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今日も一人、山を歩く



梓川は、何日も雨が続いた後でも、青く澄んで、川幅いっぱいに水をたたえ、揚々と流れている。
今年もきた、来れた。




雨の潤いで、シナノ笹の葉は艶やかに輝き、その隙間に黄色や紫色、さまざまな秋の花が咲いている。





今日も一人、山へ行く

毎年、お盆が開けると仕事は少し暇になる。
決まってこの時期、希望しなくても連休が頂ける。

この連休を利用して泊まりで山へ出かける。

この時期、山は夏の終わり、そして秋の紅葉にはまだ早い。
山は人が少なく、一人ゆっくり山歩きを楽しめる。

いろいろな情報をシャットアウトして、
私自身と対話をする様に歩く。
そんな山歩きが好きだ。

雨続きで、何処の山も登山には不適。
ならば、
泊まってみたいと思っていた上高地の
「徳沢園」
に泊まるのを目的に、
そして、いつも横を歩きながら、
気になっていた岳沢登山口から、
岳沢に行く、ショートトレッキングに予定を変更して上高地に入った。

都会の蒸し暑さで、寝不足が続いている体に、
山の風はひんやりして、心地よい。

心地よい疲れで、夜はぐっすり眠れるだろう。

まとわりつく様な都会の空気と違い、さらっとして清々しい空気を、何度も肺に入れながら、ゆっくりのんびり歩く。
梓川の流れは、どこまでも透明だ。

初日は、徳沢の山小屋に泊まる。
涼しい夜、山小屋の布団に包まって早めの就寝は、
至福の時間だ。



2日目は、久しぶりの晴れ間が見える。

外では、山支度をする人々で賑わっている。

更に山の奥へと進む人達の中、私は河童橋方向へ戻る様に進む。

今日は、岳沢小屋まで
トレッキングする。
岳沢は穂高に登る人達の玄関口にあたる。

いつも河童橋から見上げている所へ、今日は歩いていく。
憧れの穂高連峰に近づいちゃうのだ。

登山口は岳沢湿原から、
原生林の様な、苔むした道を上がっていく、途中の足元を、いくつも沢が流れる。

足元に沢が、現れなくなった頃から、
大きな石が階段状に組まれた、急な上りが多くなる。そこを気をつけながら登っていく。



山に入ると、あの景色に会うために、一歩足を、先に進める事だけに、意識が集中する。

雨の後で登山道は湿っていて滑りやすい。気をつけて登っていく。

40分ほとで、
「岳沢名所天然クーラー風穴」
と書かれた、岩の間から冷たい風が吹き出している所に到着した。



岩と岩の重なりの、その間の穴に手を当てると、
なるほど冷たい風が、吹いてくる。
火照った体にその風を当て、立ったまま水分を補給した。

ここから間もなくして、
登山道は樹林帯を抜け、ガレ場の見晴らしの良い所に出た。



穂高が近い!かっこいい。
いつも河童橋から見上げていた穂高が、近くで見ることで、より魅力的に見える。

「あー、今日ここにきて良かった!」

この景色に会えて良かった。

目的の岳沢小屋には、まだ半分ぐらいで、もう感動している。

ここで休憩し、写真を納め、もっと穂高の近くの岳沢小屋を目指す。

ガレ場を離れ、
樹林帯に入ると登山道は更に急になる。

登れど登れど、
見上げると、石の階段が続いている。
体力が落ちたなーと感じる。
登山ガイドには、
『穏やかな上りがつづき』
とあった。
(これが穏やかな上りね、)
と思いながら、自分の体力と相談しながら、多めに休憩をとり、おやつのナッツをエネルギー源にとり、きつく感じない程度のペースで歩く。



12時を過ぎた頃、
ようやく左上に、岳沢小屋の赤い屋根が見えた。

やった、もう少し、

大きな石がゴロゴロとした
岳沢を左に渡り、岳沢小屋に到着した。

目の前は前穂高、
近過ぎて、山頂が見えない。

上高地から4キロ、
前穂高まで2.5キロ、

と書かれた道標に、
ドキドキと胸騒ぎ。
後2キロで前穂高の山頂。

今日はもちろん、この先には行かないが、

きちんと計画して、準備して、経験者に同行してもらえれば、行ける?かも?

と、感じるドキドキ。
この先の道は、更に急な岩登りや鎖場が待ち構えているのに。
遠くに見えていた穂高の足元、こんな近くに来て、手を伸ばせば、届く所に来て、ドキドキと興奮している。
地図で何度も辿った道、
何度も想像した貴美子平、穂高山頂からの眺め。

いつか、いつか、私にもあの頂きに立つ日が来るのだろうか?

年々歳をとる。体力も落ちる。
もう少し体力をつけなくては、
上りの筋力をトレーニングしなければ、
荷物の重さにもなれなければ。
いつかはない。いつ来る?



岳沢小屋のテラスで
お昼ごはんを食べ、遙か下に見える河童橋の景色を眺めながら考える。

ランチのパスタを茹でている途中で、小雨がパラパラと降ってきた。

見上げると、頭上には灰色の重たそうな雲が早いスピードで流れてくる。

出来上がったパスタを持って、小屋の中に避難しランチを早々に済ませた。

名残り惜しいが、
雨は小雨だが降り続いている。空は、ずっと奥まで灰色の雲が続いている。
早めに下山しよう。

この岩ゴロゴロの登山道の途中で、レインウェアに着替えるのは大変なので、
小雨だが、レインウェアを上下とも着て、下山開始した。

3年前、初めて唐沢カールに行った時も雨に降られた。
今日の様に小雨で、レインウェアの下も来たほうがいいかどうか、近くの人に聞いたら、

「自己判断でしょ!」

と、結構きつめの答えを頂いた。

登山は全て自己判断。
自分の命は自分で担いで歩く。

3年経って、自己判断出来る自分に、少しは成長しただろうか?

雨は、下山するとともに小降りになった。

今日は岳沢泊まりだろう登山者と何人もすれ違う。

(この上は雨ですよ〜)

と、心の中で思う。

自分の事もよくわかって来た。私は下山は得意らしい。ガイド本のタイムより早く下山出来る。
岳沢小屋から、1時間半で、岳沢登山口に戻って来ると、雨は全く降った様子はなく、
汗だくの私は、観光客で賑わっている上高地で少し浮いていた。

軽装の観光客をよそに、
心は満たされていた。マスクの下は、ニヤニヤが止まらない。
久しぶりの泊まりの山行き、短い距離だったけど、いい山歩きが出来た。

撮った写真を振り返り、
次はここまで行こう。
この山は何だろう?

標高を上げると視野が広がる。
そして、気になる山がまた増える。

北アルプス、上高地
来年もまた、この景色を見に、
そして、更にその先に。

日本🇯🇵、なんてきれいなのだろう。


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