軽やかなダンス 〈菓子四季録 vol.11〉
菓子四季録では、グラフィックデザイナー 澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、軽やかな口どけを味わう「苺とミルキークリームのブッセ」。
手で持って味わって
まあるく焼かれた生地はふんわりしていて、とっても軽い。生地の上には白い粉砂糖が薄くかかりドリーミングな雰囲気。間からのぞく白いクリームと赤い苺。ブッセはただずまいからしてとってもキュートなのです。
食べる時はナイフやフォークではなくぜひ手を使ってください。まず全体像を愛でます。次に手で割って中身のクリームと苺を目で味わいます。そしておもむろに口に運び、最初の「サクッ」を全力で楽しんでください。
「サクッ」と言ってもそれは本当に軽やかな「サクッ」です。生地を焼く時に粉砂糖をふりかけます。その粉砂糖は焼かれると飴化します。飴化といってもそれはごくごく薄くて、まるでベールをかぶったよう。そしてこの表面の粉砂糖の層がこの軽やかな「サクッ」をより高めるのです。
クリームは練乳を多めに入れてミルキーでしっかりと甘め。そこにフレッシュな苺の香りと味わい。苺は丸ごとではなく、小さめにカットします。そして挟み方にひと工夫。こうすることで刻んだ苺から果汁と香りが溢れ出し、食べた時にブッセ、クリーム、苺が一緒になって味わえます。クリームは少量ですが、しっかりとした味わいでブッセと苺をつなぐ役割もはたしています。食べるとまさに濃厚な「苺ミルク」という味わいそのもののフィリングです。
小さめのサイズなのであっという間に完食。すぐに次のブッセに手を伸ばしたくなります。サクッ、ふわふわのスポンジにミルキーなクリームと甘酸っぱい苺のコンビネーションはみんなが大好きな組み合わせ。
ブッセは日本生まれのお菓子
「ブッセ」とは「ビスキュイ」でクリームなどを挟んだお菓子のこと。「ビスキュイ」自体はフランスの伝統的なお菓子ですが、それを「ブッセ」というお菓子に仕上げたのは日本人と言われています。
ここで「ビスキュイってそもそも何?」ってなる人も多いかもしれません。「ビスキュイ」は別立て法で作られたスポンジ生地のことです。別立て法とは、卵黄と卵白を別々に泡立てる方法のことで、一緒に泡立てる共立て法に比べて、ふんわりとした軽い食感に焼き上がるという特徴があります。共立てで作るスポンジは「ジェノワーズ」と呼ばれています。ショートーケーキのスポンジケーキにはこの「ジェノワーズ」が使われます。
ビスキュイは砂糖が多めで、バターなのどの油脂分は入りません。メレンゲがしっかり泡立つので、軽くふわふわした食感が生まれます。スポンジに吸水性もあるのでティラミスやムースの土台にも使われたりします。
共立てよりも別立てで作るスポンジの方が簡単です。今回はメレンゲ作りが成功すれば半分は成功したようなもの。焼く時間も短めなので、みなさんが思っているより簡単にできますよ。
苺とミルキークリームのブッセ(レシピ)
下準備:卵を冷蔵庫で冷やし、使う直前に卵黄と卵白に分ける。薄力粉をふるう。オーブンを180度に予熱する。天板にオーブンペーパーを敷く。丸口金と星口金をつけた絞り袋を用意する。
作り方
〈ブッセを焼く〉
1. ボウルに卵黄とグラニュー糖の半量を入れ、白っぽくふわっとするまでハンドミキサーで泡立てる。
2. 別のボウルに卵白を入れ、ハンドミキサーで泡立てる。やわらかい角が立ったら、残り(半量)のグラニュー糖を2回に分けて加え、しっかりした(ピンとした角だが、ほんの少しお辞儀するくらいの)メレンゲを作る。
3. 1の生地にメレンゲの1/3量を加え、泡立て器でムラなく混ぜ合わせる。残りのメレンゲを2回に分けて加え、その都度泡立て器でムラがなくなるまで混ぜる。
4. 牛乳を加えてなめらかになるまで泡立て器で混ぜる。
5. 薄力粉の半量をふるい入れ、ゴムベラで切るように混ぜる。粉が見えなくなったら残り(半量)の薄力粉を同じように加えて混ぜる。
6. 丸口金をつけた絞り袋に5の生地を詰め、オーブンペーパーに5.5cmの円形を16個絞り出す。
*少し膨らむので、生地と生地は間隔を空けて絞りましょう。
*天板と同じ大きさの用紙に5.5cmの円を書き、オーブンペーパーの下に敷いて絞り出すとサイズが揃いやすいです。焼く前に、この紙はそっと外します。
7. 粉砂糖を茶こしでふりかけ、180度に予熱したオーブンで13〜15分焼く。
8. 焼けたらオーブンペーパーごとケーキクーラーの上に置いて冷ます。冷めたらオーブンペーパーから生地を外す。
*カードやナイフを使うと生地をはがしやすいです。
*サイズにばらつきがある場合、似たサイズ同士でペアを作っておくとクリームを挟みやすくなります。
〈フィリングを作る〉
9.ボウルに生クリームを入れ、ボウルの底を氷で冷やしながら八分立てにする。練乳を加えて泡立て、再度八分立てにする。星口金をつけた絞り袋に詰める。
10.苺を約7mm角に切る。
〈仕上げる〉
11.ペアのうち片方のブッセの外周にクリームを丸く絞る。苺をのせて、その上から中央にクリームを絞る。もう片方のブッセをかぶせて上から軽くおさえる。仕上げに粉砂糖をふりかける。
*出来立てのものと時間を置いたものでは食感が変わります。出来立ては「ふわふわ」時間を置いたものは「しっとり」。
細かいコツいろいろ
メレンゲを泡立ててから絞って焼くまではノンストップで行うのが理想です。途中で「あれはどこ?」「これはどこ?」みたいにならないように材料、道具は全部用意してから始めます。天板や口金の下準備も忘れずに!
