あたまポンポンおじさんと大学生だった私
恋に、恋愛に飢えていた。
ひとまわり以上も年上の頭ポンポンおじさんにふらふらとついていってしまうほど、その時の私は誰かに愛されることを欲していた。
頭ポンポンおじさんとは、文字通りことあるごとに頭をポンポンしてくるおじさんのことである。
「かわいいねぇ」ポンポン
「すごいね」ポンポン
「またね」ポンポン
そんなに何度もポンポンされたら頭おかしくなるだろ。
髪も崩れるだろ。
まずどこで覚えたんだよその技。
モテると思ってやってんなら普通にキモいぞ!
今の私だったらそう言う。
けど、大学3年生の私は言わなかった。
ポンポンおじさんに嫌われてしまうと思ったからだ。
とんだアホである。
頭ポンポンおじさんとの出会いは所謂ナンパというやつだった。
美術系の大学に進んだ先輩の、合同作品展示に遊びにいった時に声をかけられた。
「林さんのお友達ですか?」
中目黒のおしゃれな店の展示ブースで(おしゃれすぎてもはや何の店かもわからない)、ひとり先輩の描いたイラストを見ていたら、いつの間にか隣にそのおじさんはいた。
スラリとした長身で、顔は斎藤工を少し太らせて眼鏡をかけた感じ。
「おじさん」と書いているので結構なおじを想像されるかもしれないけど、実年齢35歳、見た目年齢30前後くらいのおしゃれな男性だった。
「え、ああ、高校の先輩で…」
悪くないフェイスの大人の男性にいきなり声をかけられて緊張した私がしどろもどろにそう言うと、ポンポンおじさんは僕も彼女の作品を見に来たんだと微笑んだ。
そこからはもうご想像の通りだ。
「この辺はよく来るの?」
「君も大学で絵を勉強しているの?」
「3年生か、もうすぐ就活?」
先輩に挨拶してから当たり前のように2人で謎のオシャ店を出て、駅に着くまでの道のりで色んなことを聞かれつつ、ポンポンおじさんも流れるように自分のことを話してきた。
ポンポンおじさんは中目黒に住んでいること
先輩が展示していたオシャ店のオーナーと友達であること
バツイチで子供がいること
なんかオシャレなベンチャー企業の社長をしていること(後に友達からポンポンおじさんじゃね?とテレビに出ている彼の写真を送られてきた時はさすがに笑った)
10分もかからないうちにものすごい量の情報を開示された。
そして気がつけば舞台は駅までの道ではなく、謎の隠れ家小料理屋に変化していた。
当然ながら急にワープしたわけではない。
ポンポンおじさんに誘われて行ったわけだけど、ここに来るまでの流れがびっくりするほど記憶にない。
それくらいポンポンおじさんは手慣れていたし、スマートだった。
先輩の知り合いだという事実も、私の警戒心をいとも簡単に捨てさせた。
小料理屋では正直なんの話をしたか覚えていないけれど、「のどぐろ」を初めて食べたことと、ポンポンおじさんとLINEを交換して、次に会う約束を取り付けられたことは覚えている。
「またね」ポンポン
その日は2件目に誘われることもなく、駅まで送ってもらい、頭をポンポンされて別れた。
ポンポンって何やねん。何で急に頭触るんだ。
そう思ったが特に何も言わなかった。
嫌な予感がした皆さん、そうです。
この時すでに当時の私はもうポンポンおじさんとの恋の予感を感じていたのである。
いや、早い。
実に、チョロい。
「個人的にはここで急に2件目に誘い、酒を飲み…としてこなかったのもポイントが高かったの〜」と、当時の私が言っている。
この言葉からも分かる通り、冷静に考えたら初対面で小料理屋に連れて行かれたこと自体ナンパ以外の何者でもないのだが、この時の私はこれをナンパとも思っていなかったのである。
お。恐ろしい。
大体こんな風にして私の恋愛は始まることが多かった。
街中のナンパは経験したことはないが、旅先のゲストハウスとか、ボランティアとか、ざわめく街の飲み屋とか。
学校での出会いや合コンなどもあったけど、やっぱり同じように気づいたら相手の波に呑まれているのである。チョロいだろ?
話は逸れたがこの後もポンポンおじさんとは2ヶ月くらい時々デートしたり連絡を取り合う仲を継続していた。
そして2ヶ月目にしてやっと夢から覚めた私がポンポンおじさんの元を猛ダッシュで逃げることになるのだが、長くなってしまったのでその話は次回にする。
続く。
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