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洋梨追熟攻略マニュアル 〈菓子四季録 vol.7〉
菓子四季録では、グラフィックデザイナー 澤田清佳さんと一緒にお菓子のレシピをご紹介しています。ひとつのお菓子の魅力を、ふたりそれぞれの視点から綴る菓子四季録のマガジンページはこちら。今回紹介するお菓子は、追熟することで芳しい香りに包まれた洋梨と、ココア入りのしっとり生地を味わう「洋梨のアーモンドケーキ」。
最大のポイントはじっくり待つこと
今月の季節素材は洋梨です。毎年、長野に住んでいる友人が洋梨を箱で送ってくれます。そのときにいつも作っているお気に入りケーキがあるのです。おおよそのメモがあって、毎回それを見ながら作っていましたが、今回、メモをきちんとレシピ化しました。ケーキ自体はとってもシンプル。バターを泡立てて、グラニュー糖、卵、粉類を順に混ぜていく「シュガーバッター法」で作ります。バターをしっかり泡立てていくのが一番のポイントです。
ケーキにはアーモンドパウダーをたっぷり入れて作ります。見た目にはアーモンド感は全くありませんが、食べるとしっかり風味とコクを感じられます。そこにココアを加えてほろ苦さをプラスし、さらに旬の洋梨をたっぷりのせて焼き上げます。洋梨の芳醇でソフトな甘い香りが加わり、しっとりとしたケーキになります。
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アーモンドパウダーを使った焼き菓子が大好きです。フィナンシェ、アーモンドクリームのタルト、マカロン…。アーモンドをまるごと使ったお菓子より、パウダーが生地に配合されたものにとても惹かれます。アーモンドパウダー使ったお菓子はいろんなフルーツともよく合いますが、洋梨もそのひとつ。
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今回はすでにおおよそのレシピがあるので「試作はけっこうすぐに終わるのでは?」と思っていましたが、甘かったです。そう、実は今回一番苦労したのは材料準備。市場に出ている洋梨はかたいまま出回るので、追熟が必要です。そしてこの「洋梨の追熟」にかなり手こずり、2ヶ月くらいトライ&エラーを繰り返しました。情報を調べても出てくるのは一般的なものばかり。でも実際に自分でやってみると、意外と違うことも。そんなわけで、今回はその期間でわかったことをまとめて「洋梨の追熟マニュアル」として記事の後半にお届けします!
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洋梨のアーモンドケーキ(レシピ)
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材料(直径18cmの丸型1台分)
バター(食塩不使用) 100g
粉砂糖 110g
卵 100g
◯ 薄力粉 80g
◯ アーモンドパウダー 50g
◯ ココア 20g
◯ ベーキングパウダー 小さじ1
ブランデー 大さじ2
洋梨 1〜2個
(お好みで)ピスタチオ、粉砂糖 適量
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【作り方】
下準備:バター、卵を室温に戻す。◯をあわせてふるう。型にオーブンペーパーを敷く。オーブンを180度に予熱する。
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1.ボウルにバターを入れ、なめらかになるまでゴムベラで練る。粉砂糖を加え、ゴムベラで混ぜてから、白っぽくふわっとするまでハンドミキサーでしっかりと泡立てる。
*「バター+粉砂糖」でまずは十分に泡立てましょう。
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2.卵をよく溶きほぐして1のボウルに大さじ1〜2程度加え、一体感が出るまでハンドミキサーでよく泡立てる。卵を全て入れ終わるまで「大さじ1〜2程度加えて泡立てる」工程を繰り返す。
*一度に加える量が多いと分離の原因になります。
*十分に泡立てて、生地が馴染んでから次の卵を加えましょう。
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3.2のボウルに◯の粉類をふるい入れ、なめらかになるまでゴムベラで切るように混ぜる。ブランデーを加えて全体を混ぜ、生地を型に流し入れる。
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4.洋梨を縦に4等分または8等分し、皮と芯を取り除く。横に置いて7mm程度の薄切りにする(いちょう切り)。キッチンペーパーの上で水気を軽く切り、ケーキの上に放射状にのせる。
*洋梨の切り方はお好みで大丈夫です。
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5.180度に予熱したオーブンで50〜60分焼く。真ん中に竹串を刺し、生地がついてこなければ焼き上がり。型に入れたまま冷ます。冷めたら型から外し、好みで刻んだピスタチオを散らし、粉砂糖を茶こしでふりかける。
