vol.1.2.4 鯨の卵

鯨の港、鯨の町として栄えた頃の鮎川浜のことを知るふたりのおばあさんに出会い、話を聞いた。ひとりは鮎川浜で生まれ育ち、旦那さんは捕鯨船の銛打ちだったというおばあさん。銛打ちとは、広い海上で波間に鯨の姿をとらえ、狙いを定めて鉄砲のような銛を打ち仕留める役だ。1ヶ月に150頭くらいとったって言ってたよ、と彼女は言った。捕鯨の町として栄えた鮎川浜でずっと暮らしてきた彼女だが、海を泳ぐ鯨を見たことはないという。「鯨は丘から見てもいねぇんだもん」と話した。旦那さんたちが乗っていた捕鯨船は、一度漁に出ると1週間は戻ってこなかったそうだ。沖のずっと向こう、どこまで行ったかはわからない。

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