メレンゲと卵黄生地を混ぜる時は、泡立て器でぐるぐる思い切り混ぜて大丈夫です。ムラがないようにしっかり混ぜます。卵黄生地を白っぽくなるまでしっかりと泡立てるとメレンゲと混ざりやすくなりますよ。
牛乳を加え、泡立て器で混ぜた後で、ゴムベラで底からすくように混ぜると生地が均一になります。
型を使うお菓子とは違い、絞った生地が仕上がりの形になります。形もですがサイズを揃えることも大事。きれいに仕上げたい人は下に丸を書いた紙を入れて絞ることを推奨します。円の真ん中に口金を持ってきてそのまま動かさずに絞ります。絞り終わったらスッと上に引き上げましょう。生地は焼くと膨らむので間をあけて絞ってくださいね。
粉砂糖は15〜20gを茶漉しを使ってふります。この粉砂糖は見た目だけではなく、サクッとした食感を作ってくれるのでお忘れなく!
生クリームは脂肪分高めを使います。45%以上がオススメです。脂肪分高めの方が味わいがリッチで今回のお菓子に合うからという理由もあるのですが、練乳を多めにいれるので脂脂肪分が低いとうまく泡立たないのです。生クリームを泡立ててから練乳を合わせるのもその為です。ミルククリームと呼べそうなミルクの濃厚さが味わえるホイップクリームです。その芳醇さがショートケーキに使うと少しくどくなりそうなくらい。でも軽いビスキュイ生地はとてもよくマッチします(濃いといっても少しの軽やかさも必要。試作でバタークリームやホワイトチョコのガナッシュを試したのですがこちらは少し重たすぎました)。
苺のカットに関して。「7mmに切る」というとなんだか難しそうですが、「1cmより小さく、5mmよりは大きく切る」と考えてください。小さめに切った方が食べた時に一体感が出ます。ですが、小さすぎると果実のごろっと感がなくなります。だからこその7mmです。
実はクリームの絞り方と苺ののせ方にもちょっとしたこだわりがあるんです。このビスキュイというスポンジはジェノワーズのようなしっとりスポンジよりも吸水性が高め。そして水分を吸ってもある程度までは保形できます。なのでクリームを丸くドーナツ状に絞って真ん中をあけています。そうすると真ん中に苺がたくさんのるし、カットした断面がスポンジに直接あたり、果汁をスポンジがキャッチしてくれるのです。
そして見た目がかわいくなるように外側にくるところに苺を配置するのも忘れずに。このチラ見えがとってもかわいいのです。
もちろんクリームの絞り方や苺ののせ方は自由演技でもOK!ですが、いろんなクリームの絞り方や苺のカットの仕方、のせ方をしてみて、私的にはこのやり方が一番バランスがよくなりました。
挟みたてと時間が経ったもので食感が変わります。すぐに食べると軽さが引き立ちます。サクっと羽のような軽やかさがとっても気持ちいい。時間が経つにつれてしっとり度が増します。まわりはサクッとしつつ、ふんわりしっとり。どっちも選べないくらいよい感じ。作って半分をすぐに食べ、残りは次の日に食べるのがいつもの食べ方。みなさまもぜひどちらの食感も食べて比べてみてくださいね。
苺は踊る
苺はフルーツ界のアイドルだと思います。
見た目のキュートさ、甘酸っぱい味わい。みんなから愛される国民的な人気フルーツ。そして苺をブッセにすることでこの愛され感が全開になる気がします。
しっとりふわふわがジェノワーズなら
さっくりふわふわがビスキュイ
どこまでも軽く、高く飛べそうなそんなスポンジに挟まれて、苺たちがなんとも可愛いダンスを踊っている。食べるとそんな気持ちになるお菓子です。
そろそろ路地ものの苺がお手頃な値段で出回る季節。ぜひ苺のブッセを愛でて、食べて楽しんでみてください。
【Photos : Sayaka Sawada】
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