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p.1|はじめに。

2016年から、国内外各地の鯨にまつわる話を集め刺繍画とともに本に綴ったリトルプレス『ありふれたくじら』を発行しています。

宮城県石巻市と牡鹿半島、米国アラスカ州ポイント・ホープ、和歌山県東牟婁郡太地町、北海道網走市、宮城県気仙沼市を訪ね、2018年末までの約2年間でVol.1〜5を発行しました。ひとつの号でひとつの土地の世界を伝えよう、と考えながら発行した5巻。いずれも捕鯨や鯨猟がおこなわれていたり、鯨への信仰があるなど、人と鯨が身近にかかわってきた土地でした。

現在、2019年の春と夏に訪ねた米国ニューヨーク州ロングアイランドの先住民、シネコックと鯨にまつわる話をまとめたVol.6を制作しています。この号は2020年秋頃に発行予定です。noteをはじめたのは、このリトルプレスの制作過程をみなさんとわけあいたいと考えたからです。

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一冊の本は、ひとつの小さな世界だと思っています。

「どういうタイミングやきっかけで、一冊の本をまとめているのですか」と訊ねられたことがありました。リトルプレス『ありふれたくじら』をつくる過程をふりかえってみると、

鯨にまつわる土地を訪れ、人に出会い話を聞く。その土地のものを食べ、海を眺め、空気を吸って、歩いてまわる。ときには、そこにかつてあったものの想像にふける。すでに失われたものを想像するときは、誰かの語りや本を手がかりにすることもある。

そうして旅をしていると、あるとき、そこで体験したことや聞き集めた物語のひとつひとつが線で結ばれていき、ひとつの絵のような文様のような、あるいは地図のような何かが、頭の中で描かれていくことがあるのです。それは実際に何かのかたちをもってはおらず、これからつくる一冊の本で伝えていきたい、その「世界の見え方」のようなものなのでしょう。その文様のような地図のようなイメージを手がかりに、本づくりを進めていくのですが、その過程で省かれていく言葉や物語もあるのです。

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鯨をめぐる話題から、自分と他の生き物の関係を考えることもある。世界が分断されていく状況に直面して、境目のない海の世界を想像の中で旅してみることもある。日本のどこかで見聞きした話が、海の向こうの土地の話と不思議にリンクすることもある。

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「くじらの見える書窓」では、そうして日々紡がれていく言葉や物語を伝えていきたいと思います。

人に直接会うことも、会って話を聞くことも、遠出や旅行をすることもはばかられる今。自分たちを包んでいた小さな世界から大きな世界まで分断されているから、これまでの旅をふりかえり、遠くの誰かから受け取った言葉にふたたび向き合うこと自体が、いろいろなことを気づかせてくれるかもしれません。

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もうひとつ、このnoteを通して『ありふれたくじら』の活動を応援してもらいたいと思っています。このリトルプレスは自費出版で制作・発行してきました。今年は『ありふれたくじら』Vol.6が完成したら、リトルプレスとして各地の書店等で配本するほか、挿絵の原画となる刺繍作品の展示会もひらきたいと考えています。(ただ、これを書いている2020年4月の状況から、今後のCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大状況によっては、特に展示会は難しいかもしれません。)

こうした活動費用に充てるため、リトルプレス『ありふれたくじら』のバックナンバー(Vol.1〜5)の収録エピソードの再編と一部の記事を有料で公開していきます。

よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは、今後のリトルプレス『ありふれたくじら』の制作活動資金といたします。