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CXO Night#3 レポート 「デザイン越境せよ」編

2018.6.15(金)に開催されたCXO Night#3 - デザインを越境せよのレポート(3/3)です。本記事では、イベントのタイトルにもなっているパネルディスカッション「デザインを越境せよ」について触れます。
イベントはパネルディスカッションが2つ、LTが2つの以下のような構成でした。(前半のパネルディスカッションのレポートはこちら、LTのレポートはこちら

1. オープニング
2. 【パネルディスカッション】若手社長デザイナートーク
3. 【LT】デザイナーをリデザインする
4. 【LT】メディア編集とデザイン
5. 【パネルディスカッション】デザインを越境せよ(←これ)
6. 懇親会
かなり自分の解釈を加えて書いています。勘違い・齟齬があったら申し訳ありません。

デザインを越境せよ

—  もうこの人たちが揃うことはないと思ってください。

坪田さんがそうおっしゃるの頷ける、そうそうたる面々・超豪華ゲストでした。

登壇者(敬称略)
田川 欣哉 / Takram 代表(@_tagawa
田仲 薫 / IDEO Tokyo デザイン・ディレクター 
深津 貴之 / piece of cake CXO / THE GUILD 代表(@fladdict
モデレート(敬称略)
塩谷 舞 /  milieu編集長(@ciotan

デザイナー × CXOという、まだまだ少ないロールモデルを実現している方々です。
そんなお三方の「予定調和系」ではない話が飛び交う、刺激的なパネルディスカッションでした。

まず、塩谷さんの質問に対する回答から。

— ビジネスがデザインに食い殺されることもあります(深津)

デザインの重要性が経営者に理解されなかったため、ビジネスサイドの都合によって意味がわからないプロダクトができてしまった、という話はよく聞きます。
しかし一方で、デザイナーが「私はこれが作りたいんだ」「こういうものが美しいのだ」と自分を主張しすぎてビジネスをダメにすることもあります。
そこに関してデザイナーはうまく気をつけないといけません。

ー デザイン「の」越境ではなく、デザイン「は」越境するためのマインドセット(田川)

日本の企業は、分解主義的な思想があります。大きい問題は小さく分解でき、極限まで分解した小さな問題それぞれに対して解答をする。そして、その解答を束ねると一番初めの大きい問題に対する解答になる、という考え方です。
この様な考え方をすると組織は、それら分解した小さな問題にそれぞれ対して人を割り当てることになります。1人の人が担当する領域は細分化されており、その小さな枠組みの中でしか人は動かなくなってしまう。その枠組みを越えようとしない。それが今の日本の仕組みです。
デザインだって、UIデザインとか、組織デザインだとか、細かく分類されています。

しかし、そもそもその枠組みを越境している人のことを、デザイナーと言うのではないでしょうか。
なぜなら、デザイナーの仕事とは、ユーザーの目線に立ってユーザーが持つ目に見えなかった問題を定義し、それに対する解答を見つけることだからです。ユーザーの何を解決したいかで最適な解答や手段は変わるため、ここからここまで考えればいいというような枠組みは初めから存在しません。デザイナーは越境をしていないと、最適な解答が得られないのです。

また、ユーザーのどんな問題を、どのような媒体を用いて解決したいかで、必要なスキルセットも変わってきます。日本ではデザインというと、illustratorやphotoshopなどのツールを用いたスタイリングが注目されがちですが、それらはデザインスキルのほんの一部だということを忘れてはいけません。 

スタイリングなどの手に職系のスキルは、どこでどうやって学ぶということが想像しやすいのですが、「越境して」包括的に物事を考えられるようになるためには、様々な教育が必要になってきます。では、それらはどうすれば学ぶことができるのでしょうか。

ー デザイン経営宣言は何か関連していますか?(塩谷)

田川さんが「デザイン経営」宣言でやりたいことは大きく2つ。

・「デザインの重要性」を経営者に対して、感覚ではなくエビデンスつきで証明できる武器をつくること
・狭義のデザイン(= 見た目のデザイン、スタイリング)・広義のデザイン(= 体験設計、マーケティングなど)という、デザインをその領域で分類することをやめ、ユーザー文脈の価値による分類にシフトすること

ー スタイリングは重要だ。UXや組織のデザインとスタイリングは「or」ではなく「and」の関係にある(田川)

