燃えるキリンの世界(精神世界)に分かれている。
・燃えるキリンの世界は、世羅ヒツジが見ている夢(精神世界)に近い。
・精神世界は完全な幻ではなくて、現実世界にも一部干渉できている。

・コドモ=虐待児(通常の意味もある)
・オトナ=虐待親(通常の意味もある)
・キリン=虐待を受けたコドモたちの負の感情の集合体。


・虐待は親から子へと連鎖しており、虐待の連鎖の輪から抜け出すためには、他者からの愛情が必要
↑これが物語の根幹だと思います。


合っているかは別として、そう考えると少しわかりやすくなったのでこの記事ではその視点で解釈しています。


おそらく世羅晶午がこの物語のはじまり


実際はもっと先の親たちから虐待の連鎖が始まっていそうだけど、とりあえずノケモノと花嫁の物語では、世羅晶午が自身の母親を毒殺してキリンとなる(虐待の連鎖を継承する)ところが始まりなのかなと。

(完全版4巻 世羅晶午)

物語の発端が発覚するのは最終巻だけど、主人公ヒツジの父、世羅晶午は小さい頃に母親から虐待を受けていました。
RUNAWAY98「因果応報」の冒頭、コドモ時代の世羅らしき少年が母親らしき女性を毒殺している場面がある。

世羅はこの時の親殺しによって燃えるキリン(虐待の連鎖を繰り返す存在)となったのだと思う。

この物語は基本的に親から子へと受け継がれてしまう虐待の話なので、コドモ時代の世羅も親から虐待を受けていたと考えられます。
コドモの世羅の身体に傷などがないので、性的な虐待だったのかも(だから洋子にも同じ虐待をした?)。

世羅は幼いころに虐待受け、母を殺し、心が大人になり切れないまま大人になり、真珠(ヒツジの母親)と結婚をします。


世羅の本性を知る2人

RUNAWAY 59 コドモなオトナ
徳大寺「…あいつは、皆が言っているような男じゃない。やさしくて紳士でいつも笑顔を絶やさない、皆を幸せにしてくれる王子さまなんかじゃない。あいつは…」
ヒツジ母(真珠)「分かってるわ。彼はまだコドモだわ。オトナのふりをして…いえ、時を重ねて歳を重ねて、カラダだけオトナになってしまった。でも本当は、ひとりぼっちで泣きじゃくってる小さな小さなコドモだわ」

ノケモノと花嫁RUNAWAY 59 コドモなオトナ


妻の真珠と友人の徳大寺零介は、人を愛することができない世羅の本性を知っていたと思う。

徳大寺は真珠を好きだったようなので、真珠と世羅との結婚には反対している。
それでも、愛されなくては人を愛することができないからと真珠は世羅の本性を知ったうえで花嫁となります。

ちなみにこのシーンから、世羅の外面の良さも垣間見える。

王子さまのような外面の中に真珠や徳大寺が知る、ひとりで泣きじゃくっているコドモの世羅がいる。そう思うと憎み切れないキャラでもあるんですよね。

ただ虐待されたことのある人にとって、純粋な愛情を信じるのは難しかったり、そもそも気持ちが届かないのかもしれない。(愛着に問題を抱えやすいという)

コップの底が抜けているからいくら水を注いでも無駄
…という。

時が流れて、真珠との間に生まれた娘、洋子(ヒツジ)が大きくなったころからから、世羅は自分の娘に性的虐待を行う。


そして虐待と親殺しの連鎖を繰り返す


世羅はそもそも洋子が産まれた段階で、コドモが産まれたことを喜んではいないんですよね。
赤ん坊の洋子の挙動にいちいち感動する真珠に対し、世羅はずっと興味がなさそうに顔を逸らしている。

