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美容系YouTuberをみて思うこと

最近、YouTubeをよく観る。最近というかもう何年も前から。

今更私が説明する必要はないと思うが、YouTubeはホーム画面をひらくとオススメ動画が表示されるようになっている。過去に視聴した履歴から気に入りそうなものをAIが判断して、世界中からアップロードされている何億という動画の中から選抜される。
表示される動画のなかには、チャンネルを登録している人の新作だったり、全然知らない人の人気作だったりする。

私は普段、怖いジャンルの動画をよく観る。子供の頃は、夏になると毎日のように心霊をテーマにしたテレビ番組が放送されていた。今となっては特番でたまに見かけるくらいにその数は減ってしまった。当時テレビで心霊番組を楽しんでいた世代には需要があるようで、心霊問わず怖いものや不思議なものを扱っているチャンネルは、どれもコメント欄が盛り上がっているように感じる。

そんなお気に入りの怖い系に比べたら少ないのだが、たまに美容に関する動画も観る。観たところで真似をすることはないのだが、飾り気のない素顔からまるで別人のように美しく変身していくその過程が観ていて飽きない。何より私の興味はメイクのやり方よりも、それを楽しそうに紹介している人たちにある。

私のなかでメイクとは、コンプレックスを解消するものというイメージがあった。目が小さい人は大きく見えるように、顔が長く見える人は短く見えるように、とにかく世間一般にいう「きれい」や「かわいい」になるべく近づける行為をメイクというのだと思っていた。

メイクを単なる朝の作業としか捉えられなかった私は、33歳を過ぎた頃からずっとスッピンだ。朝が苦手なうえに、短い時間でメイクをしなければならないという義務感に嫌気がさした。アイシャドウのカラーは、どんな服装にも合うように一年中ブラウン系のまま変えようとしなかった。

それとは別にメイクを楽しめなかった理由の一つが「NGメイク」というフレーズである。これはもう古いからダメ、あれをしたら気が強く見えるからダメ。これはオフィスにはふさわしくないからダメ、こうするとナチュラルじゃなくなるからダメ。

まるで顔の仕上がりに合否を告げられているように感じてしまう。たまに気が向いてメイクをしてみても、これってもしかして「NGメイク」なのではないか…と気が滅入り、諦めてしまうのである。(これは私がそのように感じてしまうだけであって、NGメイクを参考にしたい女性はたくさんいると思う)

しかし、YouTubeでメイクを紹介している人たちの中には、自分とはまったく違う感覚の人たちがいる。彼らは否定的なことを言わず、メイクそのものをただ楽しんでいる。印象的なのは、手本をしている彼らにもコンプレックスがあるということ、そしてそれを受け入れたうえでメイクを楽しんでいるという点である。

何かスキルを身につけるためには「できない自分」と何度も向き合わなければならない。勉強もスポーツも、仕事もそうだが、メイクも同様だ。例えば一重の人が二重になるためには、まず二重メイクを習得する前に、一重の自分を鏡の前で何時間も見る必要がある。

自分の顔を見つめながら、憧れている芸能人の誰かと比較して落ち込んでみたり、親の遺伝を恨んでみたりしたかもしれない。自分だったらそうする。
しかし美容系YouTuberとなった彼らは、諦めずに試行錯誤を続けた。誰かのメイクを研究したり新しいコスメを試してみたりしたその結果、その人なりに気に入ったメイクに出合っているのだろうと思う。

POPスターの〇〇やインフルエンサーの〇〇みたいになりたいという声をSNSでよく目にする。理想の「誰か」に正解を見出そうとするのは間違っていないし、きっと誰もが一度は思ったことがあるだろう。しかし実際のところ、誰かになることは出来ない。出来るのは、自分の延長線上にいるであろう今とは違う自分を見つけることだけである。

鏡の前にいる自分はなりたい誰かとは違うかもしれないが、そこに辿り着くまでの道のりが自分を限りなく100点に近づけてくれるのかもしれない。
美容系YouTuberの動画を見ている人たちは、ひょっとしたらメイクのテクニックよりも、コンプレックスごと自分を受け入れて前向きに過ごせることを求めているのではないか。

ふと、この記事を書いているときに、高校時代のことを思い出した。学園祭のとき、慣れないメイクをしようとして母親のアイラインを化粧ポーチから勝手に持ち出した。女子トイレの薄汚れた鏡の前で片目を閉じながら辿々しくラインを描いた記憶がある。

そういえば、あのときはまだ「作業」ではなかったなあ。楽しみにしていた日に楽しいことをしようとして、損得勘定もなく好奇心のままに試していた。心にまだ残っている嫌気がきれいに流れ去ったら、いつかまたメイクを楽しめる日が来るかもしれない。世界中の人々が観ている前で、スッピンのまま生き生きとコスメを紹介する彼らみたいに。

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