見出し画像

あざと可愛い女の生態が明らかになった忘年会の話。

これは私が20歳の時の話。

当時大学生だった私は、初めて地元の仲間達との飲みの席に参加していた。参加者は6名。内、女は私とエミの2人。華やかなエミと地味な私のツーショット、その場にいた野郎どもにはさぞかし対象的に映ったことと思う。私自身、引き立て役で呼ばれたんじゃないかとニラんでいた。それでも誘いを断らなかったのは、あざと可愛く生きるエミのことが嫌いじゃないからだと思う。

隅の方でちびちびとお酒を飲む私は甘くて飲みやすいカクテルを飲むエミをボーッと見ていた。話題の中心はもちろんエミ。小学生時代の昔話に花を咲かせ、場は大いに盛り上がっている。

あんな悪いことしたよなー、そういえばこんなこともあったっけ。実はあの時のあれはー、

なんて話は尽きず、私も隅でお酒を飲みながら皆の話を笑って聞いていた。目の前のオイキムチをつまみ、なんとなく目線を上げると目の前のチャラ男、シロウと目が合う。シロウは「櫻子楽しんでる?てかお酒強いね。良く飲むの?」と話しかけてきた。

「まあ、それなりに。」と私もそれに返答して、シロウと私の会話は続く。普通に会話できていることに驚く私。気付けばシロウとの会話がこの場の中心となっていた。

「櫻子、酒強いらしいよ」とシロウ。他の男たちはそれに乗っかって、この場はそこそこの盛り上がりを見せた。それぞれ反応をくれる中、この中で1番のイケメン、カイが「櫻子さ、今度うまい酒教えてよ」なんて言った時、突然エミが声を上げた。

「ねーカイ全然飲んでなくなーい?」

エミの手に握られた注文用タブレット。ついでにと男連中はエミに酒を頼み、エミは意気揚々とタブレットを操作していた。「櫻子もなんか飲む?」と問うエミに、「まだ大丈夫。ありがとう。」と返す。そしてエミは再び、話題の中心へと返り咲いたのであった。飲み会開始30分、まだまだ序盤の話であった。

飲み会中盤にさしかかる。相変わらず私はお酒をちびちび飲みながら、皆の話を聞いてケラケラと笑っていた。お酒が少し周り、ふわふわといい気分。ニコニコ、否、ニヤニヤしながら飲み放題コースのポテトフライをつまむ。特に状況は変わらず、エミの独壇場が続いていた。話題はエミの中学時代。

「てか櫻子全然喋ってなくね。」

突然そう言うのは、イケメンのカイ。突然のご指名に、私は当然ながら驚いた。「櫻子が中学の時の話とかめっちゃ興味ある」と付け加えたカイ。全く話さない私を気遣って話題を振ってくれたのだと気づくのにそう時間はかからなかった。カイという男は、中身までもイケメンなのである。

「びっくりするくらい何もないよ。平々凡々。」
「誰かと付き合った?」
「いやいや、全然。」
「部活は?」
「美術部で女ばっか。百合展開も一切なし。」
「あれだろ?油絵描いたんだろ?美術館に飾ってあるやつ」
「描いてないわ!どこの美術館に飾るんだよ。」

カイとの会話にシロウを含めた男連中が茶々を入れる。「おいカイ!櫻子様様だぞ!」とか「無礼者め!」とか「口の聞き方がなっとらん!」とか、色々。カイは大口を開けてゲラゲラと笑っていた。場は結構な盛り上がりを見せていたんだが、またまた空気がガラリと変わる。

「ねえエミの話は興味ないのー?ひっどーい!」

突然大きな声をだしたエミ。少しハイペースめに飲んでいたエミの顔は明らかに赤い。あぁ、結構酔ってるんだなぁと私は意外にも冷静な目でエミのことを見ていた。

そしてエミは話題を自分の中学時代に戻すと、いかに自分がモテまくっていたかという話をしはじめたのだ。モテていたというか、中学生にしては過激な内容。ビッチな中学時代を送っていたエミが次々に男たちを虜にして食い散らかした話である。やっぱりエミは次元が違ぇなぁと私はすっかりすみっこの住人と化した。飲み会開始1時間、後半に差しかかる頃の話であった。

その後もエミ無双が続き、モテ自慢が延々に繰り広げられていた。お酒が入っているせいか、この場は下衆な話題で異様な盛り上がりを見せている。ただ1人、カイを除いては。

カイはヘラヘラと笑いながらも、少し冷静な目をしていた。カイという男は昔からそうだ。熱しやすく冷めやすい。その上、一度冷めるととことん冷静。ただ、場の空気を壊すようなことはしなくて、こういう時も周りに合わせて笑っていられるような男なのである。

そんなカイと、再び目が合ってしまった。これ、話振られるなぁと私の第六感が訴えた。

「櫻子って人生経験豊富そう。」

私の勘は当たった。男連中の視線は一気に私に集中する。ふとエミを見ると、怖いくらいの無表情で私を見つめていた。ないよ、と私が答える前にエミが動く。

「櫻子はピュアだからそんなこと聞いちゃダメでしょー!」

身を乗り出すエミ。笑顔でそう言うエミが怖かった。

「いやいや分かんないじゃん。」

とカイ。視線は相変わらず私をとらえている。
再び私が何か答えようとする前に、

「何もないよねー?」

とエミは今度は私に同意を求めてきた。笑顔のエミ。その笑顔の向こう側には『何もないって言え』という圧力。いったい私が何をしたって言うんだ。勘弁してくれ、と私は心の中で半ベソをかいていた。

「何もないよ」

とかろうじて声を出した私は引き攣った笑みを浮かべながらお酒を口にする。あぁ、そういうことね。エミより目立ったことはしてはいけないらしいとここにきてようやく悟った私は、残りわずかな忘年会でひたすらすみっこの住人に徹した。ヘラヘラと笑っていたが、少し胸が苦しかった。

忘年会終了まで、エミの1人舞台は続いた。カイや他の男連中が私に話題を振ってきた時、私が口を開く前に全てエミが答えていた。 

「櫻子はピュアだから」
「櫻子は純粋だから」
「櫻子は真面目だから」
「櫻子は汚れてないから」

いかにも、私に男性経験などない、モテないというアピールしたいような口振りである。無論、私が口を挟む余地などない。もはや私は地蔵だった。


お酒に飲まれてか、モテる女マウントをするためか、男を食い散らかした過去を暴露したエミ。私をとことん引き立て役として扱ったエミ。
あざと可愛い女だと思っていたエミは、蓋を開けてみれば、末恐ろしいビッチだった。

かく言う私も同じ女。女だけど、女ってわからないなぁと思った瞬間でした。

これが、あざと可愛い女の生態が明らかになった忘年会の話。

この記事が参加している募集

#振り返りnote

85,359件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?