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ケーキ作りのポイント
ケーキをふんわり、しっとり仕上げられるかどうかはバターの泡立てにかかっています。まずはバターだけで泡立てて、さらに粉砂糖を加えてしっかりと泡立てます。泡立て前と後ではふんわり感が違うのがわかりますか?この泡立てが不十分だと、次に加える卵が分離しやすくなります。
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そして卵を加えるときは必ず少しずつ。大さじ1くらいずつ加えて、馴染んだら次の卵を加えます。冷えた卵は混ざりづらいので、室温に戻しておきます。そして100gをきちんとはかってください。これは卵の量が100gを超えると、途端に分離しやすくなるから(飽和点がそのあたりなんだと思います)。卵Mサイズ2個で大体100gなんですが、このレシピに関してはきちんと計量して入れるのをおすすめします。
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バターと砂糖を先に混ぜて泡立てて、卵を加えていく方法をシュガーバッター法といいます。バターケーキの基本的な作り方です。生地はどっしり、しっとり仕上がります。ケーキはベーキングパウダーの力で膨らみますが、バターをしっかり泡立てて、卵を乳化させながら加えることでしっとり感が生まれます。
アーモンドパウダーが入ることでナッティな風味が加わり、洋梨の芳醇さとよく合います。ココアを入れることで味わいがぐっとしまります。ピスタチオはオプションですが、この小さなグリーンは思っている以上に見た目に大きな影響を与えます(つまり、とてもかわいくなるということ)。
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洋梨の追熟の攻略マニュアル
さ、今回の難所「洋梨の追熟」について書きたいと思います。まずは洋梨という果物について。和梨は丸い形ですが洋梨はやや縦長のいびつな形。食感もシャリシャリした和梨とは異なりやわらかく、とろりとした舌触り。熟すと芳醇な香りが漂うのも洋梨の特徴です。そしてお店に並んでいる洋梨は熟していません。購入したら家での追熟が必要になります。
洋梨は「追熟が必要」、それは以前から知っていました。しかし、必要な期間に関してはかなり曖昧だったので調べてみました。
「洋梨は追熟が早く、買ってから4~5日以内に食べるのがおすすめです。」
「数日~1週間ほどが目安ですが、軸の周りを指でそっと軽く押して、やわらかさを感じたら食べごろです。」
「状態にもよるだろうが、2日~1週間ほどで食べごろになるとされる。」
「完熟までの期間は1~3日、長くても1週間程度が目安。」
「ふむふむ。じゃあ1週間以内には熟す感じね。」とこれらを読んだら、そう思うじゃないですか。でも実際に洋梨を買ってきて、熟すのを待ったら、なかなか熟さない(笑)1週間経ってもぜんぜん。「実は熟していたりして」と思って切ったら、味の薄い青りんごみたいなかたさと味わい(つまりおいしくない)。
そんな感じで追熟がうまくいかず、熟しきらずに途中で切ったものも多数。なかなか完璧な追熟をマスターできないので、何度も洋梨を買うことに。そうやって洋梨のヘービーユーザーになって気づいたのですが「洋梨ってどこでも売ってるわけじゃない」のです。普通のスーパーでもそうですし、百貨店のフルーツ売り場でも置いてある率は50%くらい。バナナやキウイみかんとは違います。旬のぶどうはどのスーパーにも並んでるのに、洋梨はあるところないところがけっこうある。そんなわけで、とにかく洋梨を見たら買う、という謎の生活へ。また、追熟研究が長期にわたったのでどんどん品種が切り替わっていきました。
追熟に関して気づいたことは以下です。
*追熟には日数が必要
私が購入し、家で追熟させた時の期間は短くて1週間、長いものは2週間くらいかかりました。菓子四季録を一緒にやっている清佳さんにも洋梨を購入してもらい、追熟期間を調べてもらいましたが同じような結果でした。
*りんごで追熟を促進できる
期間を短縮するにはりんごが有効です。洋梨は乾燥しないようにキッチンペーパーで包んでから、保存袋に入れます。そこにりんごを入れます。りんごから発生するエチレンガスにより追熟が促進されます(それでも追熟に1週間以上かかることがほとんど!そうなると洋梨が追熟される前にりんごがダメになることが多いので、そこは気をつけてください)。
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*デリケート
洋梨は少しでもぶつけると傷ができて、そこから傷みはじめます。全体は熟していないのにそこだけどんどん劣化してしまい、室温で放っておくと腐ります。こうなると、まだ追熟していない状態で食べるしかありません。どこかに落としたり、ぶつけたりした記憶がないのに傷ができていることもしばしば。熟す前のかたい状態でもけっこうデリケート。傷の対策としては、個別にネットに入って、守られているものを選ぶようにしました。追熟の期間もネットはつけたままで。
