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日本酒BARあさくらのなりたち

コロナ禍を経て、かつての常連さんも少なくなってしまいました。

新しく通ってくれる人が増えてきたのはいいことなのですが、この記事を読んでいる人も含めて、そもそもどうして日本酒BARあさくらを開店するに至ったかという経緯に関して知らない人も増えてきたな、と最近よく思います。

なので、ひさしぶりにどうして店を開くことになったのかの経緯を記しておこうと思います。

 

 

日本酒の専門店をやっているというと世間では一番多い理由として思い浮かべるのは「日本酒好きが昂じて」とか「店を開くのが夢だった」ということになると思うのですが、どちらも全く当てはまらないのです。

日本酒はもちろん好きです、愛しています。

でも、できれば日本酒の店など開かないで済ませられれば済ませたかった、普通にサラリーマンとして過ごし、仕事が終わってから、あるいは休みの日に趣味として楽しみたかったというのが本音です(今でも)。

では、なぜ店を開いたのか?

がんばって短くしようとは思うのですが、それでも結構長くなるので、ここからは興味のある人だけが読んでくれたらと思います。

超ダイジェスト版としては

「日本酒のために」

その思いがゆえに、店を開いたと思っていただければ。

 

では、ダイジェストは終わって本編。

 

 

日本酒BARあさくらを開店したのは2005年9月2日、約18年前になります。

その直前まで、あさくらはサラリーマンでした。営業成績は中の上程度でしたが、英語とドイツ語という武器があったので、将来的には外国との折衝を任される予定だったそうで、海外の出版社からもスカウトがあったりとまあまあな立場でした。

その頃、日本酒は一番どん底でした。

何せ、イメージが悪くて、日本酒と聞くだけで呑む前から

 

「日本酒だけはムリ!」

 

とチョイスにすら入れてもらえないような状況。

しかし、造り手である蔵の人たちは消費者においしいものを届けようと努力を続け、実際にすばらしいお酒が百花繚乱、よりどりみどりなのに、手にとってすらもらえない、そんな状況でした。

大学院生の頃から日本酒には相当入れ込んでいたあさくらは、その状況が歯がゆくて仕方がありませんでした。

せめて、一口でも呑んだうえで

 

「好みじゃないから呑まない」

 

というんだったら納得もできます。

しかし、手にとってすらもらえない。

でも、手八丁口八丁でなんとかひと口でも呑んでもらうと、

 

「え!?おいしい!これ、なんですか?」

 

いや、だから日本酒だって言ってるでしょ、という感じでした。

がんばって、個人で何とか一人でも多く日本酒のファンを増やしたいと思い、いろんな人に進めていく中で、本当に日本酒は「飲まず嫌い」が多すぎるアルコールだということを実感。

でも、酒蔵の人たちと知り合い、酒造りの現場を見せてもらい、話をすればするほど、これほど報われない仕事をしている人たちはいないな、と歯がゆい思いが増すばかり。

本当においしいものを造ろうと研鑽を重ね、実際においしいお酒を生み出している。

でも、そのお酒が手にとってすらもらえない。

こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。

誰かが、この日本酒の魅力を世の中に伝えなければいけないんじゃないだろうか。

そんな想いが日に日に募っていき、じゃあ自分がやるしかないか・・・・・・という結論になりました。

安定した、将来も嘱望されている仕事を捨てて、明日をも知れない世界に身を投じる。

リスクしかないような状況。

でも、誰かがやらなければならない。

できれば、自分は安寧な立場に身を置いて日本酒を楽しむ消費者でありたい。

でも、自分で決めたことではなく、選ばれてしまった。

日本酒のために、だれかがやらなければならない。

おおげさないい方かもしれませんが、日本酒をとりまく環境を観察し、自分が置かれている立場を見た時にそう感じてしまったのです。

今でこそ、こうしてきちんと言語化できていますが、当時は直観に近い感覚でした。

そして、時を経てふり返ってみても、やはりその感覚は正しかったのだろうと思います。

 

そういう経緯で決意をした時に酒蔵、酒販店、飲食店という3つのチョイスがありました。

まず酒蔵ですが、おいしい酒を造るという意味では素晴らしいのですが日本酒全体を応援したいと思っているのに自分の蔵の酒がメインになってしまうということ、あと体力的にも腰痛的にもとてもつとまらないだろうということで却下。

次に酒販店ですが、当時はまだ酒販免許をとるのが難しい(不可能ではないけど)状況で、さらに取引を始めるためにはどこかで働いて信用を築いていかなければならない、といくつもハードルがあったためコレも却下。

消去法的にというわけではないですが、飲食店ならいちばんダイレクトにお客さんの反応を見ていろんな種類の酒をすすめられる。

そして、料理人ではないから料理は出せないけどそれを逆手にとって日本酒をメインにしたバーにしようと思い立ったのが日本酒BARあさくらを開く原点となりました。

ウイスキーやカクテルを楽しむバーはお酒そのものを楽しむことをメインにしているのに、日本酒は食事と一緒じゃなければというイメージが強かった、その状況を変えたいというのもありました。