スタイリングはデザインにおいて大事な要素ではない、という話を最近よく聞きますが、それは大きな間違いです。アップルの製品やテスラからスタイリング要素を抜いたら、ただのギーク向けハードウェアになってしまいます。
ユーザーにとって使いやすい、ユーザーが欲しいと思う製品を作るためには、いわゆる狭義のデザインも広義のデザインも欠かせません。
つまり、ユーザーが欲しいと思うモノのデザインに、狭義も広義も関係がないのです。

そこで、ユーザーが欲しいと思う製品(= 商品価値の高い製品?)が持つ価値のうち、デザインが大きく関わることができるものを考えてみると「ブランド」と「イノベーション」になったそうです。
「デザイン」の力をどちらにどのくらい使うか、その配分の比で企業の個性が生まれます。例えば、ブランド力寄りの「無印良品」とイノベーション力寄りの「google」の様に。

このようなユーザーの価値文脈に沿った切り口でデザインを語ることで、経営層にデザインを理解してもらいやすくなります。
そして、これら「ブランド力」と「イノベーション力」を高めようとする「デザイン経営」ができていることの必要条件を以下のように定義しました。

・経営陣にデザイナーがいること
・ものづくりプロセスの最上流からデザイナーが関わること

では、経営陣に入り込んでいくためには、デザイナーは何をする必要があるのでしょうか。

ー 「数字」という経営側の言葉で話すこと(深津)

経営者にデザインの重要性を認識してもらうためには、やはりビジネスに対するデザインの価値を伝えなければいけません。つまり、数字にコミットし、その上でいいものを作れるようにならないと説得力を持てないのです。

ー 経営にデザインが関わった時の変化を測る、アセスメントツールをIDEOで作った(田仲)

デザインが経営に対して効果的に働いていたとしても、その変化が目で見えにくいことが課題として存在した。それを解決するために、IDEOはうまくいっている企業の強みをリサーチし、評価尺度を持つツールを作ったそうです。
やはり組織を変えるのはかなりの努力が必要。速度が違うだけで、スタートアップも大きい企業もそこは変わりません。

CXOは何をする立場なのか?

ー CXOとクリエイティブディレクターは違う(田川)
ー noteでは、トンマナやビジュアルには一切口を出していません(深津)

noteを運営するpiece of cakeのCXOである深津さん。彼がCXOとしてやっていることは、noteを作る人たちのやりたいことが、大人の事情で捻じ曲がったりしない、良いと思えるものを作れる環境作りだそうです。細かいプロダクトのデザインに関しては、別にいるクリエイティブディレクターに全て任せているそう。
また、深津さんは、この施策は成長にドライブしないから後でやろうと言ったように、どういった方向性で良くするといいのかを考える役割も担っています。

ー CXOポジションがいないと、企業がスケールしてきた時にプロダクトの質がガタッと落ちていく(田川)

PMとCXOではやることが大きく違います。
・PM:短期のプロダクトPDCAを回す人
・CXO:会社全体の長期のデザイン戦略を考える人

ここでいう「デザイン戦略」とは、複数プロダクトになった時の横軸はどうするのか、スケーラビリティ、ブランドガイドラインなどことを指します。デザイン戦略がしっかりしていないと、組織が大きくなってきた時に全体としてうまく動かなくなってしまいます

フルスタック型の人が作ったものの方が初速の伸びが速い。なぜなら、プロダクトそのものだけにフォーカスしていればいいから。しかし、その人がPM的な仕事ばかりしてCXO的な仕事をしていないと、プロダクトの規模が大きくなるにつれどんどんダサくなっていってしまいます。
デザイナーはそのことに自覚的でないといけません。

ー 「赤い彗星のシャー」が本当にやらないといけなかったことは、戦艦で戦えるようになることだった(深津)
ー CXOはビジョンを持ったり、それを持つ人を育てる必要がある(田仲)

「赤い彗星のシャー」とは、ガンダムのキャラクターで、凄腕のパイロット、子供番組的にいうとヒーローのような存在です。
彼が昇進し、艦隊の長になり、艦隊で戦争をしようとした時、全てを放り出して自分一人で戦闘機に乗り戦闘を始めてしまう。そして戦争に負けてしまう。

