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2021年、ナンバーワンの本、決定

ぼくは、読書中毒だ。毎月、書店や図書館の新刊コーナーをチェックし、面白そうな本を探すことに加え、SNSも活用して、日々、良書を探している。SNSでは、本を読んで感銘を受けた著者とその本の編集者をフォローして、投稿をチェックする。同じ本を複数の人が推薦している場合、その本は良書である可能性が高い。

最近、SNSをにぎわせている本がある。それは、『取材・執筆・推敲 書く人の教科書』古賀史健(著)。SNSをにぎわせているといっても、ぼくのSNSであって、世間一般でにぎわっていたかというとそうでもないのかもしれないが、ぼくのような、本を読む側ではなく、ブックライターや編集者といった、本をつくる側の人が、おすすめ、賞賛、ときには嫉妬のような投稿をしていた。投稿は日を追うごとに増えている。

本の価格は、3000円+税。一般的なビジネス書は1500円くらいのイメージだから、すこし高い。おすすめされているからといって、中身も見ずに、すぐに買うのは抵抗があるし、Amazonや楽天ではなく、リアルの書店を応援したいという思いもあって、近所の書店に見に行ったが見当たらない。
そんなふうにして、数日間、迷っていたとき、あるイベントが開催されると聞き、ぼくは観念して買うことにした。それは、本+アルファの金額で、著者と編集者の対談を視聴できるイベントだった。

イベントに先行して郵送された本を手に取った。手に取った瞬間、この本に込められた、思い、熱意、情熱のようなものが伝わってきた。すこし青みのある白一色に黒い文字で、本の名前と著者名、出版社、帯も同色で、『この一冊だけでいい。100年後にも残る「文章本の決定版」を作りました。担当編集者・柿内芳文』とある。最近では著名なYoutuberの写真と推薦文で購買意欲をあおるような本もある中で、担当編集者が帯の言葉を書いている。ぼくは心地よい違和感とともに、この本への自信、必要な人に正しく届いて欲しいという、願いにも似た思いを感じた。

肝心の中身はというと、冒頭から、一文一文を読むたびに、ためいきが漏れた。何度も練り直され、書き直しされ、推敲された文章、著者の表現を借りれば「最初からそのかたちで存在していたとしか思えない」文章に魅了された。読者の心がどう動くのか、どう動かしたいのかを先読みされたように、ぐんぐんと読み進み、時間を忘れて読み終えた。至福の時間、至高の時間だった。

数日後の著者と編集者の対談イベントが楽しみになった。イベントの申し込み時に、「著者、編集者への質問」という欄があった。ぼくは、製造業で開発企画の仕事をしている。ぼくは「企画に必要なものはなにか?」と質問した。著者の古賀さんは、「上司がなにを求めているか?」よりも、「自分がどう思うのか、企画する商品、サービスを、自分がユーザーとして使ったときにどう感じるのか、自分自身に取材することが大切」と回答された。なるほど。
それに対し、編集者の柿内さんの答えは、「いかに企画しないで済むかを考える」だった。編集者と言えば、『本の企画』が仕事だと思っていたが、柿内さんは「企画という言葉が嫌い。くわだてて、絵に表すという言葉は、ないものを生み出そうとするエゴを感じる。企画書を書く時間をかけずに、企画していくかを考えている」と言っていた。

ぼくは、ワクワクする製品、世の中の役に立つ製品の企画は、自分の頭で死ぬほど考えて生み出すものだと考えていた。しかし、二人の考えはすこし違っていた。古賀さんからは、「あなたは何にワクワクするのか?」と問われ、柿内さんからは、「企画の内容で勝負するのではなく、普段の仕事の仕方、人間関係などを含め、良い企画が生まれる可能性を高める行動をしているか?」と問われている気がした。

企画が素晴らしいかどうかよりも前に、ぼくの企画に耳を傾けてくれる人は何人いるのか、楽しみに待っている人が何人いるのか、お金を払ってくれる人がどれくらいいるか。自分や会社の商品、サービスの質を高めていくことだけでなく、ブランドを高めていくことが、良い企画の前提条件なのだろう。

ブランドを高めるためにどうするか、テクニックももちろん重要だろう。でもそれ以上に、きちんと、自分を信じて、小細工をせずに、自分に嘘をつかず、自分が良いと思う仕事をやっていく。自分が本物になる。本物になれば、本物が見つけてくれる。著者の古賀さんがそうだ。古賀さんも、ブックライターとして、古くはゴーストライターとも呼ばれ、著名人の言葉を、考えを、その人以上に理解し、文章にまとめ、一冊の本に書き上げる。文章力だけでは本を書き続けることはできない。体力、根性を持続させ、ついには、自分自身が著者として、一冊の本を書き上げた。

企画は内容で勝負するのではなく、日々の行動の積み重ねから、ふと降りてくるようなものなのだろう。良い企画が生まれる可能性を高める。そのために、なにができるのか、なにをすべきなのか、本物の努力をしているのか、迷ったときには、この本を開こうと思う。

2021年も、はやいもので、半年が過ぎようとしています。みなさんの2021年ナンバーワンの本は何でしょうか? 大きく価値観が揺さぶられたここ数年。本物に出会いたいのであれば、この本をおすすめします。

#人生を変えた一冊 #取材・執筆・推敲 #書く人の教科書 #古賀史健 #柿内芳文

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