【ショートショート】桜回線
桜色にうめつくされた空。
花が美しく咲き誇る中、男は一人絶望していた。
学会でこっぴどくやられた直後だったのだ。
桜回線。
それは男が唱えたタイムテレフォン理論である。
いまの桜はすべて一本の桜のクローンだ。
桜は、何百年も前から株分けして日本中に広がった。
つまり。
単一の桜の記憶が、過去現在未来と一直線に繋がっているのだ。
それを利用すれば、理論上どの時代にアクセスすることも可能。
どの時代の人間とも話すことができる。
そんな画期的な理論なのに、いま学会で一笑にふされてしまった。
男が絶望し、桜舞う空を見上げたそのとき。
ジ、ジジッ
かすかなノイズ音がした。
そのあと、しゃがれた老人の声が聞こえてきた。
『聞こえるか。お前の理論は正しい。そのまま突きすすめ』
その声は年老いたとはいえ、紛れもない自分の声だった。
桜回線を通じて、ミライの自分がメッセージを送ってきたのだ。
男は大粒の涙を流した。
頭上から桜がいっせいに祝福の花びらを散らした。
(425文字)
シロクマ文芸部と毎週ショートショートnoteに参加します。
両方『さくら』がテーマだったので、一作にまとめちゃいました。
よくばりみかげw
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