デザイン自体が複雑になると、それを一人で全部できると思うのは間違いです。一人でやろうとするのはもちろん論外。しかし、バックヤードに座り、完全にマネジメント側に回れと言っているわけではありません。
CXOは、マネジメントよりもリーダーシップを持っていることが大事になってきます。そのリーダーシップを持って、会社全体で戦える体制を整え、その先頭に立つのがCXOの仕事です。

デザイナーが意識しなければならない、プロダクトとの適切な距離

上記の「赤い彗星のシャー」のように、一人で全てをやろうとするのは間違いです。よく言われるように自分ごと化が低すぎてもプロダクトの質は落ちますが、逆に高すぎても質は落ちてしまうそう。
自分と周りを冷静にみて、何が求められているのかを気づく(awareness)ことができる距離感が重要になってきます。

ー 「I」と「We」の定義をきちっとすることが大事(田川)

「I」は単体の人間がやるクリエイティブで「We」はチームでやるクリエイティブ。デザイナーがプロダクトとの適切な距離感を保つためには、その意識のバランスが大事になってきます。
noteでは、たった一人がnoteを育てたのではなく、チームのみんな(エンジニア、デザイナー、編集、読者全員)がプロダクトを育てたと思えるように、プロダクトへの個人の帰属意識を強くは持たない様にさせているそうです。
しかし、全てを「We」にすると、「私はこのプロダクトに必要なのだろうか…」とクリエイターは思いがちです。そう思ってしまった人が良い仕事ができない事が多いのは、みなさん心当たりがあるのではないでしょうか。「I」という意識があってこそ発揮されるクリエイティビティもあるのです。

エンジニアリングは、単体モジュールを個人が作り、それを組み合わせて全体を作ることが多いので、「I」と「We」の両方の意識を持ちやすい。
しかしデザインはその性質上、どうしても作品の分解統合をやりにくくなっています。

個人のデザイナーがプロダクトに固着しすぎず、しかしクリエイティビティも発揮できる意識作りをする環境を作る部分は、CXOの腕の見せ所になってきます。

デザイン経営がうまくいく組織の土壌とは?

ー CXOがうまく機能するために、様々な分野の人間があらゆる物事に対して弱みを言い合えるチームを作ること(田仲)

CXOはあらゆる領域を越境して物事を考えていかないといけません。様々な分野の人間が、お互いに意見を言い合える組織文化がないと、立場だけのCXOになりがちです。

IDEOが提唱している「デザイン思考」も、様々なバックグラウンドを持つ人間が一緒にものを作るとき、せめてその手法と見る方向をアラインしよう(同じ方向に統一しよう)とするものだそうです。そのとき、お互いがレビューしあったり、忌憚ない意見を言い合ったり、時には冷静なテンションで喧嘩をしたりできる文化がないと、その手法もうまく働きません。

ちなみに、一緒にカウンターで寿司を食べている時、運転中など、物理的に同じ方向に体が向いているとき、人は意識も同じ方向に向かい、話しやすくなるそう。そのため、朝いろんな人が(スクラムの)カンバンの前に集まって、それを見て話すことは効果的なことなんだだそうです。

ー デザイン、ビジネス、エンジニアリングのベン図を考える(深津)

良いプロダクトを作るためには、様々な領域にまたがって物事を考えないといけません。そのとき、デザイン・ビジネス・エンジニアリングの3つの円が重なる部分はどこだろうと考えると、それぞれの円だと大きすぎて最適解が分からなかったのが、小さなスポットになり最適解が見つけやすくなるそうです。

デザイナーとしてユーザーに向き合い、CXOとして経営者に向き合う

結局良いプロダクトを作るのに一番大事なのは、ユーザーの視点に立つこと。デザイン思考も、様々な分野の人をユーザーの視点に立たせる考え方です。
デザイナーはユーザーに向き合うことが仕事です。デザイナーがCXOになると、経営者の頭にユーザー視点の考え方を直接導入させやすくなります。

ー コンペは地雷、コンペをする会社とは仕事しない(全員)

コンペをしようと外部に頼むのは、内部でいいものができずに悩んでいる場合がほとんど。しかも、そもそも何が課題なのかがはっきりしていない場合も多い。
そういう時にまずやらないといけないことは、自分たちがユーザーに向き合うことなのに、全ての情報や悩みを公開せずに外部に良いアイディアを出してくれ!と頼むのはお門違いですよね。