ここもオトナになりきれないコドモらしい。

洋子は虐待を母親が知ったら悲しむからと耐えますが、次第に精神的に追い詰められ、虐待をされているのは自分ではなく自分の作った女の子のヒツジ人形だと思い込む。

↑これが燃えるキリンの世界でクマのイタルと逃亡しているヒツジの原型となっている。(ぐるぐる頭の女の子の人形)

(RUNAWAY96「ケダモノ」より)


世羅はオトナなはずなのに燃えるキリンのコドモたちと同じく黒い羽が付いているのは、徳大寺や真珠の言う「カラダだけオトナになってしまったコドモ(キリン)」だからかな。

そしてついにある日、虐待の現場を真珠に目撃されてしまう。
真珠は世羅をケダモノだと拒絶(当たり前だ)。
そして真珠の首を絞めて殺してしまう。
(ちなみにこの「ケダモノ」という言葉は、RUNAWAY22「ケダモノとノケモノ」でイタルが世羅に言った言葉でもある。)

多分、世羅は妻に対しての愛情がわからなかったんじゃないかなあと思います。
それは、自分が小さいころに母から与えられた曲がった愛情=虐待だったから。真珠が与えてくれるような純粋な愛情がわからない。

そして娘に虐待し、連鎖を繰り返してしまう。

洋子は母親を殺されたショックで世羅をベランダから突き落として殺してしまいます。


親殺しの世羅と洋子の表情


その時の洋子の顔が、コドモの時の世羅が母親を毒殺した時と同じ表情なんですよね。切ない。

こうしてキリン=虐待(と親殺し)の連鎖が世羅から洋子へ受け継がれてしまった。

(RUNAWAY98「因果応報」より)
(RUNAWAY98「因果応報」より)


このタイトルは、世羅がコドモの頃に母親を殺したことが因果応報となって洋子に世羅を殺させたという意味だと思います。

洋子が世羅を殺す前に、徳大寺がまず世羅を絞殺しようとします。
徳大寺は真珠を殺した世羅が許せなかったが、直前で踏みとどまった。
だが代わりに洋子が世羅を突き落としてしまう。

後から語られるのですが、徳大寺はそれをずっと後悔してます。

自分があの時世羅を殺しておけば、洋子が世羅を殺すこともなかった。
(キリンの虐待の連鎖を止めることができた)


世羅を突き落とした洋子はショックで昏睡状態になり、長い間植物状態に。
その間におそらく世羅との間にできたコドモを堕胎しているはず。

そのコドモがイタルでもあるのかな?

植物状態の洋子は、夢の中でかつて自分が作った女の子の人形=世羅ヒツジとなり、燃えるキリンの世界に迷い込む。

迷い込んだ先がRUNAWAY5「怪物の夢」に出てくる地下?
そして地下の奥で生前親から愛されなかったコドモの遺体を燃やすイタルに出会い、恋に落ちたことで華麗なカケオチが始まる

→本編1話へ。


燃えるキリンの世界=昏睡状態の世羅洋子の見る精神世界


燃えるキリンの世界は、現実とは違う世界だと思ってます。歪アリみたいに、実際に起こったことを元に作られた精神世界(夢)としての面もあるのかなと。

燃えるキリンの世界に出てくる世羅は、かつての燃えるキリン。
復讐に燃え、虐待を繰り返す存在。

そしてヒツジを虐待することで新たなキリンを産む=虐待の連鎖が繰り返される。

それを回避するためにもヒツジとイタルは燃えるキリンや世羅から逃げ、結婚式を挙げようとしている。
虐待の連鎖を食い止めることができるのは「誰かに愛されること」だから。



世羅は、輪るピングドラムの眞悧と同じ「亡霊」のような存在だと思う。

洋子(ヒツジ)を虐待し、その結果殺されるけれど、その後も現実世界を生きる者たちに干渉し、負の連鎖を繰り返す。

眞悧も桃果と相打ちし現世から消えた後、亡霊として蘇り現世の運命のこどもたちに干渉する。世羅と眞悧は似ている気がする。

ただ、世羅本人は自分のやっていることが正しくないことは理解していると思う。
(じゃないと徳大寺に「お前に殺されたかった」と言わないんじゃないか?)