食事がおいしい店だと、どうしても食事の方に目がいってしまって、「この料理にこのお酒が合うね」と主役は食事になってしまいます。

そうではなくて、日本酒に主役になってほしい。

そんな想いから日本酒BARあさくらは誕生することになりました。

 

 

その決意を仲の良かった関西の蔵元何人かと一緒に呑んだ時に(というかそのために集まってもらって)、

 

「会社を辞めて日本酒バーをやろうと思います」

 

と発表。

どん底にあった日本酒業界を応援するために、ということももちろん伝えているというか、普段からのつきあいで知っているので、当然みんな諸手を挙げて応援してくれるのかと思いきや、全員から

 

「絶対失敗してつぶれるからやめとけ!」

 

と猛反対されました。

今、これだけ日本酒がどん底の状態にあるのだから、日本酒専門のバーなんて誰がやっても絶対に失敗するに決まっている。

失敗したら残るのは借金だけ。

そうなったら、もう自分の好きな酒を好きなだけ呑むこともできなくなる。そんな風になるくらいだったら、サラリーマンのままで今まで通りたくさん買って、呑んでくれた方が応援にもなるし、あさやんのためにもなる。

そんな風にして反対の理由を語ってくれました。

反対されたことは意外でしたが、そのやさしい気遣いがうれしかったです。

でも、そんな中途半端な思いでやるのではなく、何だったらこれからの日本酒業界を背負うくらいの覚悟でやるんだとあらためて決意を表明し、長い時間語り合った結果、最後には全員が賛成してくれ、それなら俺らでできることやったら応援するわという言葉をいただき、彼らとは今もいい関係を保っています。

こういうのも何ですが、日本酒が一番しんどかった時から戦い続けてきた戦友のような感じです。

 

こうした経緯で2005年9月2日、日本酒BARあさくらは始まりました。

今でも経営が安定してるわけではないですが、最初の数年は今よりもずっと苦しかったです。

業界で知名度だけはあるけど、実際に足を運ぶ人はいない店。

それは、今もある意味ではあまり変わってないのかもしれませんが、当時は閑古鳥が鳴きっぱなしの店でした。

誰も来ない店内で、この店はどうなっちゃんだろうなあ・・・・・・と一人カウンターに座る日々。

でも、そんな時に並んでいる日本酒を眺めていると、

「そうだな、こいつらのために何とかがんばらないとな」

と、落ち込んでいるわけにもいかないと何度も励まされました。

 

開店してから17年半。

数字的に売れるような酒をプロデュースしたわけでもありません。

メディアに出て、日本酒をアピールできたわけでもありません。

でも、相談に来てくれた多くの造り手の力になることはできたし、多くの飲食店の方々の相談に乗り、多くのお客さんと話すことで日本酒の魅力を伝え続け、それなりに日本酒業界に貢献できたとは思います。

たぶん、ホ〇〇モンやひ○○きといった人々から見れば、生涯年収が半分以下になって、休みも少なくなり、趣味に費やせる時間も少なくなってしまったこの選択は「負け組」ということになるのでしょう。

「カネ」を最優先の価値観とする人たちからすれば、そうなるのでしょう。

カネとは縁のない生き方だと思いますが、店やイベントを通じて日本酒ファンを増やし、微力ながらも日本酒のために何かができたのではないかという自負はあります。

 

この18年間で日本酒をとりまく状況は大きく変わりました。

いまや、飲まず嫌いはずいぶんと少なくなり(ゼロではない)、おいしい日本酒があるということも知られるようになってきました。

2005年当時と比べると夢のような状況ですが、まだ道半ばだと思っています。

 

私の一番の夢は店をやめることです。

 

日本酒を広めるために店を続けているわけですが、そんなことをしなくても、誰もが日本酒のおいしさを認め自分でお酒を選び、家でも外でも自分の好みのお酒を楽しむような世の中になったら自分がやることはもはやありません。

だから、店をやめることが一番の夢ですが、まだまだそんな世の中は来そうにありません。

なので、おそらく体が動くかぎりは現役を続けると思います。

 

ジョジョ、ガンバ大阪、読書、クラフトビール、コーヒー、大森靖子etc.

日本酒と関係のないことも店で扱っているのは、少しでも間口を広げて、そこから日本酒に興味を持ってくれたらと思っているからです。

一見、ちゃらんぽらんに見えるので誤解をされがちですが、たぶん誤解をするのはいわゆる日本酒ガチ勢で、彼らよりも日本酒にあまり興味を持っていない人に興味を持ってもらう方が今後の日本酒業界にとってはプラスになると思って、活動を続けています。

日本酒業界の王道、ど真ん中、注目されるポジションにはいないし、いつも少数派に属していますが草の根でもちゃんと枯れない根っこを育てていると思っています。

 

でも、そんなヘビーな思いはあさくら一人が背負っていればいいことで、お客さんには「日本酒っていいもんだな」と楽しく吞んでもらえればと思っています。

 

長々と書き連ねてしまいましたが、こういう思いで店をやっているのだということを新しいお客さんにも知ってほしくて筆をとりました。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

これからも、日本酒のためにがんばって店を続けていけたらと思いますので、みなさんどうかよろしくお願いいたします。


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