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音楽 合唱とジャズ

「ああこのために音楽をやっていたんだ」と強く感じた不思議な経験が二度あります。

20年近くも音楽をやっていて二度しか味わったことがないんです。

もちろん音楽が楽しいからずっと続けているのですが、その二回はなんか神秘的な経験なんです。


高校では合唱部に所属していました。

歌が下手で、いつも肩身のせまい思いをしていました。

顧問の先生は歌の指導よりも、精神論をずっと唱えていました。

「いい、感情が心からトロトロと流れだすように歌って〜」というような調子です。

私含めすべての部員が、意味不明だと感じていました。

先生は合唱についてひたすら同じことを言っていました。

「舞台の上で合唱を歌っていた時、不思議な体験をしたのよ。自分の声や皆の声が合わさって、歌っているのに聞こえなくなるの。それを皆にも経験してほしい。隣にいる仲間と自分を信じて。」

相変わらず意味不明なことを、今日もまた。なんて聞き流していました。

でも私もそれと似たような経験を2回したんですね。

結局先生の勝ち。


本当に意味がわからないですよね。なんだよそれって感じです。

でも本当にあるんですよ。

エクスタシーです。


1回目は、合唱の練習中でした。

各パート3人ずつ、9人でコンテストに出場する曲の練習でした。

先に述べた通り、私はとても歌が下手で、とにかくとにかく自信がないのです。

なのに、なぜかまだ合唱を続けていたんですね。

パートの他の二人は、3年間同じクラスメイトで部活の中でもトップに歌が上手くて、開始早々二人の影に隠れることにしました。

ある日の練習中、またもや小さい声で歌っている時ふと思ったんです。

「あれ、これ私がめっちゃ歌が下手なことがバレてもこの二人がそれを原因で私のこと嫌うことはないんじゃない?だって3年間同じクラスにいて、毎休み時間喋って笑って、もし下手でも陰口は言わないだろうしな。」

そう思った途端、急に開放的になって二人と自分を信じようと思いました。

そしたら、先生の言うあの不思議な体験が訪れたのです。

ほんの一瞬なんですよ、もう1小節ぐらいしかないくらい一瞬。

自分の声と二人の声が混ざって聞こえなくなるんです。ふわふわ〜っていかんじ。

「え、なにこれなにこれ、ええええええ」っていう間に終わります。

そしてもうその後、再び訪れることはありませんでした。

信じるって難しいんですよ。

でもその瞬間、「このために音楽をやっていたのか」って強く感じました。


2回目は大学三年生の文化祭です。

大学ではジャズ研に入部して、ジャズピアノをやっていました。

その時組んだバンドは、上手い先輩たちとでまたもや劣等感と申し訳なさを感じて練習していました。

本番当日も「ああああああ、本当になんで組んだんだろう」と後悔するほど自信がなかったのです。

ジャズスタンダードの『Borivia』を演奏してたんですね。

舞台やスポットライトの緊張がほぐれた頃、またフッと思ったんです。

「あれ、これ私が下手でも誰も気にしないんじゃない?もう、もうなに言われてもいいや。大丈夫、信じよう。」

そうしたらソロ中に、またあの瞬間が訪れたんですね。

一種のエクスタシーです。

本当に音が聴こえないんですよ。自分のソロが全く聴こえなくなって

「えええええ、なになに、どうする、とりあえず指動かしとく!?」という間にまた終わってしまうんですね。

頭がぽわああってして、誰がなにを演奏しているか自分がなにを弾いているのかがわからなくなるんです。

そしてまた「ああこれを感じるために音楽やってたんだよな」と思うわけです。

でもその後、その体験をすることはありませんでした。


今後もあの経験をするかはわかりません。

だけど音楽は続けていこうかなと思っています。