だけど、この虐待の連鎖の輪の中から自分ではどうしようもなく逃れられない。誰かに愛されていると実感できない。



徳大寺「生きていたのか…いや、生きているのか?お前は…」
世羅「愚問だな。俺を殺したのはお前じゃないか。…うそうそ。お前が殺したんじゃないな。でも俺はあのときお前に殺してもらいたかったよ。」(穴のある男)

「お前なら俺を殺してくれると思った。俺を輪の外へ出してくれると思った。」(過去のつぐない)

RUNAWAY 27&99


ちなみに徳大寺が真珠を殺した世羅を絞殺しようとした時、世羅は嬉しそうに笑います。

徳大寺に自分を殺してほしかったんだろうなあ。

でも、普通に考えて首を絞めている相手が殺されそうなのにニヤニヤ笑い出したら怖くなって殺せんやろ。

現実では洋子に突き落とされ殺された世羅。
これにより世羅と洋子は虐待の連鎖の輪である燃えるキリンの世界へ迷い込んでしまう。

でも最終巻の燃えるキリンの世界で、世羅は希望通り娘の洋子ではなく、徳大寺の手によって射殺されることで虐待の連鎖の輪の中から救われた。

そしてそれは虐待の連鎖に組み込まれようとしていた洋子を救うことでもあって、洋子や世羅が望んでいたことでもある。
だから徳大寺は「彼女(洋子)に呼ばれた」と言っているんじゃないかと。


まとめ、世羅にとっての徳大寺は父親のような存在だったのかも


読んだ時、世羅にとって、自分ではどうしようも出来ない虐待の連鎖の輪から抜け出させてくれるのは徳大寺だったんだなあ、と思いました。

世羅を救うのは、(残酷だけど)真珠じゃなくて徳大寺だった。


全巻読んで、虐待の連鎖を断ち切るために必要なものが他者からの愛だと読み取れた。
だけど世羅にとって、本性を知りつつ純粋に愛してくれる真珠ではなく、自分を憎みつつ殺してくれる徳大寺が、愛されてると実感させてくれる存在だったっぽいところがちょっと闇深だなあと思ってしまった。

たぶん、世羅には真っ当な真珠の純粋な愛情がわからないからなんでしょうけど。

殺すのではなく「殺されたかった」というのは、ギンが虐待母を殺した時にも思ったことでもあるようです。

虐待親だとしても、それを殺すくらいなら自分が殺されたい

この思考がギンだけでなく世羅や他のコドモたちにも共通しているなら、実際にありそうだけど報われない話ですよね

世羅にとっての愛情をくれる存在(というか親?)は徳大寺だったのかな。
確かに自由奔放な息子と振り回される父親に見えなくもない。

…こうして世羅晶午は徳大寺の手によって燃えるキリンの世界の輪から脱出。

ただ、現実世界では世羅は間違いなく洋子に殺されているので、現実的な救いではなく燃えるキリンの世界からの脱出(精神的な救済)だと思うけども。

洋子に親殺しをさせないルートを作れたことで、負の連鎖を止めることができた世羅も結局は救われたんじゃないかな。


徳大寺「…全くお前は本当にふざけた、最低最悪の甘ったれだよ。」
世羅「ごめんな」

RUNAWAY 99「過去のつぐない」


世羅が徳大寺に撃たれたシーンのやり取り。
同級生だったこと以外では、どういう関係だったのかは詳しく描かれてはいない。

けど、世羅にとって徳大寺は、甘えられなかった自分の親の代わりに甘えられる特別な存在だったのかな。


華麗につづく


完全版↓
リンクを貼っておいてあれですが、4巻目だけはアニメイトで売ってるイクニの原作小説付きなので、欲しい方はそちらで買うと良いかもしれません。


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