美人らん

嵐の日に出遭った、子猫の「ラン」

愛猫のランと出遭ったのは、2017年の10月21日。超大型の台風21号が日本に近づいていた土曜日で、すっかり暗くなった18時過ぎ、仕事場から自宅に帰るときだった。四つ角を曲がるところで、ミャウミャウというなき声が聞こえた。
目を凝らすと、道端で白黒の小さな猫がないていた。ノラの子猫……、近寄れば逃げて行くだろうと思いながら、それでも一応は、としゃがんで「どうしたの」と声をかけてみた。すると、駆け寄ってきて、足に体をすり寄せてきた。
それは、私にとって二度目の経験。一度目は、30年くらい前、当時住んでいたアパートの前でないている子猫がいて、私にすり寄ってきた。でも、アパートはペット禁止だったので、逃げるように去ってしまった。
そのことが、ずっと忘れられず、トゲのように心に刺さっていた。
「よおし、今度は一緒に行くぞ」
右手で持ち上げると、空気のよう。持っていないかのように軽い。後で計ったら200グラムほどなので、生後1ヶ月程度だった。人なつっこい女の子。
これも後で分かったのだが、近所の人が、ときどき家に来るメス猫を避妊手術に連れて行った。そのメス猫は子猫を産んだ直後だったのだが、近所の人はそれを知らなかった。
残された子猫の1匹が私にすり寄ってきた子だった。
近所の人も、直後に子猫がいることに気づき、1匹は助け出した。しかし、1匹は警戒心が強く、近づくとシャーとひっかくそぶりを見せ、他の家の軒下に入り込んでしまった。やがて、なき声が途絶えたという。

このままでは、安楽死も

超大型の台風が近づくなか、すり寄ってきた子猫を放っておくことはできない。連れて帰ってからの世話は妻に任せた。妻は猫を飼った経験が多く、まだ目の開かない子猫を育てたこともある。
その妻は、久しぶりに小さな小さな猫を見て、目を輝かせた。抱きかかえ、柔らかなタオルでくるみ、水を与えて、子猫でも食べることができそうなエサを与えた。猫は安心したのか、ぐっすりと眠った。

以下、妻の観察日記から。
体はノミだらけで、目は結膜炎。左目は特にひどい。翌日、動物病院に連れて行くと、母猫から離されたので便秘と診断され、ウンチを絞り出された。そして、高カロリーの栄養食をもらった。
家に帰って、そういえば、一度もおしっこをしていないことに気づき、動物病院にUターン。膀胱炎と診断されて、今度はおしっこを絞りだされた。その間、痛かったのか、ずっとないていた。

救出が数時間遅れたら、危なかったといわれたが、その後も危機的状況は続いた。なかなか体重が増えず、「このまま大きくならなければ、安楽死しかない」と言われてしまう。

名前の強さで、持ちこたえた

「死なせるもんか」と高カロリーの栄養食を与え、お湯でお尻を刺激して育てながら、私が子猫に名前を付けた。2017年台風21号の名称「LAN」からランと命名。ちなみにLANは、「嵐」のことだそうで、女の子に勇ましい名前を付けてしまった。
動物病院で、「診察カードに入れる名前は決まりましたか」と聞かれた妻は「ランです」と答えた。
「ランデスちゃんですね」
「ラン、です」と何度訂正しても、「ランデス」と連呼しているように聞こえたらしく、診察カードは、プロレスラーっぽい名前になってしまった。


強い名前のおかげか、ランは順調に回復して体重も増え、いたずらっ子に育って行くのだが、その話は、いずれまた。

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