苺とマスカルポーネとメープルと 〈菓子四季録 vol.1〉
ヘブンリーなおいしさの苺のフルーツサンド
苺のフルーツサンドが大好きです。フルーツサンドって昔はフルーツパーラーでしか食べられない特別なものだった気がします。今ではすっかり市民権を得て、コンビニでも気軽に買えるようになりました。扱っているお店も、フルーツサンドの種類も増えました。
ぐっと身近になったフルーツサンド。でも、どうせならば「最高においしいフルーツサンドを食べたい。しかも苺だけのを食べたい。」と思い、このレシピが誕生しました。
通常、フルーツサンドのクリームのベースは生クリームです。でもこのレシピは生クリームとマスカルポーネチーズを合わせてさらにメープルシロップを加えたスペシャルバージョンのクリームなのです。
若かりし頃に働いていたお店で「たくさんの種類のフルーツをマスカルポーネチーズを使ったクリームであえて、メープルシロップをかけて食べる」というメニューがありました。それをはじめて食べた時の衝撃たるや!それ以来、私はこの組み合わせの虜になりました。特に酸味のあるフルーツとの組み合わせが本当おいしいのです。
クリームが濃ゆいので、苺はガツンと酸味のあるものがおすすめです。イチオシは「あまおう」。味が濃く、甘味も酸味もしっかりあります。断面の赤色が綺麗なので、味も見た目も美しく仕上がります。「とちおとめ」「紅ほっぺ」なども相性がいいと思います。
ちょっと話がそれますが、日本の果物って世界一おいしいと思っています。こんなに果物全体のクオリティが高い国はない気がするんです。苺の品種も数えきれないくらいあって、自分の好みの苺が気軽にスーパーで入手できるって、本当はすごいことなんだと思います。
パンはごくごく普通の食パンでもいいのですが、パン屋さんで売っている「ホテル食パン」みたいなネーミングの、ふわふわでしっとりリッチなタイプだとさらにおいしくなります。厚さは8枚切りを使ってくださいね。
もちろんシンプルな苺のフルーツサンドだっておいしいです。でも、さらに上を行く、ヘブンリーな苺サンドを求めている方はぜひこのレシピを試していただきたいです。
「至福な」って書くのでもいいんですけどね。「ヘブンリーな」の方がおいしいものを食べた時の恍惚感がさらに出る気がして好きなんです。
苺とマスカルポーネチーズのフルーツサンド
<作り方>
1. ボウルに生クリームとグラニュー糖を入れる。ボウルの底を氷水につけながら泡立て、九分立てにする。脂肪分が高い生クリームは分離しやすいので、泡立てすぎに注意。
*泡立てがゆるいと、クリームがはみ出しやすくなります。
2. 別のボウルにマスカルポーネチーズとメープルシロップを入れて混ぜる。1を加え、均一になるようにゴムベラで混ぜる。
*泡立て器ではなくゴムベラで混ぜることで、泡立ちすぎを防止します。
3. 食パン2枚に2のクリームを薄く塗り、ヘタを取った苺を図のように5個ずつ対角線上に並べる。
4. 残りのクリームを半分ずつのせ、均等に広げる。残り2枚のパンをそれぞれにかぶせ、上から軽く全体をおさえる。ラップできっちりと包み、重ねた上面を手のひらでもう一度しっかり押して、パンと具材をなじませる。
5. 冷蔵庫で1時間ほどねかせる。
6. 好みで耳を切り落としてから、対角線に包丁を入れ、斜めに切り、さらに半分に斜めに切る。
<見た目を美しく仕上げるコツ>
*食パンの形によって、天地を少し長めに切り落とし、正方形に近づける。
*包丁を温めてから切ると、断面が綺麗に。
*切るときは「押して切る」ではなく「引いて切る」を意識。
*切るたびに包丁を布巾やペーパーで拭う。
最大の難関は生クリームの泡立ての見極め!
メープルシロップを最大限に入れたいので(メープルシロップは粘度が低く、どうしてもクリームがゆるくなりやすいのです。)生クリームはそこを補うようにかために泡立てます。
どのくらいかたくするか?これってマスカルポーネチーズの元々のテクスチャーにもよるんです。おそらく日本で一番メジャーであろうと思われる雪印メグミルクのもの(雪印北海道100 マスカルポーネ)はけっこうソフト。メープルシロップを大さじ2加えるとしたら、やはり生クリームは九分立てにしないとなりません。八分立てだと、最終的にはだいぶゆるくなります。こうなるとサンドするには不向き。私がいつも使うのはタカナシ乳業のもの(北海道 マスカルポーネ)。こちらはもう少しかためなので、生クリームは八分立てでも大丈夫です。クリームの出来上がりが少しかたすぎる場合はメープルシロップを適宜足してゆるめます。メープルシロップの甘味はソフトなので足してもそこまで甘すぎることはありません。
どちらにしても脂肪分の高い生クリームは七分立て以降は、混ぜるだけでも、どんどんかたくなるので、分離に注意してください。生クリームは温度が高くなると状態が不安定になりこちらも分離の原因になります。必ず氷水で冷やしながら泡立てます。生クリームは分離すると、元には戻せません。(こういう不可逆的が要素がお菓子作りには時々あります。そしてこれがお菓子作りを難しくしているなと思うし、そこがおもしろくもある、と感じます。)
そうなると「生クリームの分離が怖い」となりますよね。でも「メープルの風味は効かせたい」。そういう方は、メープルシロップ大さじ1で作って、出来上がったサンドイッチに追いがけしましょう。私は時々、大さじ2を入れても追いがけしています(笑)
もし分離してしまったら、逆に思い切り混ぜて、しっかり分離させて、フレッシュバターとして食べるのがおすすめです。出来立てをパンに塗って、苺を切って、のせて、メープルシロップをかけて食べてください!サンドではなくタルティーヌになりますが、これもまたおいしい。そんなわけで、仮に分離しても別のメニューとしておいしくいただけますので、安心して泡立ててください。
なんだかあれこれ書きすぎて「むずかしい雰囲気」を漂わせてしまいましたがそんなこともないのです。今回のレシピはこの泡立ての見極め以外には特に手ごわい箇所はありません。むしろ材料を揃えるのが一番の躊躇ポイントかもしれません。でも、一度食べたらまた作りたくなるおいしさなのです。これを食べた人は「え?何これ?すごくおいしいんだけど!!」とみんな言います。
マスカルポーネチーズもメープルシロップも風味がとってもやわらかなのです。見た目も味も苺のインパクトが強いのでさらに隠れがち。なので何が入っているかわからない。でも「これ普通の苺サンドじゃない。何か違う。何かが入ってる」とはわかります。ミルキーさとか、独特の香りとかそういうのが融合してこのクリームがフルーツサンドの土台を支え、奥行きを作ります。それによって苺の味がさらに引き立つのです。お菓子でも、料理でも、音楽でも、お芝居でも、はたまた人間関係でも、世界情勢でもバランスが大事だなって思います。そして土台が大事。土台が芳醇で包容力があると、主役はさらに引き立ちます。
ね、どんな味がするのか気になってきたでしょう?あなたもぜひ、このヘブンリーな苺のフルーツサンドをつくって試してみてくださいね。(ただ、あなたのヘブンリーと私のヘブンリーが同じとは限りませんが。)
苺の旬も、もうすぐ終わり。食べたい人はお早めに!
【Photos : Sayaka Sawada】
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