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*品種によっていろいろ違う
完熟時の甘さ、酸味、香り、やわらかさは品種によってだいぶ違います。サイズや形や色味も違いますね。個人的には1番扱いやすいかったのはバートレットです。早生の品種で甘味もありますが爽やかさもある品種。比較的かたさがあり、缶詰等の加工にも使われます。最初はグリーンですが、熟すと黄色になります(赤く熟すものもあります)。
あとは晩生のル・レクチェ。こちらは甘味も芳香も強い品種です。こちらも熟すると黄色になります。反してラ・フランスは熟しても大きく色が変わらず(黄色と黄緑の間のような色、または茶色)、素人には見分けがむずかしかったです。
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*やわらかさ
熟すと実がやわらかくなる、という知識はありましたが、実のやわらかさは桃のような感じではなく、ちょっとやわらかい、くらいなんですよね。まだ早いかな?と思いながら切ると、中はいい具合だったり。このあたりも慣れが必要な気がしました。
*置いてあるお店が限られる
洋梨って扱うのむずかしい果物なんだな、としみじみ感じて、取り扱いが少ないことも納得しました。置いてあるお店にはありますが、ないお店では洋梨が並ぶことはありません。取扱い品種も様々。ラ・フランスが最もメジャーでしたが、他の品種もたくさん見かけました。
そんな感じで、洋梨のお菓子を作るのに必要な「熟した洋梨を用意する」ことのハードルがかなり高いことが判明。気づいたことをまとめると以下になります。
*洋梨は必ず追熟が必要
*洋梨を扱ってないお店もけっこうある
*1番メジャーな品種はラ・フランス
*傷つくと傷むので大事に運ぶこと(ネットあり推奨)
*キッチンぺーパーに包み、保存袋に入れて室温に置いて追熟させる(日光は避ける)
*りんごを入れると追熟が早まる
*色が変わる / 少しやわらかくなる / 芳香がするなど何かのサインが出たらOK
*追熟までの期間は不透明(熟したらお菓子を焼こう、くらいの心づもりが必要)
*入手できない場合は缶詰の洋梨で代用可(そのときはフレッシュのものと同様に一度キッチンペーパーの上に置き水気を切る)
*もちろん、フレッシュの洋梨を使うと食感や香りがジューシーに仕上がる
*バートレットとル・レクチェが追熟の扱いが簡単な気がする(個人的な意見)
*洋梨を上手に追熟させるには慣れが必要
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追熟と私
2ヶ月くらい、洋梨の追熟を追いかけて気づいたのは自分のせっかちさでした。毎日「まだ?」「まだ?」「まだ?」と圧をかけながらチェックしても当たり前ですが洋梨には効かず。自分の力でコントロールできないこと「自然の流れには抗えない」の末端を洋梨の追熟でしみじみ感じました。
小説『赤毛のアン』の中にアンのこんな言葉があります。
Oh, Marilla, looking forward to things is half the pleasure of them.
「あのね、マリラ、何かを楽しみにして待つということが、そのうれしいことの半分にあたるのよ」
ルーシー・モード・モンゴメリ著 、村岡花子訳 『赤毛のアン』新潮社
自分の思い通りに行かないことに対してどっしり構えて待つことができるようになりたいものですね。そして、それを楽しめるようになったらどんなに素晴らしいか。でも、それにはあとどのくらい人間力が必要なんでしょう!(笑)そんな改めて「待つ」ということを考えた期間でした。
思い出してみれば、毎年洋梨のケーキを作るのはちょっと傷んでしまったとか、熟しすぎた洋梨のリカバリーだったんですよね。「追熟を待ってケーキを作る」よりも「熟しすぎた洋梨があったらケーキを作る」というのがいいのかもしれません。
洋梨は9月から12月頃まで長い間楽しめるフルーツです。ぜひ熟した洋梨があったら、または上手に洋梨を追熟させてこのケーキを作ってみてくださいね。
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【Photos : Sayaka Sawada】
同じレシピをグラフィックデザイナー 澤田清佳さんが絵で紹介しています。絵のかわいさもさることながら、手順の流れがとってもわかりやすいです。個人的にはイラストで全体を把握し、写真で詳細を確認していただくのがおすすめです。
今回の清佳さんの注目点は境界線と品格。ふかふかのオーダメイドソファ(ボタンはグリーン)に鎮座する洋梨という比喩がストライクすぎました。そして私もこのケーキは洋梨とケーキの交わる部分が最もおいしい部分だと思います。今回私は「追熟」にかなりの文字数を割いていますので、ぜひ彼女の記事でケーキ自体の描写を味わってくださいね。
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