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新作能「菖蒲冠(あやめこうふり)」誕生の秘密(3)

斎宮(さいぐう)とは、未婚の皇女(天皇の娘)が、神に仕え、神の声を聞く巫女となり、世俗の社会、人々を断ち切った宮(これも「斎宮」と言います)で、暮らす人のことです。「斎(いつき)」という字の持つ意味は、

いはふ(斎ふ)…汚れを避け、身を清める。
いもひ(斎日)…不浄を避ける。
いむ(忌む)…不吉なこと、汚れたことを避ける。
ものいみ(物忌)…神事に先立って、一定期間、飲食、言行を慎むために籠る。
つつしむ(慎む)…過ちをしないように気をつける。自重する。

「斎(いつき)」を実行するために、清らかな山野の聖水のほとりに仮屋を立てて籠ります。そして、神の来訪を待つ人(巫女)となる準備をします。

斎宮歴史博物館の斎宮の様子を復元したコーナー 筆者撮影

このような習慣は、各地の風習の中に残されています。沖縄の久高島の「イザイホー」では、30歳から41歳までの女性が、旧暦11月15日から3晩、村の祭場の後ろのイザイ山の仮小屋にこもり、その4日間、祝女(のろ)の主宰で歌や踊りの神事が行われ、その後、彼女たちは婚家の神事をつかさどることができると言われています。

space café ポレポレ坐 2021.8.22「イザイホー映像の時代」より
彼女たち「ナンチュ」が頭に何か植物を挿しているように「菖蒲冠(あやめこふふり)」でも、鉢巻をしてそこに菖蒲を挿そうと思っています。

京都府京丹後市にある竹野神社は、別名「斎宮神社」と言って、斎宮のいたところとされており、「かぐや姫」の物語の発祥の地でもあります。

3晩、4日ならいいでしょう。しかし、何年も斎(いつき)の宮で過ごすというのは、どうでしょうか?犯罪も犯していないのに、自由を奪われ、収監、拘束されているような気分にはならないでしょうか?それが神聖な日々なのでしょうか?ジャン・ジュネが犯罪と放浪を繰り返し、獄中で書いた「泥棒日記」には、囚人の人々を「聖なる人」と呼んでいますね。

男子が斎(いつき)をやると、山野を駆け巡る(回峰行)、断食断水をする、不休不眠で歩く(常行三昧)、滝に打たれるなど、もっと身体にストレスをかけるみたいです。それは「スポーツ」とは言わず、「修行」とも言うようです。

斎宮に話を戻すと、伝説の中の最初の斎宮は、倭姫命(やまとひめのみこと)で、彼女は、大神(おおみかみ)を鎮め坐(ま)させるところを求めて、菟田(うだ)の篠幡(ささはた)(これは奈良県宇陀郡)に詣で、さらに近江国(滋賀県)、東美濃(岐阜県)を廻り、最後に伊勢国に辿り着き、ここを場所としての斎宮と定めたと、日本書紀の垂仁紀に書かれています。斎宮は、斎(いつき)を行い、「御杖(みつえ)」と言って、神と一体となって神託する者(巫女)となるそうです。

三輪―近江―美濃―伊勢外宮―伊勢内宮への道のり
倭姫宮御杖奉賛会ホームページより

倭姫命(やまとひめのみこと)さんは、甥の倭建命(やまとたけるのみこと)くんに二度目の東方の荒ぶる神の征伐に行くときに「がんばってね」と天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)と火打石を与えました。今でも伊勢の下宮の鳥居の前に、火打石屋さんがあり、私は兄のお土産に買って送りました。倭姫命の話を忘れていましたが、私は、兄に何をがんばってほしかったんでしょうか?

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