加えて、コンペに参加する側も、負けられないとなると、キャッチャーで実現性が低いものを考えようとするインセンティブが働いてしまう。もちろんこれでは、本当にユーザーの課題を解決できるプロダクトができるはずがありません。

ー 小さくても雑でもいいので、プロダクトをまるごと作って販売までしてみると良い(深津)

アプリでも椅子でもなんでも良いので、企画から販売まで全てをやってみる。
一回全てをやるとマーケティング含め、一通り理解できます。すると、「これはカッコいいけど、損しかしないものだな?」のように、作るものの見方が変わってきます。

ー デザイナーは主張することに慣れていると思うが、受け入れることに慣れると役立つ(田仲)

経営者と向き合う時、彼らの悩みに向きあうことが大事になってきます。
「聴く」ことができるようになって初めて、彼らの悩みを理解し、今経営に何が必要とされているのかに気づくことができるのです。

ー ユーザの体験を数字に落とし込んで、経営者に伝えられるようになること(田川)

まず数字や組織設計に関する知識が必要になってきます。それらの多くは文字情報で公開されているので、利用してたくさん武器として装備しましょう。
また、忙しい経営者が聞きやすい説明をするために、ぐちゃぐちゃしている話をシンプルにまとめる構造化能力、ストーリーテリング能力を身につける必要があります。

しかし、自分が1番どこでパフォーマンスがでるかは人それぞれなので、CXOがデザイナー全員に向いている職業かと言われるとわかりません。その中で、経営に向いていると思う人は、CXOになるぞ!と決めてしまい、着々とそこに向かいましょう。


スケールしようとしているデザイン組織が、1番注意しないといけないことは何か?

ー デザインチームを組織化し、そこからプロダクト/プロジェクトにデザイナーをアサインするという形をとる。そして、アサインするメンバーを定期的に入れ替えること。(田川)

その際に、デザインチームを俯瞰できる位置にCXOを、デザインチームにはhead of designとそれを補佐するデザインプログラムマネージャーを配置する。これで200人くらいまではいけるそう。

ー チームがディスカッションをするのに必要なものはなにか?という問いだと思う(田仲)

組織の方向性を決める時、ビジョナリーを1人たてるのか、みんなで話し合って物事を決めていくのかなどの、組織がとるスタイルによって必要なものは変わってきます。それがチームの雰囲気なのか、共通言語なのか、プロセスなのかはわかりません。
自分たちを分析し、現状の強み弱みを考え、足りないものを補う形で何が必要か考えて行くのが大事になってきます。

ー 頑張らないでも仕事が回るデザインを作っていくこと。(深津)

視座が違う人たちがたくさんいることは大事だが、それぞれが見ている方向が違うのは問題。
目指すべきところを定期的にキャリブレーションして育てていくことが重要なのではないでしょうか。

宣伝(田川さん)

ジョンマエダさんがアメリカのデザインにおける最新事例をまとめたレポートを毎年だしており、takramでそれを翻訳して、webページに載せていルソウです。
その解説議論会をtakramとTHE GUILDで共同で開催予定。
今日のディスカッションと、このレポートと、その議論会でかなり物知りになれるそうです。

#02 THE GUILD勉強会「Design in Tech Report 2018 を読み解く」(←多分これ)

ちなみにこの勉強会にもnote枠で参加予定なので楽しみ

まとめ

デザイナーとしての心構え
・デザイナーとしてユーザーに向かい合い、ユーザーの問題を解決しようとするのが結局一番大事
・解決方法を考えるときに、デザイン・ビジネス・エンジニアの様々な視点を持つべき
・様々な視点を持ち、それを活かすためのチームビルディングが必要

デザイナー×CXOの役割
・CXOは経営陣に対し、ユーザー視点の考え方・ユーザーが享受する価値ベースでデザインの重要性を、経営陣にわかりやすい方法(数字/ストーリーテリング)で伝える
・また、CXOは組織がスケールしたときにうまく機能する様な、全体の方向性に関するビジョンを持ち、それを支える体制を整える

ざっくりと、上記のことが重要かなと思いました。
開催者、登壇者の皆様、貴重な経験どうもありがとうございました。

そしてここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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